第32話 VS双子の聖十騎士①
「これが転送陣か」
先ほどの聖十騎士グレイソンを倒し、オレはアリア達と共に部屋の奥にあった転送陣の前へと移動する。
「そう。制限が掛かってなければここから好きな階層へいけるはずよ。けれど、アタシ達がここへ来た以上は転移陣に妨害がかかってると見るべきでしょうね」
「となる行ける階層は限られるってことか?」
「そうなるわ。恐らく、次の聖十騎士が待つエリアにしか転移できないはずよ」
なるほど。だが、確かにその方が向こうとしても万全の状態で待ち構えることができるので悪くはない計算か。
「ようは転移の度に残る聖十騎士を倒せば最上階に行けるってことだろう。簡単だぜ」
「よく言うわね。けれど、それを本当にできそうなのがアンタだから怖いわ」
アリアの軽口を受け止め、オレは彼女達を連れて転移陣の上に乗る。
瞬間、転移陣が輝きオレ達の姿が消える。
そして、次に目を開くとそこに映ったのは先ほどとは異なる階層。
周りには様々な彫像が飾られており、さながら美術館のような美しい光景が広がっていた。
さて、次なる聖十騎士は誰かと身構えた瞬間――
「ああ、来た来たアルー!」
「本当ネ。やっぱりここで準備していて正解アル! あんなグレイソンのおじさんじゃ、ブレイブお兄さんは倒せないと思っていたアルよー!」
「!? この声は!?」
空間に響く二つの幼い声。
すると目の前にあった彫像が頭から真っ二つになると、その向こう側に隠れていた二つの小さな影が姿を表す。
「久しぶりネ、ブレイブお兄さん」
「お待ちしていたアルよ」
「ルル、それにネネか」
そこにいたのは以前ドラゴン退治で出会った双子の獣人姉妹、ルルとネネであった。
なぜ彼女達がここへ?
疑問に思うオレに答えたのは隣にいたアリアであった。
「真人。油断しないで。あいつらは聖十騎士のルルとネネ。ああ見えてアタシよりもずっと古参の双子よ」
「え!? あの二人が!?」
アリアの思わぬ一言に動揺するオレであったが当の双子はそんなオレの狼狽を楽しむように告げる。
「そうそう、そっちのアリシアちゃんの言うとおりアルよ。お兄さん」
「私達は獣人族。普通の人間よりも倍近い寿命を持っているネ。だから、見た目通りの年齢ではないアルよー?」
そういうことか。まったく騙された。
ここに来て、どうしてあの時オレが見逃したドラゴンが殺されたのか。そして、なぜオレが止めを刺さずに帰ったことが統括達にバレていたのか。その理由に合点がいった。
この双子、どうやら見た目以上にしたたかなようだ。
「さてと、お兄さん達がここに来た以上は私達がお兄さん達を処分するアル」
「そういうことネ。聖十騎士団、それも二人が相手アル。言っておくけれど、私達双子の実力をこれまでの連中と同じと考えない方がいいアルよ」
「そうかい。そりゃ、ご忠告どうも!」
二人がそう告げると同時にオレは二人が武器を構えるより速く『真名スキル』加速を使い、一気に二人の元へと駆け出す。
いくら二人が強いといっても、この加速はあらゆる身体能力を倍以上にあげることが出来る。
人間の能力値では限界とされる速力999の壁も、このスキルを使えばその倍、そのさらに倍、そのまた倍と四桁、あるいは五桁の領域へと踏み込める。
それこそがオレが光の速度に近づけた理由。
相手に構える隙を見せず、このまま一気に『花火一閃』で決着を付ける。
そう思い、双子の眼前に迫った瞬間、オレは双子の顔に不気味な笑みを見た。瞬間、オレの背筋にえも言えぬ悪寒が走る。
「ッ!?」
オレは即座に双子の接近するのをやめ、思いっきり後方へと下がる。
瞬時にアリア達の傍まで下がったオレにアリアが「ど、どうしたんだ!?」と声をかける。
「あ~あ、惜しいアル~。やっぱお兄さん、只者じゃないアルね」
「本当ネ。そのまま私達に向かってたらお兄さんバラバラになっていたアルよ。むしろ、よく寸前で気づいたネ」
双子の無邪気な声が響く。
オレは知らず頬に手を当てる。そこにはぬるりとした感覚と共に流れる血があった。
再度オレは双子の周囲を注意深く観察する。
すると、そこにはとんでもないものが張り巡らされていた。
糸。
それもおそらくは鋼鉄の――いや、もっと特殊な材質で出来た白銀の糸。
それらがまるで蜘蛛の糸のように双子の周囲に設置されていた。
「これ魔獣スパイダークイーンの魔糸を編んで作られた特殊な糸アルね」
「私達姉妹は各地を巡り、様々な武器や防具、アイテムを収集しているアル。けれど、時には自分達で倒した魔物を材料に伝説級の武器も作っているアル。これはその一つアル。素手で触るだけで指先が切れるネ。ましてやさっきのお兄さんの速度で突撃してきたら、お兄さんの体はそのままバラバラだったアルよ♪」
笑顔でとんでもないことを告げる双子。
だが、こいつは厄介だ。見ればこの空間にいたるところにあの糸が張り巡らされている。
おそらくはオレの『加速』を警戒してのトラップなのだろう。
だから、あえて双子はこの場所で待ち構えていたのか。
予想以上の用意周到さに冷や汗を流すオレだが、ならば正攻法で挑むだけだ。
そう思って武器を構え、オレのとなりでもアリアが剣を抜く。だが――
「ああ、ダメダメ。ダメアルよ。そんな武器を私達に向けたら~」
「そうネ。言わなかったアルか? 私達は騎士であると同時に商人。商人に取ってなによりもの武器はアイテムそのもの。私達の『真名スキル』がなにか教えてあげるアル」
瞬間、空気が震えた。
なんだ。この感覚は? 武者震い? 見るとオレの両腕が震えている。
いや、違う! これは!? この震えているのはオレではない!
