暴食の大盾使い

風間 シンヤ

クビ宣告と出会い

「カリン……すまない。俺達ではお前をどうにかする事は出来なかった。悪いが……」


「はい。分かっています。今まで大変お世話になりました」


もう何度目か分からないパーティークビ宣告を受け、冒険者で職業「大盾使い」のカリンは最早涙も縋りつく事もせずに頭を下げてパーティーから去って行った。



「申し訳ありません。ファナさん。せっかく紹介していただいたんですけどやっぱりダメでした」


カリンはもう慣れてしまったパーティー脱退手続きを、いつも対応してくれている冒険者ギルドの受付嬢ファナにお願いした。ファナは困った表情でカリンを見る。


「ごめんなさい。また不快な想いをカリンちゃんにさせてしまったわね」


「いえ。いいんです。むしろ、今回のパーティーは対応がいいぐらいです。それに……問題が私にあるのはよく分かってますから……」


カリンは自身のステータス欄を眺めて溜息をつく。そのステータス欄には


カリン

職業:大盾使い

HP:100

MP:50

攻撃力:0

防御力:0

魔力:0

素早さ:0


体力を表すHPと、魔法や技使用するのに必要なMP以外のステータス数値が全て0。それがカリンの現在のステータス。カリンは現在16歳。冒険者活動を始めて1年経過しているが、未だにステータス値が上がらないのである。

  実際、「大盾使い」は防御力以外のステータスは低い傾向にあるが、その肝心の防御力ですら0である。それでも、鍛えれば0からでも上がるものだが、カリンは1年間冒険者活動を続けていても全くステータスが上がらなかったのである。故に、カリンはもう何十ものパーティーからクビ宣告を受けた。中には、カリンの弱さを散々嘲笑ってクビにしたパーティーもいた。



「ファナさん。本当に私の職業は「大盾使い」で合ってるんでしょうか?」


カリンは正直何度目か分からない疑問を口にする。冒険者には様々な職業が存在する。カリンの「大盾使い」もその職業の一つである。冒険者は誰でもなれる訳でなく、15歳以上の者が、まずは冒険者の適応を調べ、適応されれば晴れて冒険者となれる。

  そして、冒険者になって次に行うのが職業選びである。様々な職業がある中で、希望があればその希望の職業を選べるが、特になければ、冒険者ギルドが調べてその人に合う職業を選んでくれる。

  カリンは特に希望らしい希望はなかったので、ギルドにお任せして選ばれたのが「大盾使い」である。しかし、未だにステータスが向上しない現状に、カリンはもしかしたら自分は違う職業が向いてるんじゃないかと訴えたのだが


「前にも言ったし、今日も調べたのだけど、やっぱりカリンちゃんの最適職業は「大盾使い」よ。それ以外の職業はみんな最悪と出てるもの……」


「そう……ですか……」


困った表情でそう答えるファナにカリンは俯く。もうここが潮時かもしれない。冒険者を夢見て田舎を飛び出し、冒険者達が盛んに活動しているこのグランコクマにやって来た。だが、冒険者にはなれたものの、全く強くなれず、嘲りと憐みの視線を向けられる毎日。1年間、憧れだけの心で頑張ってきたがもうカリンの心は限界だった。


「ファナさん……私……冒険者辞めます……今までお世話になって恩も返せずに申し訳ありません」


カリンの決断に、ファナは寂しそうに微笑みつつも、それがカリンの為かとも思った。受付嬢やギルド職員も皆カリンを影で嘲笑っている者がいる。これ以上彼女の心を傷つけない為にも、ファナはカリンの冒険者辞退の手続きを行おうとして



「ちょっ……!?ちょっと!?お待ちください!!?」


冒険者ギルド内にそんな声が響いて、カリンを含めた皆が声がした方を振り向く。そして、振り向いた瞬間に皆その人物に釘付けになる。

  真っ白な髪……いや、よく見ると真っ白に見える美しい銀色の長い髪を靡かせた美しい女性がそこにいた。真紅の瞳に、桜色の唇。髪に合わせた白い色の高級そうなローブその女性の美しさをよく引き立て、まさに人間離れした美しい容姿の女性だった。

  その容姿に男性のみならず、女性陣も見惚れてしまっている。現に、カリンも目の前にいる女性に言葉を失い固まっている。自分とは比べ物にならないぐらいのその女性の美しさに。


  だが、カリンは更に驚く事になる。その女性は自分を見て、その白い頬を紅潮させ、感極まって涙を流すようにカリンを見つめているのだ。それはまるで、遠く離れた恋人にやっと再開出来たような……


「あぁ……!?やっと……!?やっとお会い出来ました……!?私のご主人様……!!?」


女性はそう言ってカリンに飛びついて抱きしめた。突然の出来事にカリンは訳が分からずひたすら困惑し、呆然と女性に抱きしめられながら立ち尽くすしか出来なかった。

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