第12話 ドラゴン退治
「というわけで今日から君はここで暮らしてもらいまーす」
「はあ」
そう言ってアリスに案内されたのは古びた館。
街から少し離れた郊外に建っており二階建ての建物。扉を開けると中は人の手が入らなくなってだいぶ経つのか埃臭さが目立つ。
「いやー、ごめんね。本当ならもっといいところを与えるべきなんだけど、君は『特級騎士』とはいえ暫定だから。騎士団の一人として活躍や実績を示せば、もっといい場所を与えられるはずだから」
「あ、いえ、お気になさらずに。ここでも十分です」
「そう? 君って謙虚だねー。あ、なんだったらうちに来るー? 一緒の部屋に寝ちゃうー?」
「あ、あははっ、遠慮しておきます」
本気なのか冗談なのかよく分からない彼女の提案をやんわりと拒絶する。
「それにしてもどうしてアリスさんはオレにここまで良くしてくれるんです?」
「さん付けなんて堅苦しいなー。アリスでいいよ、それかバニーちゃんでも♪ それと君によくするのは気に入ったからだよ。だって聖十騎士になってから私を押し倒す男の子なんて初めてだったんだもん~!」
「きゃ~!」と言いながら乙女チックな恥ずかしがり方をするアリス。
う、うーん、よく掴めない人だ。
「……まあ、でもそれ以外にも君には色々と興味津々なんだよねー。どうやってそれほどの力やレベルを身につけたのか。そんな君がどうして騎士になろうとしているのか?」
瞬間、アリスの鋭い視線に射抜かれ、オレは心臓の音が高鳴る。
この人、どこまで探ろうとしている……? それともこれも単なるポーズか?
顔には動揺表さず、内心焦るオレにアリスは「まあ、今日は疲れただろうから、ゆっくりお休み~。明日から騎士としての訓練や任務とか与えるから~」と言って帰る。
アリスがいなくなったのを確認し、オレは館にある部屋の一つに入り、ベッドに横になる。
そこでふと自分のステータスを確認する。
『レベル:971』
「…………」
やはりレベルが減少している。
オレのスキル『睡眠』によって上昇したレベルはあくまでもスキルによるブースト効果。
つまり、実際の戦闘でそのレベルの戦闘をするとそれに見合った数値分、レベルが消費されていく。いわば消耗品だ。
こればかりはいかんともしがたい。
思えば今日だけでオーガ、領主の家での戦い、山賊達、それに聖十騎士のアリスとかなりの戦い詰めだった。
むしろ、この程度の減少で済んでいるのは幸いと取るべきか。
しかし減った分のレベルはオレが睡眠を取ることで、ある程度のチャージはできる。とはいえ、限界のレベル999まで戻すには一週間以上は必要かもしれない。
さすがにそこまで寝るわけにはいかないので今日は通常の睡眠だ。
しかし、聖十騎士の専属騎士か。
果たして一体どんなことをするのか、オレは少し不安に思いながら、まぶたを閉じるのだった。
◇ ◇ ◇
「やあやあ、おはよう。ブレイブ君ー。もう昼だよー。君ってねぼすけなのかなー?」
「……まあ、最近までずっと寝てたんでその後遺症かもですね」
「あははー、なにそれー」
翌日。なかなか起きないオレを見かねたのかアリスが館の中に入ってオレを起こしてくれた。
その後、彼女に後押しされるように軽い朝食を受け取り、それを口に詰めながら、今日の予定を聞かされる。
「まず本日の君の任務だけど、ドラゴン退治をしてもらう」
「……はあ?」
突然のアリスの宣言にオレは咥えていたパンを思わず落とす。
「いや、あのドラゴン退治ってなんですか?」
「そのままの意味だけど?」
「いや、じゃなくって……」
「ああ、そっか。どうしてドラゴンを倒す必要があるのか、その理由を言わないとダメだよねー。ごめんごめんー」
いや、そっちじゃないんですけど。とツッコミを入れつつも、彼女はそれを無視して説明を始める。
「ブレイブ君は『マナ』って知ってるかな?」
「マナですか? まあ、聞いたことはありますね」
主にゲームや漫画の知識ですが。
「うんうん、さすがに聞いたことはあるよね。マナっていうのはこの世界を構成する元素、あるいは力の源とも呼ばれているね。マナが豊富な地はそれだけ豊かになり作物や動物が多く採れ、鉱石なども多く発生する。それだけじゃなく街や都市を運営する魔法石のエネルギー源にもなる。マナが豊富なほど人々の生活は豊かになるってことね」
なるほど。で?
