第74話 遥かなる王城への道
「はえー、すっごいなぁ」
王都に入ってすぐに僕は王都の人の多さと建物の立派さに口をあんぐりと開け、間抜けた顔を晒していた。
都を歩く人たちはそんな僕のような田舎者の姿には慣れっこなのか、無関心に通り過ぎていく。
「領都も立派な建物が一杯でびっくりしたけど、ここはそれ以上だ」
門からずっと続く長く広い道は綺麗に石畳が敷かれていて、貴族の立派な馬車や商人の馬車が轍の音を響かせ走って行く。
それ以外にも小型の馬車が、時折道の脇に駐まっては、客を乗せて走り去る。
王都はかなりの広さがあるために、目的地によっては徒歩ではかなり時間が掛かるのだろう。
「さて、お金ももったいないし歩いて行くかな」
広い道の左右には数階建ての立派な建物が立ち並んでいて視界が遮られている。
だけどそんな状況でも三つほど大きな建物ならそこからでも見ることが出来た。
「えっと一番大きなあれが王城で、多分あの白くて天辺に教会の印があるのが大聖堂かな?」
残る一つは何だろう。
他の二つに比べると高さは無いものの、それでも王都の他の建物よりは高く立派な建物だ。
「あの、すみません」
「ああん?」
気になった僕は側を歩いていたおじさんに声を掛け、その建物について聞いて見た。
最初こそ怪訝そうな顔をしていたおじさんだったが、僕がお上りさんだとわかると不思議と親切に答えてくれた。
「あそこは貴族院だよ。この国の貴族様が集まって色々なことを決める会議をしたり悪巧みをしたりする場所さ」
「悪巧み……ですか?」
「おっと、もし貴族様と話をすることがあっても俺がそんなことを言ってたとか言わないでくれよな」
おじさんは冗談めかしてそう言いながら手を振って去って行く。
僕はその後ろ姿にお礼を言って頭を下げると、貴族院を見る。
おじさんの話を聞いてから改めて見直すと、遠目でわかりにくいものの王城や大聖堂に比べて装飾が多く、かなり豪華な造りだと感じた。
「さてと、じゃあまずは王城へ到着したことを知らせに行くんだっけかな」
鞄から一枚のメモを取り出す。
そこには領都を出る前にギルマスやルーリさん、それにケリー・ダイト氏やターゼンさんたちと話し合って作り上げた予定が書かれていた。
まずは王城。
そして次に行くのはダイト商会の王都支店。
ダイト商会には既に先に王都で僕の世話をするようにとの連絡が行っているはずだ。
本来なら招待した王国側が宿などは用意して当たり前だ。
しかしかつて同じように呼び出されたギルマスの「彼奴ら人のこと呼び出しておいて何もしてくれなかったぜ」という言葉で方針は決まった。
メモを元のように仕舞う。
王城の場所はこの広い王都の中心で、目の前の道の真っ直ぐ先に見えている。
だけど実際の王城へは真っ直ぐ道を進んでもたどり着けないようになっているらしい。
何故かと言えば、もし敵国に責められた時に真っ直ぐの一本道ではすぐに王城にたどり着かれてしまうからだ。
といっても、そもそも王都を守る外壁を墜とされてしまえばその時点でほぼ負けは決定しているだろうけど。
だが籠城している間に援軍が来るかもしれない。
そのためにはすぐに王城を攻め落とされるわけにはいかないということなのだそうだ。
「色々ギルマスが教えてくれたけどもう忘れちゃったな。しかしそのせいで見えてる王城になかなかたどり着かないや」
王都に着いてからかなりの距離を歩いたが、一向に王城が近づかない。
思った以上に王都の中は道が入り組んでいて、それも侵入者対策らしいが。
おかげで少し進んでは人に道を尋ね、また歩いては尋ねを繰り返す羽目になり。
「門の所で馬車を拾うのが正解だったみたいだね」
そんな後悔も後の祭り、ここまで歩いてきて今更馬車を拾うのも癪だ。
それに、かなり王城には近づいているはずで、ここで馬車に乗っても馬車の人に良い顔されないのでは無いかと考えてしまう。
「さっきの人に画いて貰った地図だともうすぐのはずなんだけど……あの大通りかな?」
無駄に時間が掛かった理由の一つに、道を聞いた相手がいわゆる『裏道』を教えてくれたせいもあった。
普通に大型の馬車が通る大通りを歩いていればそれほど迷わなかったかもしれない。
だけど小型の馬車がやっと通れるような道を教えられてしまい、結局は道を間違って遠回りしてしまうはめになった。
しかも王都とはいえ裏通りには変な輩もうろついていた。
「もしかするとあの道を教えてくれた人って、あいつらの仲間だったりして」
教えて貰った道の通りに進んだ先で、十人ほどの見るからに柄の悪い連中に絡まれたのだ。
面倒だったのでゴブトを召喚して、武器を使わず排除させたけど、あの程度なら僕だけでも勝てたかもしれない。
「被害は無かったから良かったけど、お上りさんを狙ってあんなことやってるやつも居るってことは覚えておかないとね」
そう独り言を口にしながら大通りに駆ける。
たどり着くまでの間、その大通りを貴族の馬車らしい無駄に豪奢な馬車が何台か通り過ぎていくのを見た。
「あった! 王城の正面玄関だ」
路地から大通りに顔を出し、貴族の馬車が向かっていった方向を見るとそこに巨大な王城と、その正面玄関であろう立派な門を見つけることが出来た。
朝早くに馬車駅に着いて既に陽は頭の上まで上っている。
早くしないと今日の予定をこなせなくなりそうだ。
「急ごう」
僕は王国から送られてきた書状一式の入った鞄を胸に大事に抱きかかえる。
そして王城の正面玄関の門へ向けて走り出したのだった。
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