第8話 巫女との出会い

「きゃあああああああああああああ!!」


「ッ!?」


 オレは咄嗟に声の聞こえた方へと駆け出す。

 鬱蒼とした森を抜け、広間のような場所に出るとそこには一つの豪勢な馬車があり、その周りで倒れる複数の兵士と怯えた一人の少女。

 そして、そんな少女を取り囲む、いかにも山賊風な男達がいた。


「おい、本当にこの女で間違いないのか?」


「へい、この女で間違いありやせん」


「へへっ、ならさっさと回収するか」


 そう言って山賊達の親玉らしい男が怯えた少女に手を伸ばそうとした瞬間、オレは少女の顔を見た。


「なッ!? 花澄!?」


 そこに映ったのは紛れもないオレの幼馴染であり、小さい頃からオレをずっと慕ってくれた少女、あの花澄であった。

 少女はオレと目が合うと助けを懇願するように小さく呻いた。

 それを見た瞬間、オレは少女に手を伸ばそうとした山賊の手を握っていた。


「おい、そこまでにしておけ」


「なっ!? なんだてめえは!?」


 突然現れたオレの姿に山賊達は一斉に距離を取る。

 オレはそんな彼らと対峙するように少女の前に立ち、倒れていた兵士の腰から剣を拝借する。


「てめえ、旅の人間か? 偶然居合わせたんで、正義感ぶってオレらの邪魔をする気か?」


「だとしたらどうする?」


「やめときな。命を落とすぜ、小僧」


「へえ、山賊にしては随分と丁寧な忠告だな。だがあいにくとこの子はオレの知り合いなんでな。お前らにくれてやるわけにはいかない」


 オレがそう告げると背後にいた少女が息を呑むのが聞こえ、山賊達もピクリと反応する。


「……てめえ、『巫女』の知り合いなのか? だとすると聖十騎士団の手先か?」


「巫女? 騎士団? 何の話だ?」


 山賊のよくわからないワードに眉をひそめる。が、連中はそれ以上は答える気がなく一斉にオレに襲いかかる。

 それは山賊にしては連携の取れた一糸乱れぬ攻撃であっただろう。

 もし仮に数百年眠り続ける前のオレであったら、この山賊達に遅れを取っていたかもしれない。

 が、今のオレにとっては彼らのスピードなどまるでスローモーションのように丸見えであった。

 オレは剣を腰に回し、居合い切りのポーズを取ると前方の空間めがけ、神速の太刀を振るう。それに一拍遅れるように、風の斬撃が山賊達を切り刻む。


「ぐああああああ!?」

「がああああああ!?」

「ぎゃあああああ!?」

「なっ!?」


 一瞬で次々と倒れる山賊達。

 一応手加減はしておいたが、それでも全身をズタズタに切り刻まれ、立つことすらままならずその場でのたうつ山賊達。

 残ったのはリーダーと彼の周囲にいる数人であったが、今のオレの一太刀で実力の差がわかったのか全員、顔面蒼白のまま固まっていた。


「どうする? まだやるか」


「て、てめえ……何者だ!」


 問いかける山賊にオレは答えない。

 が、すぐに勝てないと判断したのか山賊のリーダーはそのまま残った部下を引き連れ、すぐさま退散していく。

 オレは山賊の姿がいなくなるのを確認すると改めて背後の少女――花澄へと振り返る。


「大丈夫だったか? 花澄」


「あ、えっと……」


 そこでオレは改めて目の前の花澄の姿を見た。

 が、それはオレの知る花澄とは少し異なっていた。

 顔は瓜二つであったが、よく見ると髪の色が違っていた。

 オレの知る花澄はまばゆい金色の髪。だが、目の前の少女はプラチナに輝く銀色の髪の持ち主。

 それだけでなく着ている服もオレが知るどの花澄の服装とも一致しない奇妙なもの。

 たとえるなら日本のアイヌが着るような和服。どことなく巫女っぽいイメージの衣装であった。


「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございます! 私、シュリと言います」


「え?」


 少女――花澄の名乗りにオレは思わず息を飲んだ。


「シュリ……って、それが君の名前なのかい?」


「はい、そうですが?」


「えっと、念の為に聞くけれど花澄……じゃないんだよな? オレのことも知らないんだよな?」


「? はい。申し訳ありません。私は初対面です。もしも以前どこかでお会いしていたら、誠に申し訳ない限りですが……」


 そう言って少女シュリはすまなそうに頭を下げる。

 ということはこの子は花澄に似ているだけの別人か?

 一瞬、本物の花澄に再会できたかと喜んだが、しかし冷静に考えればそんなことが都合よく起こるはずがない。

 オレは自分が百年以上も眠りについていたのだと言い聞かせ、未だ頭を下げる少女シュリへと告げる。


「いや、気にしないでくれ。人違いしたのはオレの方だ。それよりも怪我がなくてよかった」


「はい! あなた様のおかげです。あの、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」


 そう言ってシュリはオレを顔を覗くように問いかける。

 名前か。

 さっきも考えていたが真人以外の名前をこれからは名乗らないとな。とはいえ、なんて名乗ろうか。あまり考えすぎると偽名ではないかと疑われるし……うーん、とそんなことを思っているとシュリが不思議そうな顔でこちらを見ている。

 い、いかん。これ以上、時間をかけると変に思われる。

 オレはその時、咄嗟にシュリの顔と同じ花澄と共に遊んだゲームを思い浮かべた。


「ぶ、ブレイブ。オレの名前はブレイブだ」


「ブレイブ様、ですか。素敵なお名前です!」


「は、はは、ありがとう」


 オレの名乗りにシュリはキラキラとして目で見つめてくる。

 ブレイブというのはオレが花澄に始めて教えたRPGに出てくる主人公の名前だ。とっさとはいえ、結構ベタな名前を名乗ってしまったな。と、そんなことを思った瞬間であった。


「――そこの貴様、シュリ様から離れろ」


「ん?」


「あっ……!」


 声のした方を振り返るとそこには全身を真っ白な甲冑で覆った鎧騎士がおり、その後ろには数十人ほどの騎士が整列していた。

 なんだこいつ? そう疑問に思うオレに対し、銀色の騎士は腰にかけていた荘厳な剣を抜き放ち告げる。


「我は『四聖皇』ネプチューン様に仕える『聖十騎士団』が一人なり。巫女シュリ様へ手を出すようならば、容赦はしないぞ」

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