第14話 救済のドラゴン
「これは……どういうことだ……?」
麓の村へとたどり着いたオレが見たのは業火に焼かれた跡地。
だが、それは村ではなく、その村を襲うとした山賊達の死体。
「ひ、ひええええええ! お、お助けええええええ!!」
見ると一人の山賊が発狂しながらこちらに駆け寄ってくる。思わず、その男に何があったのか聞こうとした瞬間、
『ぐおおおおおおおおおおおおお!!』
「なっ!?」
突如、上空に現れたのは巨大な影。
いや、黒い龍。体長数メートルは翼を生やしたその龍は眼下にて逃げ惑う山賊を焼き付く。
オレの眼前にて助けを求めていた山賊も龍の口より放たれた火炎を前に息絶える。
その後、龍の視線とオレの視線が交差する。
(今度はこちらを狙う気か……!?)
そう思い身構えるオレであったが、どういうことか龍はオレを一瞥した後、そのまま旋回すると山脈の方へと去っていく。
どういうことだ? あの龍は山賊だけを狙っていた?
困惑するオレの元に先ほどの双子の獣人が追いつく。
「ややー! ルル、あれってドラゴンアルよー!」
「本当ネ! ネネ! ドラゴンが山賊を襲って村を襲わないなんて珍しいアルー!」
そう言ってオレの隣で驚く双子。
そんなオレ達のもとへ村から一人の老人が近づいてくる。
「そちらの方は……もしや騎士様ですか?」
「え、ええ、まあ」
「……そうですか。もしやドラゴンのことでこの村に?」
「そうなりますね」
オレがそう告げると老人はどこか苦々しい表情を浮かべ「ひとまずは村へどうぞ」とオレ達を迎え入れてくれた。
◇ ◇ ◇
「それで長老さん。さっきのあの龍はなんですか?」
「そうそうー! ルル達も聞きたいアルー!」
「ネネも知りたいネー!」
あれからオレと双子は村に歓迎され、先ほどの老人・村長の家へと招待になっていた。
やはり、この村でも騎士の制服には力があるようで、オレの姿を見るやいなや村人達は慌てた様子で頭を下げた。
が、その全員が恭しくしつつも、どこかぎこちない……というよりもオレを警戒した様子であった。
「それよりも騎士様。あなたにお伺いしたいのですが、あなた様がこの地へ来たのはあのドラゴンを倒すためですか?」
「……はい。それが聖十騎士団からの任務でもあります」
「やはり、そうですか……」
オレがそう答えると老人はどこか残念そうにため息を吐いた。
「……実はあのドラゴンは古くからこの村を守っている守り神なのです」
「守り神?」
「はい……。それこそ、百五十年以上前にこの世界に現れた『四聖皇』様よりも古くからこの地で我々を守ってくださっていました」
四聖皇、つまりオレ達が転移してくる以前からあのドラゴンはこの村を守っていたのか?
「ですが、百年ほど前『四聖皇』様による改革によって、マナを大量に獲得するために各地でドラゴン退治が始まったと聞きます。無論ドラゴンの中には凶暴なものも多く、そうした危険な魔物を排除することでマナを獲得し国が栄えるならと皆が喜びました。ですが、例外はどこにでもいるのです。我らの地を守り続けたあのドラゴンは邪悪な存在ではありません。我らの守護神なのです。故にこの地に暮らす我らはあのドラゴンのことをこれまで騎士団や聖都の方々にも秘密にしておりました」
そう言って長老は顔を伏せたまま告げる。
なるほど。ところが先日の騎士団の調査によって、この地にドラゴンがいることがバレてしまった。
あまつさえ、先程村を山賊達から救っていたのを特級騎士であるオレが目撃したんだ。
さすがに隠し通せないと真実を告げたようだ。
村人達のオレを敬いつつも、どこかよそよそしい態度に合点がいった。
「騎士様。恥を忍んで、どうかお頼み申し上げます。この地にいるドラゴンをどうか……どうか討たないでください」
そう告げると長老はそのままオレに頭を下げて懇願してくる。
「ちょ、長老様!?」
「分かっております。騎士様の任務は神である『四聖皇』様の命……しかし、それでもどうか、この地のドラゴンだけでも見逃して頂ければ……」
「参ったな」
必死に懇願する長老にオレは頭を抱える。
当初は龍を退治すれば、それでいいものと思っていたが、こんな裏の事情を聞かされては決心が鈍る。
どうしたものかと思っていると、それを隣で聞いていた例の双子が騒ぎ出す。
「あー! ダメアルよー! 長老さんー! ドラゴンがいたのにそれを隠していたなんてー! 騎士団への不敬アルよー!」
「そうアルー! それに今この国を守っているのは『四聖皇』様と騎士団様アルよー! 彼らに全部任せればいいアルネー!」
「いや、しかし騎士団と言っても常にこの村を守っていただくことは不可能ですし……ドラゴン様には長い間、守っていただいたご恩が……」
「いーけないだー! いけないんだー! 四聖皇様に言いつけるアルー!」
「そうネー! そうネー!」
「こら、そこまでにしろ」
『あいた!?』
思わずポカリと双子の頭を叩き、二人共涙目で「ううぅ~」と唸っている。
「あのな、老い先短い老人をいじめるな。こほんっ、長老、話は分かりました。ですが、オレは任務を受けてここへ参っただけの騎士です。オレ一人の判断で任務の放棄をするわけにはいきません」
「そうですか、そうですね……申し訳ありません。騎士様にこのようなことをお願いして……」
「いえ、こちらこそ、ご期待に添えず、すみません」
オレが謝罪すると長老はわずかに目を伏せる。
この村の人達の気持ちもわかるが、オレもここで引き下がるわけには行かない。オレがここで成果を上げなければ聖都に君臨するあの『四聖皇』ネプチューンに会うことは敵わない。
湊達が今どうなっているのか、どこに行ったのか、その真相を突き止めるためには、オレは立ち止まるわけには行かない。
そう自分に言い聞かせるように強く拳を握るのだった。
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