タイムスリップしたので、アイドルをプロデュースしてみる

かつあん

第1話 令和の夏

やはりツイていなかったのだ。

この日のことを振り返って考えると、唯一良かったのは、浴衣を着て花火を見に行ったことだけだった。

僕は海沿いの花火大会のチケットを1月以上前に買って、彼女を誘ったのだ。

その時彼女であるサオリは喜んで、一緒に浴衣を着て観にいこう、そう言ったのだ。

だから僕は今日、近所のショッピングモールでこの日のために買った浴衣を着ていた。

ただ、この1カ月の間に色々なことがあった。

そう、人の気持ちが揺れ動くのに1カ月は十分足りる時間なのだ。

思い返すと、僕は今年の正月が明けてからずーっと、エントリーシートを書いていた。

100通以上は間違いなく書き、送った。

そして、その返事は本来であれば4月ぐらいに戻ってくるのだが、一向に連絡がない。

便りがないのは元気な証拠、とよく言うが、就職活動では、縁が無かったことを意味する。

それでも僕はエントリーシートを書き続け、送り続けた。

数少ない面接まで行けた会社からも2回目の面接の連絡が来ることは全くなかった。

そんな時、彼女がバイトをしている居酒屋で、サオリに告白したヤツがいたことを、彼女の親友であるヒトミから聞いた。

大丈夫、全然だよ。サオリのタイプじゃないもん。

だったらわざわざ言ってくるなよ。

素直な僕はヒトミがそう言っていたのをそのまま信じていたのだ。

でもタイプ以外にも人を好きになる要素はあるようなのだ。

その居酒屋の彼は僕と同じ大学4年らしく、そこそこ有名な会社からサラッと内定がでたことで、状況は急激に悪化した。

急に僕にアゲインストの風が吹いてきたのだ。

サオリは、全然内定をもらえない僕と内定をとった彼を天秤にかけたのだった。

正しい。

僕が女の子でもそうする。

だから、サオリが僕を振る理由はよく分かる。。

それでも、なぜか今日まで花火に行く約束をサオリとしたままになっていたので、

最終的には僕は一緒に花火を見るのだな、とさっきまで思っていた。

まだ振られていないのだ。

だって、嫌いとか、彼を選ぶとか言われてなかったんだから。

とさっきまで言い訳のように、そう思っていた。

そろそろ花火に行く準備をしなきゃ、と思っていた午後すぎに、

チャリーンとスマホが鳴った。

サオリからのライン。別れの言葉を送ってきた。

えー、ラインで別れを切り出されるの?

今風だなぁ。

悲しいというより、そんな風に思った。

既読スルーしたいところだが、何だか悔しくて、すぐに了解と返事を送ってしまった。

しかもつい癖でスタンプで返信。

バカみたい。

折角買った花火チケット。

折角買った浴衣。

僕は使わないのも何だか負けたみたいで悔しくて、一人で花火を見に行くことにした。

一人で缶ビールを飲み、一人でつまみを食べ、二人分の席で寝転がって花火を見た。

悲しいというより、むなしい気持ちで花火を見る。

周りをみても明らかに一人で花火を見ているような人は居ない。

あーあ、昔に戻れたらなぁ。

サオリともちゃんと付き合えるように頑張るのに。

いや、どうせなら、もっと昔に戻ってちゃんと受験勉強して、いい大学入って…

ドーン。

むなしい想像だ。

花火は日本三大花火だか新三大花火だか知らないが、大したものだった。

嫌なことを全て忘れそう… という程ではなかったが。

あと少しで花火も終わり、というところで僕はそろそろ帰ろうと思った。

帰り道が人であふれかえることは容易に想像できたらから。

じゃ、これを最後にしよう、と思って夜空を見る。

ドドーン。

これまで以上に大きな音が鳴り響く。

ものすごく明るい。まさに大輪の花だ、と思っていると

周りの人たちが騒ぎ出した。

「おい、火の粉が降ってくるぞ。」

確かに。火の粉が降ってくる。でも、それはこの位大きな花火なんだから

ある程度はしょうがないんじゃないかな、と思いつつ夜空を見上げると

火の粉、とは言えないような火の塊が落ちてくる。

これは、ヤバい。

大気圏で燃えて落ちてくる隕石みたいだ、

早く逃げなきゃ、と思った瞬間。

ドン!

腹に火の塊が当たった。

痛ぇ。

そう思った後、僕は意識を失ってしまった。

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