第9話 ゴブリンテイマー、二匹のステータスを確認する

「ゴブト、ゴブナ。それにお前たち。そいつらは殺さないで捕らえてくれないか」


 二匹と、男たちを包囲したゴブリンたちにそう声を掛けると休憩所の椅子に座り戦場を眺める。

 僕と男たちの間にはゴブトとゴブナ、そして何匹ものゴブリンが立ち塞がっているのだ。

 先ほどまでの戦いを見る限り、男たちがそのゴブリンたちに勝てる可能性はほぼ無いだろう。


「さてと」


 僕は男たちの前に立ち塞がるゴブトに僕は意識を集中させる。

 テイマーは自らが使役する魔物の簡易的なステータスを見ることが出来るのだ。

 もし彼の体力や魔力が低下していたなら、回復させないといけない。


「回復は……必要なさそうだね」


 僕の頭に浮かんだゴブトのステータスはこうだ。


*********


名前 :ゴブト

種族 :ハイゴブリン

クラス:ゴブリンウォーリアー

体力 :98/110

魔力 :10/24


*********


 ゴブトのクラスは『ゴブリンウォーリアー』。

 そして、種族は『ハイゴブリン』と表示されている。

 そう。ゴブトはただのゴブリンでは無く、進化したゴブリンなのだ。

 魔力が減っているのは、ゴブトが体強化魔法を発動しているせいだろう。


「ゴブトがつかえるのはあの魔法だけだけどね」


 ゴブリンは進化することにより魔法が使えるようになる。

 これは他の種族でも同じような物だが、それでもゴブリンが進化するなんて話は誰も聞いたことが無いはずだ。

 なぜなら通常自然界にいるゴブリンは、進化する前に死んでしまうのが普通だからである。


 さて、もう一匹のゴブナのステータスも見てみよう。


*********


名前 :ゴブナ

種族 :ハイゴブリン

クラス:ゴブリンメイジ

体力 :28/64

魔力 :110/128


*********


 ゴブナも『ハイゴブリン』であり『ゴブリンメイジ』に進化している。

 名前の通り魔法を主とするクラスである。


 通常テイマーがテイムした魔物は、エネルギー源を主の魔力に求めるようになる。

 そして、それに合わせ自然界での状態から魔物は微妙に変化するのである。


 例えば人間にテイムされたドラゴンは、本来の無限に近い寿命がかなり短くなるという研究結果がある。

 逆に本来は短い寿命しか持たないスライムやホーンラビットなどの小型魔獣の寿命は、主と同じ程度まで伸びるらしい。


 そう。

 つまり僕にテイムされたこのゴブリンたちは、通常数ヶ月しか無い寿命が一気に数十年まで伸びているということである。


 しかし寿命が伸びたとしても、テイムしたばかりのゴブリンの弱さは変わらない。

 それでいてゴブリンが進化するまでかかる時間はスライムの何倍もかかるのだ。

 なので、テイムスキルを得た誰もがゴブリンには見向きもしなかった。


「僕だけはそれが出来なかったんだよな」


 なぜなら僕が得たスキルは、ゴブリンしかテイム出来ない【ゴブリンテイマー】だったからだ。

 他のテイム能力を持つ人たちが、どんどん強力生物や便利な力を持つ魔物に乗り換えていく中、僕だけが一人ゴブリンを根気強く育て続けるしか無かった。


「結果的にはその御蔭で僕はゴブリンたちの本当の力を知ることが出来たから、今では女神様には感謝してるけどね」


 そりゃあこのスキルを授かった当時は、もちろん女神様を恨んだけれどさ。


「しかしゴブナの体力がさっき見た時より減ってるな」


 最初の矢で受けた傷のせいで体力がかなり削られているが、最初の攻撃で死んでいないことはステータスを見ることが出来る僕にはわかっていた。

 なので敵が見えないうちに動くのは危険だと、僕はあえてゴブナに死んだふりをしているようにと念波で伝えたのである。


 しかしゴブナが怪我をしていて、ゆっくりと体力が削られていっているのは確かだ。

 一応【テイマースキル】を使えば体力を回復することも可能だが、今はそれよりも早めに奴らとの戦いにケリを付けて、その後治療できるテイマーバッグの中で休ませたほうが早く済みそうだ。


「一気に決めるよ」


 そう言って僕は体内に残っている魔力を利用して二匹に補助魔法を掛けた。

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