第四百二十八話 地を焦がす白き炎
リブッカを撃退後、グランシャイナーが足止めしている2頭の討伐に向かうと、こちらに向かうキリン達の姿が見えた。あちらさんも随分と早く撃退をしたようだ。流石はブレイブシャインだ、やはり全員が揃うと圧倒的だな。あれだけ苦労したのが嘘のようだ。
『おや、先に来ていたいのか。どうやらちょっぴり負けちゃったみたいだね。流石は火力重視の組み合わせといったところかね。我々も自身はあったのだが、君たちには勝てなかったか』
あれだけ絶望的な状況だったというのに、すっかりひっくり返ってしまったな。どうやら敵の増援はもう無いようだし、残す敵機も僅かな数だ。心にゆとりが生まれたのを感じるな。
「ある意味綱渡りの様な戦い方だったがな。ま、いつも通りに戦っただけとも言えるな。さあ、残る大物は2体だ。さっさと片付けて終わりにしようじゃ無いか」
『了解だよカイザー。では我々Bチームは右のを貰うよ』
「ではこちらは左を頂こう……行くぞマシュー! レニー!」
「『了解!』」
対峙したリブッカは、艦砲射撃によってそこそこのダメージを負っているせいか、先に戦った個体よりもだいぶ動きが鈍く、出力も下がっているように感じる。
『うっし、今度はレニーの番だぜ!』
「ようし! 囮役は任せたよ、マシュー!」
今度はそっちの見せ場だとばかりにケルベロスが頭に飛びかかる。やはり弱っているのだろうな、取り付いたマシューを振り落とそうともせず、ただただ苛立たしげに足を踏み鳴らしている。
『今だ! いっけーレニィイイイ!』
「いっくぞおおおお! カイッザァアアアアアア インパクトォオオオオオ!」
レニーの
「なんともあっけない物だな……」
「レーザーでジリジリと焼かれて弱っていたわけですから。寧ろこうならない方がおかしいのです」
スミレ先生によれば、例え魔鉄鋼だろうと、金属には変わりがないと。なので、超高出力のレーザーであればそれなりにダメージを与えることは出来るのだという。
魔鉄鋼にすらダメージを通す、そんな物騒な物がツノの防御を掻い潜って体を焼いていたわけだ。わざわざ俺達が手を出さずとも、リブッカが地に伏すのは時間の問題だったみたいだな。
「助かりましたけど、ちょっと物足りなかったかな……っと、うん、生命活動停止を確認! リブッカ討伐確認完了しましたよ、カイザーさん、お姉ちゃん」
「ごくろうさん、レニー」
「きちんと止めをさせたようですね。折角なのでリブッカはそのままストレージに入れておいてくださいね。基地の皆さんのお土産にしましょう」
「はーい」
キリンチームが相手をしていたリブッカはあまりレーザーに焼かれていなかったようで、我々があたった個体と比べ、随分と体力が残っているようだ。戦況に余裕も出たことだし、彼女達の戦いを見物させていただくとするか。
シグレがフェニックスを低空で飛ばし、リブッカの頭上をからかうようにくるりくるりと舞っている。それがよほど腹立たしいのか、すっかりフェニックスに釘付けになっているのだが……その隙をついてミシェルが雪月華で斬りかかる。魔鉄鋼程ではないにしろ、身体もそれなりに頑丈なリブッカだ、流石に両断とは行かないが、それでも馬鹿にできないダメージが入っていそうだな。
シグレがリブッカの気を反らし、ミシェルの攻撃のスキを作るか。我々Aチームがやっていることと同じことをしているように思えるが、力尽くで押さえつけた我々と比べれば、なんだか上品に見えるから不思議だな……。
フェニックスが舞い、ヤマタノオロチが斬る……おや、キリン先生は何をしているのだろう? 戦う2機からやや離れたところで様子を伺っているようだが、まさかサボっているわけでもあるまい。一体何を企んでいるのだろうな。
しばらくの間、2機のコンビネーションでチクリチクリとダメージを与えていたのだが、とうとうキリンに動きがあった。ヤマタノオロチがさっと飛び退いて、シグレがぐんと勢いをつけて上昇した瞬間、またたく間にリブッカの顔めがけて飛びかかってしまったのだ。
「わ、キリンが私達みたいなことしてますよ」
「あ、ああ、そうだな。我々と比べて上品な戦い方だと思っていたのだが……結局同じ事をして……いやまて、見ろ、レニー! あれは中々酷いぞ!」
「うわあ……」
「流石キリン、と言うべきでしょうか。我々には真似ができませんね、あれは」
我々と同じことをしているではないかと思ったのは一瞬のこと。キリンのホールドは、我々の拘束が可愛く見えるほどに、なかなかに凶悪で拘束力が高いものだった。
キリンは両腕でリブッカの頭を抱きしめ拘束するが、リブッカも負けては居ない。なんとかキリンを振り払ってやろうと、頭を振ろうとした……が、それは叶わなかった。
キリンの脚部パーツから左右に展開したのは2対のパイルバンカーだ。ズシンといい音を立てて地面を掴んだそれは、キリンの体をしっかりと大地に縫い付けて固定した。
そのため、リブッカは頭を振ってキリンを持ち上げることができなくなってしまった。いや、これだけであれば、まだリブッカにも逃げ道は残されていただろう。両腕の拘束をなんとかすれば、キリンの抱擁から脱出出来るのだから。しかし、そうはさせないのがキリンの恐ろしさだ。
両腕からやたらと頑丈そうなワイヤーがシュルシュルと飛び出して、リブッカのツノを巻取りしっかりと固定してしまったのだ。こうなるともう完全に動くことが出来ない。流石キリン、中々にエグいことをする。
さて、止めはヤマタノオロチが刺すのかな? さっき後ろに下がっていたからな、一気に踏み込んで居合斬りでもする――
「カイザーさん! 上です! 上! さっき上昇したシグレちゃんが!」
「なに!?」
『フェニックスゥウウウウウ……インパクトオオオオオオオオオオォォォ!!!』
上空からリブッカに向かって飛翔するのは赤熱化したフェニックス。またしても俺が知らない必殺技めいた事をしているのも気になるが、それよりも……あれは大丈夫なのか?
