第22話 アリア
「あ、あの……ブレイブさん……お願いがあるんですけど、いいですか……?」
「ん、なんだ? 行きたい場所でもあるのか?」
「そ、その……海に、海に行きたいんです!」
「へっ?」
その日、突然オレはシュリからそう宣言される。しかし、それを口にした直後、シュリはすぐに「はっ」とした様子で落ち込み出す。
「や、やっぱりダメですよね……。先日、街中で襲われたのに……海に行きたいなんてわがままが過ぎますよね……ご、ごめんなさい……。今のは聞かなかったことにしてください」
「いやいや! そのことなら気にしなくていいって言っただろう。それにシュリの頼みを聞くのはオレの任務の内なんだ、遠慮せずドンドンわがままを言ってくれよ」
「そ、それじゃあ――!?」
期待に目を輝かせるシュリを見た瞬間、オレの中から断るという選択肢はなくなった。
「ああ、海だろう。行こうか」
「ほ、本当ですか!? や、やったー!」
◇ ◇ ◇
「さて、海への行き方だけど……一度この聖都から馬車にのって港町に行く必要があるな。港町までは片道で三日くらいだけど、その間シュリは大丈夫か?」
「はい! もちろんです! 旅にはなれてます。故郷からこの聖都に来る際も数日以上は馬車に乗っていましたから」
「はは、なら大丈夫だな」
そう言って荷物をまとめたシュリと共にオレは予約していた場所乗り場へと向かう。
が、その途中でオレは草むらより、こちらを見つめる視線に気づく。
「……シュリ、オレの傍を離れないでくれ」
「え? は、はい。分かりました」
「おい、そこに隠れている奴。出てきたらどうだ」
以前と同じようにシュリを狙う奴かと警戒していたが、草むらから姿を現したのは意外な人物であった。
「あっ……!」
「お前は……!」
「……久しぶりね」
そこに映ったのは赤い髪の気の強そうな少女。
確か以前オレがクレープを買った際に口論になったあの少女だ。
「なんだ君か。一体何の用――」
「わ~~! 久しぶり~! こんなところでどうしたの~!?」
「わっ、ち、ちょっと、シュリっ!?」
オレが声をかけるより早く、隣にいたシュリが赤い髪の少女に抱きつく。
少女は困惑した様子でシュリを引き剥がそうとするが、シュリはそれに構うことなく頬ずりなどしている。
な、なんだ、知り合いか?
「えっと、シュリ。その子、知り合い?」
「え? あ、はい、そうですよ。というか、この子はアリ――」
「あ、アリア! アタシの名前はアリアよ!」
シュリの紹介を遮るように少女――アリアはそう叫ぶ。
そうか。アリアというのか。そういえば名前はまだ聞いてなかったな。
「? どうしたの? アリ――」
「だから、アリアって言ってるでしょう! シュナ~! アタシはアリアよ~!」
「ひゃ、ひょうだね~、わ、わかったよ~、アリアちゃん~」
見るとシュリの口の端を両手で広げているアリア。というか、おい。巫女になんてことしてるんだ、お前。
思わずそう言ってアリアを止めに入るが、当のシュリは笑顔のまま、それを制する。
「あははは~、気にしなくても大丈夫ですよ~、ブレイブさん~。私、アリアちゃんとは昔からこんな感じですから。というか、村でも私にこんな風に友達として接してくれたのはアリアちゃんだけだったから」
「そうなのか? というか二人は同じ村の出身なのか?」
「はい! アリアちゃんは私の唯一の友達なんです!」
そう言ってシュリはアリアに自分の腕を絡ませてニッコリと笑顔を向ける。
一方のアリアは恥ずかしそうに腕を振り払おうとするが、まんざらでもない様子でシュリの手を握っている。
「そうか、幼馴染ってやつか」
オレはそんなシュリとアリアを見て、かつての自分達――オレと花澄、湊、壮一達の関係を思い出した。
「それにしてもいきなりどうしたのアリアちゃん? お仕事とか大変じゃないの?」
「そ、それはその……シュリのことが気になって……」
もごもごとなにやら顔を赤くして呟くアリア。
さては幼馴染が気になって様子を見に来たというやつだろうか?
それにシュリも気づいたのか「それじゃあ!」と何かを閃いたように両手を叩く。
「じゃあ、アリアちゃんも一緒に海に行こうよ! 海!」
「へっ!? 海!? それって今から!?」
「そーだよ。ちょうど今からブレイブさんが海に連れて行ってくれるの。だから、アリアも一緒に海に行って泳ごうよ!」
「いや、アタシは……別に……」
「というわけでブレイブさん。アリアちゃんも一緒にいいですか?」
「え? まあ、オレは別にいいけど」
「ち、ちょっと! アタシは行くなんて一言も言ってないわよ!」
「またまた~、そんなこと言わずにアリアちゃんも一緒に行こうよ~!」
「ちょっ、引っ張んないでよ! わ、分かった! 行くわよ! 一緒に行くから、せめて自分で歩かせてよ~! シュリ~!」
そうして半ば強引にだが、シュリの幼馴染だというアリアを伴い、オレは彼女達二人を連れて海がある港町へと向かうのだった。
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