見るとアリアの両腕も同様に震えている。
そして、その発生源はオレとアリアが握る互いの剣。
『真名スキル! 千却卍礼(せんきゃくばんらい)ネ!』
双子がその名を告げると同時にオレとアリアの手に持った剣が同時に弾かれ宙に浮く。
それだけでなく、オレ達の剣がそのまま意思を持ったかのようにオレ達を攻撃し始めた。
「なっ!? なんだこれは!?」
「武器が勝手に動いてアタシ達を狙っている!?」
驚くオレ達に双子は「くすくす」と笑いながら告げる。
「これが私達のスキルアル。この世に在るありとあらゆる武具、私達が知るアイテムを私達は自在に操ることが出来るアル」
「それこそ生き物のように意思を宿させ、私達の命令に従うよう出来るアル。ちなみにブレイブお兄さんが持っているのは何の変哲もないロングソード。アリシアお姉さんが持っているのは聖十騎士特製品のミスリルソード。どちらも私達にとっては見知った平凡な武器。その程度のアイテムは見るだけで一瞬で支配出来るアル」
そういうスキルか!? とんでもないな!
アリスといい、さっきのグレイソンといい、真名スキルには命を与える効果もあるようだ。
いや、あるいはそれこそが真髄か。
アリスの『雷龍鞭』も彼女が自らの手で葬った龍をスキルとして昇華したと告げていたし、彼女達が各国を商人として本当に渡り歩いていたのなら彼女達が見てきた武器、防具、アイテムの数は膨大の一言に告げるだろう。
誰よりもアイテムに触れ続けたが故のこのスキルか。
関心しながらもオレは自らの心臓を狙ってきた武器をやむなく破壊する。
「くっ! 武器が操られるというのなら、お前たちに操れない武器を生み出すまでだ!」
一方のアリアはその手に直接『命の剣』を生み出し、向かってきたミスリルソードを破壊する。
それにはさすがの双子も感嘆の息をあげる。
「わお、さすがアルね」
「確かにスキルによって生み出されたその剣はアイテムというよりスキルそのもの。私達でも操作できないアル」
けれど、と彼女達は告げる。
「言ったアルよね。私達はこの世界の各地を渡り歩いてきた聖十騎士」
「普通の聖十騎士はこの聖都を守護するために駐屯するアル。けれど、私達の任務は主に各国を渡り歩くこと。それは情報収集や偵察、様々な任務のためアルけれど、一番はこれアル」
そう告げた瞬間、彼女達の背負っていたバックパックがどさりと床に落ちる。
瞬間、その中から現れたのは千を超える――いや、万を超える武器の数々。
「この世界に存在する数々の魔剣、名刀、聖剣、武器。それらを回収するためアル」
「私達の強さは所有する武器が多ければ多いほど強まるネ。無論、その武器が本来持つポテンシャルも限界まで引き出せるアル」
見るとそれらの武器の中には明らかに特殊な魔力を帯びたものがあり、一人でに炎を放ち、氷を纏い、風を操り、重力を操作する武器まであった。
おい、冗談じゃねえぞ。さっきのオッサンなんかよりも、こいつら双子の方が遥かにチートだろう。
「さて、それじゃあ始めるアルよ。もっとも――」
「ここからは一方的な虐殺アル!」
双子のその宣言と共に万を超える武器の数々が一斉に意思を持ち、オレ達へと襲いかかった。
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