4章 Refine

第四百三十話 情報共有その1

◆新機歴121年12月17日19時42分


 夕食後の腹休めもそこそこに。現在ブレイブシャイン一同は、情報共有の時間という事でブリーフィングルームに集まっている。

 ……キリンは入ってこれないのでモニタ越しの参加だけれども。


 なんの情報かって? そりゃもう決まってるさ! 私達がシーハマで頑張ってる間にひっそりと身につけていたらしい謎の必殺技について共有してもらうんだよ!!


 ケルベロスの『ヘルズ・フレイムナックル』フェニックスの『フェニックスインパクト』そしてキリンの『モード:アイギス』これらの必殺技は私やスミレにとっても未知の技。


 これははたして彼女達が訓練により生み出した技なのだろうか? いや、おそらくは違うだろうな。あの必殺技は確かにリブッカ討伐に於いては大いに役立ったよ。けどさ、あの様子を見るに、どうも技に引っ張られてしまっていて、まだまだ技の使い方をしっかりと身につけられていない感じがするんだ。


 それに、なにより……あのベタベタのネーミングはどうもアニメ的な印象を強く感じるんだよなあ。そりゃさ、パイロットの皆も良い具合にシャインカイザーのアニメに毒されているからさ、その手のセンスが炸裂してしまう可能性もあるけれど、なーんかそうでは無いような気がするんだよね。


 私の推測でしか無いけれど、多分、グランシャイナーでこちらに向かう途中、VR訓練をしたのでは無いかと。きっとはじめは純粋に力を伸ばすための訓練だったんじゃ無いかな? それがそのうちさ、良い具合に仕上がってしまってさ、キリンの奴が『今の君達にはこの技も扱えるだろう』とか言ってさ、劇場版で各機体が使用していた技を伝授したんじゃないかなーって。


 なんにせよ、キリンから話を聞けば全てはスッキリさっぱり明らかになるわけで。本日このような情報共有の時間という物を設け、全て白状してもらおうと言う事になったのである!


「と言うわけでだね、先の戦闘で事前の報告をすっとばしていきなり見せてくれた数々の技について情報を開示したまえよ」


「はっはっは、カイザー、私のような口調になっているね。落ち着きたまえよ。勿論報告を入れようと思っていたさ。ただ、話す前に披露することになるとは5割くらいしか思って居なかったがね。あれは事故、そう、事故みたいなものじゃないか。なんたって目の前に丁度良いターゲットが居たのだからねえ」


「5割も思って居たなら十分だ! っていうか、リブッカ見た瞬間ぶっ放すって決めてたんじゃ無いかよ! ……ごほん。私はね、別に文句を言いたいわけじゃないのだよ。早く詳細を知りたくてだな、その……ソワソワしてるだけなんだよ。ほら、さっさと、さっさと……ね?」


「フェニックスインパクトからモード:アイギスに繋がる下りを見てからカイザーは若干落ち着きがなくなりましたからね。きっとカイザーの嗜好に刺さる物があったのでしょう。キリン、早く話してあげて下さい。いつまでもソワソワしていられると業務に支障が出てしまいますからね」


 偉そうに言っているけどさあ、スミレもさっきからソワソワしてるのを知ってるんだぞ。私と思考がリンクしている影響なのかな。どうも、どこか嗜好が似通ってきてるんだよな。


「まったく君達もレニー君を見習って静かにしたまえよ。これでは話せる物も話せなくなるだろう」

「はいはい、わかったわかった。ではお願いしますぜ、キリン先生!」

「カイザー……君、口調が妙な事になっているぞ……」


   

 というわけで、私とスミレ、そしてレニーもワクワクの情報共有タイムが始まった。レニーはじっと静かにしているようにみえるけれど、わくわくしすぎて言葉が出なくなってるだけなんだよなあ。


「聡いカイザーの事だ、ある程度予想はしているだろうけれども、先の戦闘で披露した数々の新必殺技は君が言う『劇場版』でが編み出し使った技さ」


「やはりそうだったんだね。独特のネーミングセンスにどこか懐かしさを感じて、もしかしたらって思ったんだ」

「ははは、なるほどね。技名から感づいたか。そうかそうか」


「あたいが考えた獄炎昇竜波のが格好いいと思うんだけどなー」

「……マシュー、それって竜也の師匠が使ってた謎拳法の技じゃん」

「ちぇ、カイザーにはバレちまうかあ」


 なんて笑い合っていると、キリンがスクリーンに資料――各機体に装備された新たな武器達――私が見たことが無い装備品達――の図面が表示された。どうやらそれを使って新必殺技が実現しているようなんだけど……


「まず、新必殺技を使うに当たって必要だったのは彼女達パイロットの技量の向上だ。ブレイブシャインのパイロット達は粒ぞろい、私の目から見ても、十分に強いパイロットだと思う。ただね、やはり圧倒的に実戦経験が足りていないんだよ。そりゃ、これまで多数の魔獣を倒し、対人戦だって何度か経験もしている。けれど、密度が違うんだ。あの技を生み出した竜也達が置かれていた状況と比べてしまうと、圧倒的にぬるい。