「けど、最近聖都でのマナの消費が激しくなってきてね。この国全体のマナの量が少しずつ減少している。もちろん聖皇塔にストックはあるんだけど、それはおいそれと使うわけにはいかない。そこでブレイブ君にはこの国の減ったマナを増やしてほしいんだ」
「増やしてほしいって……そんなことできるんですか?」
「うん、できるよ。だからドラゴンを倒して欲しいの」
「? どゆことです?」
「ドラゴンを倒すとね、彼らの体から大量のマナが放出されるの。それはそのままドラゴンが死んだ土地を中心に広がる。だから、この国に潜んでいるドラゴンを倒すとマナが増えて、聖都を豊かにしてくれるの」
なるほど。それでドラゴン退治か。
理由は理解したが、いくつか気になることがあった。
「けど、そのドラゴンってどこにいるんですか?」
「実は先日、探索に行かせていた騎士団の一つから東のアエーレ山脈にドラゴンの影を見たっていう情報があるの。騎士団はその途中、別の魔物に襲われて帰還することになったんだけど、君にはその山に行ってドラゴンが本当にいるのか確かめて欲しい。そして、もしもドラゴンがいればその首を落として欲しい」
なるほど。確認を兼ねた討伐任務ってことか。
「もう一つ、ドラゴンってのは今のオレでも倒せるの?」
「それはドラゴンの種類になるけれど、私の見た限り君ならまず大丈夫だと思う。昨日直に手合わせしたからね。普通はドラゴン退治には上級騎士または特級騎士に率いられた騎士団による討伐が行われるけれど、聖十騎士クラスなら一人でドラゴンを倒せる。実際、私も何度か一人でドラゴンを倒しているしね」
「つまり、そのアリスから見てオレも十分一人で戦えると?」
「そゆこと。通常の龍種なら遅れは取らないと思うよ。まあ、神龍クラスなら分からないだろうけど、これはほとんど伝説上の存在だからね」
そう言ってアリスはオレにウインクを送る。
「それにここで君が一人でドラゴン退治をすれば堅物のギルバート統括も君のことを認めてくれるよ。そうすれば、すぐにでも聖十騎士の仲間入りもできるかもよ?」
まるでオレの内心を読み取ったかのようにアリスはそう囁く。
聖十騎士。
確かにそれになるがオレの現在の目標だ。そのための近道ならば、どんな危険な任務でもする決意があった。
ならば、相手がドラゴンであろうとも挑むのみ。
オレは聖騎士アリスからの任務を受諾する。
「分かりました。それでは、その任務請け負います」
「うんうん、頼んだよ。あっ、そうだ。念の為にこれを渡しておくね」
「なんですか、この袋?」
「魔法袋だよ。いわゆる収納袋。魔力がこもった袋で中はある種の異空間になってるの。最大五百キロの荷物を収納できるから、ドラゴンの首を切り落としたら、その袋の中にでも入れおいてね。それで君が倒したって証明になるから。と言っても、君がドラゴンを倒せば、その瞬間にこの国のマナ総量が増えるから、多分それでも証明にはなるよ」
と言ってアリスは魔法袋を渡す。
うむ、こういう収納袋は何かと便利なのでいただけるのならもらっておこう。
それにしても首を持ち帰れとか、この人見た目の割に結構えぐいこと言うな。
まあでも、倒したという証明は確かに必要か。
その後、オレはアリスよりアエーレ山脈の場所を地図を受け取りながら教えてもらい、旅の準備にと金貨や装備一式を頂くのだった。
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