シーン7:もう一度、あの夢を

久人:シーンイン! (ころころ)9点上昇、98%! ぐはっ。


GM:――アナウンスと共に電車の扉が開く。

 キミと彩は、先程住所が判明した、三澄天の入院していた病院へと向かっていた。

 普段感じるビル街の風とは違う空気が、午後2時半の太陽と共に吹いてくる。


 地図を見ながら歩けば、その建物はすぐに見つかるだろう。

 『峯坂みねさか診療所』。少し古ぼけた建物は、あのセピア色の夢に少し似ている気がした。


彩:「ここって……」

 きょろきょろと、少し警戒しつつも興味を露わにし、周囲を見渡している。

久人:「ここは病院だね。具合が悪くなった人が来る場所だ。

 今はどうかわからないけど、俺の友達がここに入院してたらしくてね。その人が、俺たちの探しものに関係してるかもしれないんだ」

彩:コクコクと頷き。

「そっか。えっと、その……ここ、なんだかわたしがいっちゃ、だめなきがして」

 少し言いにくそうに、しかしはっきりと口に出す。

「だから……わたしは、ここでちゃんとまってる、から。もしかしたら、ここからなにか、おもいだせるかも」

久人:「そっか……うん、わかった。彩がそう言うんだったら、それを信じるよ。これでも飲んで、少し待っててくれ」

 自販機でジュースを購入し、彩に手渡す。

彩:「あ……ありがとう、ヒサト」

 にへ、と表情が柔らかくなる。


GM:さて、院内に入りますか?


久人:入りましょう。いざ行かん。


GM:静かな診療所内に足を踏み入れる。

 設備自体はしっかりと整い、古いながらもきれいに掃除された院内は、どこか懐かしい気持ちを掻き立てる。

 そうして少し見渡していると、奥の部屋から顔を出した男性に声をかけられた。

 少し驚いたような表情の、いかにもな町医者という風体の老人は、キミの顔を見つつ言う。


老医者:「いらっしゃい。外来は受付からね。すぐ行くから待っていてほしいよ」

久人:それに、軽く首を横に振りつつ答える。

「あ、すみません……患者ではないんです。実は、人を訪ねて来たんです。

 引っ越していった友人なんですが……三澄天さん。何かご存じないでしょうか」

老医者:「……! ……そうか。キミ、彼女の知り合いだったのかい?」

久人:「はい。小学校の頃、よく一緒に遊んでいました」

老医者:「……なるほど、それで」

 目を伏せがちに答える。

「それは、私が救えなかった子の名だ。3年、闘病していたが、私の力及ばずにね……。

 今でも悔やんでいる。こうして腕を磨いた今は、余計にその重さがわかる。キミ、名前は何というんだい?」

久人:「そう、でしたか……俺は、絵馬久人といいます」


 久人の名前を反芻はんすうするように、老医者は何度か頷く。


老医者:「私は峯坂隆文みねさか・たかふみという。

 謝って済む話でもない。そんな話をしに来たわけでもないと思うのだが、まず言わせてくれ。すまなかった」

 真剣な表情で、頭を下げる。

久人:「いえ……確かに悲しいけど、先生が彼女に尽くして下さったのは、さっきの言葉からもわかります。どうか頭を上げて下さい」

峯坂隆文:「……優しい子だね、キミは。彼女の遺志も、よくわかる。

 着いて来てくれないか。天ちゃんが最期に遺したものを、私が預かっていてね。

 もしかしたら、キミが私のところに来た目的に近いかもしれない」

 そう言って、きびすを返す。向かう先は、恐らく院長室だろう。

久人:「天ちゃんが遺したもの……わかりました」

「(ごめん彩。少し遅くなるかもしれない)」

 心の中で詫びつつ、先生に着いて行きます。


GM:峯坂の案内で、院長室へと通される。

 書類と薬品の匂いが鼻をつく。同時に、窓から入り込む陽の匂いも。

 彼は棚の鍵を開け、大切そうに仕舞われた1冊のノートを取り出す。

 何処にでも売っていそうな、少し古いデザインのノート。その表紙には水性ペンで何か書いてあったようだが、滲んでいて文字を読み取ることは出来ない。


峯坂隆文:「ご両親に渡そうかとも思ったんだが、『これは先生にあげる!』と言われてしまってね、はは……。

 どうか、読んであげてくれないかな」

 ノートをキミに手渡してくる。

久人:「ありがとうございます。どれ……」

 滲んだ表紙を捲り、中身に目を通します。


GM:ページを捲る。

 年相応の、けれどもクラスで少しだけ絵が上手かった彼女の、生き生きとしたクレヨンの色彩。

 間違いなく、彼女が描いていたあの漫画だ。

 セピア色とは正反対のそれが描き出すのは、まるで、おとぎ話の様な。

 勇者が虹色の獅子や、硝子ガラスの竜を倒し、姫を救い出す物語。


 勇者の名は、ヒサト。

 そして、姫の名は――。


峯坂隆文:「……最初にキミを見たときから、そうじゃないかと思ってたけどね。

 この漫画に登場するヒサト。これは多分、キミの事だろう?」

久人:「……天ちゃん……」

 漫画に目を向けたまま、ポツリと呟く。


 子供が描いた漫画だ。技術的にはつたないかもしれない。それでも――この漫画には、確かな熱があった。

 漫画を描く上で、絶対に忘れてはならないと久人が思っているものが、確かに込められていた。


峯坂隆文:「彼女のご両親によると、闘病生活を頑張るために始めた趣味が漫画だったようだね。

 彼女はきっと、何処かに救いを求めていたのかもしれない。

 もちろん、それは幼いキミたちにはどうすることも出来ない問題だったかもしれないけれど。

 ――私にはわからないが、今のキミはそうではない気がするよ」


GM:まっすぐと久人の顔を見据えて。キミの何倍もの経験をしただろう“大人”は、迷うことなくそう言い切った。


久人:「……ありがとうございます。俺、思い出しました。俺が漫画を描くようになった本当のキッカケを。

 漫画を描いてるんだって、嬉しそうに話す天ちゃんを見て……そこから漫画に興味を持ったんだ。

 先生、ありがとうございます。天ちゃんのために力を尽くしてくれて。彼女を忘れずにいてくれて。

 おかげで俺、大切なことを思い出せました」

峯坂隆文:「……そうか。それは良かった、本当に」

 年季の入ったしわを、くしゃりと綻ばせるように笑う。

「それは、キミが持っていってあげてくれ。本来は私が預かったものだが……それよりも、キミの元にあるべきだろうと私は思うよ」

久人:「はい。ありがたく、いただいていきます」


 受け取ったノートを大切に胸に抱え、先生に頭を下げる。

 悲しいけれど。寂しいけれど。でも。

 彼女に貰ったものは、今も確かに、俺の中に息づいている。

 頭を上げた久人の表情は、どこか憑き物が落ちたかのような、晴れやかなものだった。


久人:ここで、漫画家の夢にロイスを取得します。感情は○遺志/不安で。


GM:了解です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る