 竜也達が経験した戦闘は非常に過酷な物だった。だからこそ、あんな物騒な技を身につけるに至ったわけなのだが……同じ経験とは言わないけれど、それに近い経験を得られる訓練をし、更なる向上を果たさなければ必殺技どころか、折角の新装備も使いこなせないだろうと思ったんだ」


 確かに。


 レニー達ブレイブシャインはこれまで数々の敵と戦い、着々と力を付けてきた。パワーアップした我々カイザーチームの機体に勝るスペックの機体が現れるとは思えないし、彼女達自身も数々の経験を積んで、パイロット単体の能力で評価をしても十分強者の部類に入るだろう。我々と彼女達が力を合わせれば、この大陸で敵う物は居ないのでは無いかと言うほどに私達は強くなった。

 

 けどさ、竜也達と比較すると話は別なんだ。彼らは毎週毎週……いや、これは放映日的なカウントか。


 ……彼らは懲りずに悪さをする敵対組織とほぼ毎回戦闘を繰り広げていたし、長期にわたる訓練も何度かこなしている。大きな山場も2度3度乗り越え、そのたびに大きく成長をしていったんだ。それはブレイブシャインにも言えることだけれども、竜也達の経験はそれこそ死ぬ思いを散々するようなきっつい奴だ。


 血反吐を吐きながら厳しい訓練を乗り越え、敵に捕らわれ身がちぎれるような思いをしながらも、なんとか脱出を果たし。創作物とリアルを比べるのもアレだけど、その創作物の世界から来た機体にのっているわけだからね。

 

 そんな彼らだからこそ、見るからに負担が強そうな必殺技にも耐えられたのだろうと思うし、必殺技を満足に扱おうと思えば、彼らに近いところまで肉体と精神を鍛え上げる必要がある……のかもしれない。自分で言っててなんだけど、それってかなり無理があるのでは!


「実のところ、新装備の組立が終わったのもついこの間のことでね。どういうわけか、上位装備はこちらの世界に送られていなかったから、私が持つデータから設計図を起こして組み上げたのだが、いやあ、苦労したね。そんなこんなで報告が遅れたのもあるし、カイザーを驚かせたいと言う気持ちもあったし、なにより、新装備を作ったと報告をしたのに、パイロット達が満足に使えなかったら……という不安から連絡を先延ばしにしていたんだ。まあ、万事よしとなって、いよいよ報告しようと思った時には君は連絡不能になっていたからね。仕方が無い話なんだよ、これは」


「なるほどね。いや確かに驚いたし、そういう理由ならまあ……仕方が無いかな。それに強力な新装備の開発に成功して必殺技まで身につけたとなれば、文句の言いようが無いほどに喜ばしいことだよ」


「ああ、そうだね。まあ、そのためにマシュー達にはVRの短期集中コースで若干の……いや、かなりの無茶をして貰ったがね」


 脳の処理速度にブーストをかけ、内部時間を外の何倍にも増幅するアレでだね。実際、そんな真似をまともにやったならば、脳の血管がどうにかなってしまうのではないかと思うのだけれども、それも例のアニメ的な謎仕様により『訓練後酷く疲労する』程度で済むらしい。


 私やスミレは生体的な脳という物が無いため、どれだけ高速で演算する事になっても疲労することは無いんだけど、パイロット達にとっては中々に辛い訓練だっただろうな。なにしろ、あれをやると酷く腹が減るみたいだからねえ。脳への負担がどれだけ掛かってるか想像するだけで頭がむずむずするよ。


「さて、話を戻して各機体の必殺技についての説明をさせてもらうよ。ケルベロスの新技は『ヘルズ・フレイムナックル』だ。

 ケルベロスはロボ形態時に頭部パーツがそれぞれ両腕と背部のサブアームに変形しているのは知っているね? ケルベロスの口腔内から放たれる炎や吹雪はロボ形態時にも掌から出すことが可能なのだが……マシューくんはそれを上手くつかえていなかった。

 が、訓練を経て見事ものにできた結果、掌から高温の炎を出しながら敵を灼き殴るデタラメな必殺技、ヘルズフレイムナックルが実現したのさ」


 なるほどなあ。そもそもオルトロスの時だってブレス攻撃は出来た筈だし、アニメを見たのだから存在は知っていたはずなんだけど、使っているのは見たことが無かったな。


 理由として、私が持つ知識……あくまでも『アニメのカイザーファン』として知っているだけの設定資料レベルの知識では、その使い方を詳しく説明することが出来なかったのもあるんだろうな。オルトロス達はあの通り、ちゃらんぽらんだから、パイロットを教育するって事も無いし……それに、元々普通の機兵で戦えていたというのも大きそうだ。


 普通に戦えていたからこそ、わざわざ出来るかどうかも解らない技を試そうと思わなかったとか。マシューのことだから、興味はあっても、要らないことを言えばまたキツい訓練をさせられるとか考えて黙っていたのかも知れない……今のマシューなら、そんな事は無いんだろうけど、ミシェルの護衛で旅をしていた頃はサボり癖が強かったもんな。


 と、ここでミシェルが淹れてくれたお茶で一休みだ。小さなカップで茶を飲む私をしきりにモニタ越しのキリンが羨ましがっているが……どうも以前より必死さが足りない。


 ……まさか妖精体的な物の開発に目処が立っているんじゃなかろうな。

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