第15話 龍に挑む者
「ここが……山脈の洞窟か」
翌日。オレは長老より聞いたドラゴンが住まう山脈の洞窟へとたどり着いた。
ドラゴンがどこにいるのかあれから長老に問い詰めたが、やはりというべきか彼らはなかなか口を割らなかった。しかし、それでもやはりここで聖都より趣いた『特級騎士』に逆らうのは賢明ではないという意見が出て、仕方なくという形でオレに教えてくれた。
まあ、どのみち彼らが口を割らなくてもこれくらいの洞窟なら遅かれ早かれ自力で見つけられただろう。
彼らもそれが分かっていたからこそ、あえて先に自分達が口にしたという事実を特級騎士のオレに見せたかったのかもしれない。
洞窟の中に一歩足を踏み入れると、そこは外とは違う寒気を感じた。
無論それは体感的なものであるが、それ以上にこの奥に潜む“何か”の気配が魂の奥底に重圧を感じさせた。
――いる。
理屈では言い表せないが、間違いなくこの奥に何かがいる。
レベル900を超え、圧倒的な力を持つオレだが――いや、そんなオレだからこそ感じられる圧倒的何かを。
知らず固唾を飲み、そのまま洞窟の奥へと向かおうとするオレの耳に能天気な二人の声が届く。
「うわー! ここ何アルかー! 真っ暗でなにも見えないアルー!」
「ルルー! それよりもここなんか寒いアルー! マッチー! マッチー! それか火石で火を焚くアルー!」
「あのなぁ、お前らなぁ……こんなところまで付いてくるんじゃねえよー!!」
思わずオレは背後にてギャアギャア騒ぐ例の双子の獣人にツッコミを入れる。
「なにアルかー。そんな言い方ってないアルよー」
「そうネ。それに私達にはルル、ネネって名前があるネ。ちゃんと名前で呼んで欲しいアルー」
「ちなみにお兄さんの名前はなんていうアルかー?」
「ブレイブだ」
「ブレイブ! かっこいい名前アルー!」
「時にブレイブお兄さんはルルとネネのどちらが好みアルかー? というか、どっちがルルでどっちがネネだと思うアルー?」
「当てたらルルかネネがサービスするアルよー!」
『いえい♪』と仲良そうそうにポーズを取る双子。
オレは呆れた表情のまま、双子を放って先へ進む。
「ちょ、お兄さん待つアルよー!」
「そうネ! こんな危険なところに少女を置き去りなんてひどいアル!」
「別に置き去りにはしないよ。帰りには拾う。っていうか、この先にはドラゴンがいるんだぞ? 君達が来ても足でまといだし、下手すると死ぬぞ。それでもいいのか?」
ちょっと強い口調で脅すが双子はまるで危機感のない様子で告げる。
「平気ネ。私達、こう見えて色んなところ旅して、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないアル」
「そうネ。それにいざとなったらお兄さんが守ってくれるアル」
そう言ってなぜか双子はオレの両脇に移動して腕を絡ませてくる。
ホントなんなのこの子達……。
「というか君ら商人だろう? オレなんかにくっついてていいのか? 商人なら商人らしく街とかに行って商売したらどうだ?」
「それなら心配無用ネ。私達、ここへは商売の帰りに来ているアル」
「そうそう。私達、ちょっとした用事で『帝国』ってところで交渉をしていたアル。けれど向こうで色々やっているうちに出禁になったから、こっちに戻ってきたアル。けどま、色々商売できたから私達も当分は余裕ネ」
おい、さらりと出禁とか言ってるが何をした。と思わず突っ込みそうになる。
「それに私達もドラゴンには興味アルネ!」
「そうそう! ドラゴンは貴重な武器や防具、アイテムの材料になるアル! その爪や牙、骨に血に瞳とぜーんぶが貴重な魔力資源アル! もしも、それらを採れたら私達も大金持ちアルー!」
「随分とまあ、ちゃっかりとした目的だな」
「お兄さんもよければ今のうちに私達からアイテム買うアルか?」
「そうネ。相手はドラゴン。真っ向から戦ったら死んじゃうアルよ? 今ならこの魔物の炎に耐性のある灼熱のマントをなんと二割引で提供――」
「いらないよ。それよりも戦闘になったら二人は真っ先に離れろよ、いいな」
「ちぇー、分かったアルー」
「お兄さん、ケチアルなー。特級騎士は貧乏アルかー?」
余計なお世話だと言いつつ、洞窟の通路を抜けると一際大きな広間に出る。
そこは周囲が光り輝くクリスタルに覆われた幻想的な空間。天井を見上げるとそこには大きな穴が開いており、青空が振り注いでいる。
そして、そんな陽の光が降り注ぐ洞窟の最深部にて、そいつはいた。
真っ黒な鱗で全身を覆い、口元からチロチロと赤黒い炎を吹かしながら、金色の瞳でオレ達を捉える巨大な生物――ドラゴン。
オレの知る世界では架空の存在として扱われた、その怪物が翼を大きく広げ、オレやルル達に向け、咆哮をあげる。
「ぐっ!」
「うわー! アルー!」
「吹き飛ばされるー! アルー!」
ドラゴンの咆哮にオレの両脇にいたルルとネネは来た道へと吹き飛ばされる。
が、オレはその場に踏みとどまり、ドラゴンの咆哮に耐える。
やがて、オレがその場から動かなかったことでオレを敵として認識したのか、ドラゴンは明らかな殺意を纏いオレを睨む。
その殺気にあてられオレもまた剣を構えるが、その瞬間、長老達の話が頭をよぎる。
――だめだ、ここまで来て迷うな。
オレは自分に言い聞かせるように頭を振り、目の前のドラゴンと対峙するのだった。
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