第18話 ドラゴン殺しの英雄

「そういえば、あの双子はどこに行ったんだ?」


 洞窟を出て、入口の近くを調べたが双子達の姿はなかった。

 無論、洞窟を出る際に来た道を探していたが会うことはなかった。

 てっきりドラゴンの恐ろしさに洞窟の入口で待っているものとばかり思ったのだが。


「まあ、見捨てるのも後味が悪いし、近くを探してみるか」


 そう思って周囲を散策しようとした時――


「おーい!」


「ブレイブお兄さんー!」


「ん?」


 洞窟の方から声が聞こえる。振り向くとそこには例の双子が立っていた。


「あれ、お前たち。一体どこにいたんだ?」


「えへへー、実はあのあと、ドラゴンに吹き飛ばされた岩の後ろに隠れていたアル」


「けど、お兄さんが洞窟を出るのを見たので、私達も慌てて後ろをついてきたアル」


「そうだったのか。気づかなかったよ」


「それよりも、お兄さんが無事ってことはドラゴンは倒したアルか!?」


「すごいアルー! さっすが特級騎士様アルー!」


「あ、ああ、まあな……」


 本当は止めを刺してはいないが、そのことはこの子達に教えるべきではないだろう。

 オレは曖昧に答えながら、二人に怪我がないのを確認する。


「それでブレイブお兄さんはこれからどこに行くアルか?」


「そりゃ、聖都に戻るさ」


「それもそうアルなー!」


「なら、私達も一緒についていくアルー!」


「え?」


 思わぬ提案に驚くオレであったが、双子はまた例のごとくオレの両脇に移動し腕を絡ませてくる。


「別にいいアルよねー? 私達もちょうど聖都に戻るところだったアルから」


「特級騎士様が一緒に居れば、護衛としても安全アルー。あと馬車代もおまけしてくれるアルよー」


「はは、さすがそういうところは商人だな。ちゃっかりしているというか」


 とはいえ、断る理由もないのでオレは双子を伴い聖都に戻るのであった。


◇  ◇  ◇


「わーい! 久しぶりの聖都アルー!」


「うーん! やっぱりここの空気は美味しいアルネー!」


 あれから馬車を拾ったオレは双子を伴い聖都へと帰還した。

 途中これといったアクシデントもなく無事に到着。

 聖都に着くなり、双子の獣人ルルとネネはまるで水を得た魚のように活き活きとし出す。


「さてと、それじゃあ聖都についたことだし二人とはここでお別れでいいかな?」


「もちろんアルー! 私達も聖都でやりたいこと色々アルネー!」


「まずは帝国土産の商品で聖都の連中をぼったくるアルー!」


 なんだか物騒なことを言っているがあえて聞かなかったことにしよう。


「そうか。まあ、あんまり派手にやり過ぎないようにな」


「はいなー!」


「ブレイブお兄さんもここでありがとうネ! 縁があったらまた会おうネー!」


 そう言ってオレは双子達と別れる。

 その後、オレはそのままアリスに提供された自分の館に戻る。

 するとそこにはまるで待ち構えていたかのようにアリスが立っていた。


「やあ、ブレイブ君。待っていたよ」


「……アリスさん」


 オレは笑顔を浮かべる彼女を見て、視線を逸らす。


「それで例のドラゴン退治なんだけど――」


「ええ、わかっていますよ。オレはどんな罰でも甘んじて……」


「いやあ! さっすがブレイブ君だねー! 一人でドラゴンを倒すなんて! 君のおかげでこの国のマナの総量も増えたよ。無事、任務達成ということで君の正式に『特級騎士』として認められたよ」


「!? なんだって?」


 アリスの思わぬ発言にオレは驚く。

 が、彼女はさも当然のように続ける。


「ん、どうしたんだい。そんなに慌てて? すでに騎士ギルドの方でも君が向かったアエーレ山脈でマナの放出を確認している。聖十騎士含む騎士団にはすでに私から与えた任務として君が遂行したと報告しておいた。これで実績も示せたわけだし、君が聖十騎士団の仲間入りするのも遠い話じゃないかもよー? あ、ちなみに騎士団の方ではもうすでに君の成果として認められているから、その収納袋はそのまま君にあげるよ。中身も含めて好きに使っていいから」


「ま、待って……待ってくださいよ! アリスさん! 確かにオレはドラゴンと戦い、勝ちました。けど、オレは――!」


「ブレイブ君」


 思わず真実を告げようとした瞬間、それを制止するように背中を向けたままのアリスが告げる。


「君は私の命令通り、ドラゴン退治の任務を遂行した。それでいいんだ。“真実”がどうあれ、ドラゴンは死にマナが満ちた。その結果さえあれば十分だよ。たとえ、君の収納袋になにも入っていなかったとしても」


「…………」


 アリスのその言葉にオレは声を失う。

 見透かされている。

 確かにオレはドラゴンを倒したが、止めは刺さなかった。

 しかし、あの場所で大量のマナが溢れたということは、あの死にかけのドラゴンを誰かが殺したということ。

 それは一体誰なのか?

 もしかしたら、アリスが保険としてオレの他に騎士を送り込んでいた可能性が高い。

 オレが失敗しても、そいつらに後始末をしてもらうよう。あるいはオレが止めをさせなかった時の保険にか。

 無論、これは想像にしかすぎないが、結局はオレ自身の甘さを露呈しただけの結果となった。

 そのことを少なくとも目の前に立つ聖十騎士アリスは見抜いている。

 なんとも言い難い感情に苛まれるが、そんなオレに視線を送りながらアリスは告げる。


「けどまあ、君の強さは本物だよ。私は君に期待している。だから、これからもこの国のために頑張って欲しい」


「アリス……」


「また任務が決まったら君のところへ直接知らせに行くよ。当分はドラゴン殺しの英雄として、この街の歓迎を受けるといいよ。それじゃあね、特級騎士のブレイブ君」


 そう言ってアリスは館より去っていく。

 後に残されたオレの中にあったのは疑念と後悔であった。

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