赤く燃え上がる機体は、その周囲をも高温で焼き、ユラユラと景色を歪ませている。アレが当たれば、リブッカは焼き鹿になるどころではなく、どう考えてもオーバーキルだろうと思うのだが……問題はリブッカを押さえつけているキリンだ。
これではキリンもろとも灼かれてしまうのでは無かろうか? いくらキリンでもアレには耐えきれないのでは……――
ハラハラと事を見守っていると、またしても俺の知らない単語がスピーカー越しに届けられた。
『『モードアイギス発動!』』
フィオラとラムレットの声が重なり、白く発光する……! なんだそれ! 知らないぞ! 聞いてないぞ! 名前から推測するに、おそらくバリアフィールドか? なるほど、そんな隠し玉があったからこそ、身体をはってまでリブッカを取り押さえようと思えたのか……。
白い光は膜のようにキリンを取り囲み、機体全体をすっぽりと覆い隠す。
直後、轟音。続いて衝撃。そして暴風。 気の毒な事に、やや近くで戦闘していた白騎士団や眷属達がそれに巻き込まれ、何機か転倒してしまっている……が、どうやら熱や衝撃によるダメージはなさそうだ。
そして……大きく舞い上がった土埃なのか、リブッカもろとも地を灼いた煙なのかわからないが、とにかくモヤが晴れると、そこには頭部以外消し炭になったリブッカの姿が現れた。リブッカだったものの周囲はグツグツと赤く焼けていたり、白い灰になったりと酷いありさまだが、範囲が絞られているのか、広範囲に被害が出るようなことは無かったようだ。
しかし、これは中々にオーバーキルじゃないか? データおばけのキリンにしては珍しいよな、普段であれば試験で得たデータを元に適切な出力を……
「……まさか、今始めて使ったとか言わないよな……?」
『はっはっは……そうさ、そのまさかだよ! 一発勝負だったとも。アイギスで防御していたとは言えヒヤヒヤしたよ!』
「そうだったな、君はそういうギャンブラーめいた事もするんだった! まったく、うまく行ったから良かったものの、一歩間違えば――」
『まあまあ、言いたいことはわかるがね、お説教は後にしてだ。それよりどうだねカイザー。ケルベロスに続いて私やフェニックスが披露した新技は! かっこいいかい? かっこよかったろう!』
「ああ、ああ! 最高だったとも! かっこよかったともさ! ……色々と言いたいこともあるし、君のやらかしについてはあとでじっくりと
『うむうむ……と、眷属化した機体達の無力化はなんとかなったようだね。では残る眷属を始末しておしまいとしよう。向こうに逃げた奴が居たみたいだからね、まかせてくれたまえ』
しかしフェニックスインパクト……恐ろしい技だったな……。頭部を残して消し炭になったリブッカ。白く焼けた大地……。頭部が無事だったのはフィールドの圏内に入っていたからだろうが……あの威力を考えると、あれはポンポンと使って言い技では無いな。まさに必殺技というわけか。
そんな事をブレイブシャインのパイロット達と話していたところ
『あれは見た目とその威力通りに、輝力の消費量が尋常じゃないのですよ。心配せずとも、そうポンポンと使えるものではありませんし、使った後はこの通り、すっからかんになってしまうのです』
と、シグレが困ったように言い『輝力の回復がてら周囲の警戒をしてますね』と、言い残してそのまま上空に飛んでいってしまった。
眷属達は決して弱い相手ではないのだが、強化された機体、VR訓練により練度を上げたパイロット達……それらが全機全員揃ったブレイブシャインの敵ではない。まして、ステラの面々も居るのだ、敵部隊からすれば、まるで悪夢のような状況だったに違いない。
……ほんとみんなが来るのが間に合ってよかった……。
◆新機歴121年12月15日15時02分 防衛任務終了――
気づけばもう日は大分西に傾いていて日暮れが近い。グランシャイナーと合流してからあっという間に戦闘が終わったような感覚だったが、実は結構な時間が経っていたようだ。それほど気を張り詰め、集中していたということか。なかなか濃い時間だったからな……。
「しかし、ほんと暗くなる前に終わってよかった。俺達は兎も角、村の住人たちの事を考えると尚更にだ。夜ともなれば何かと危険が増えるからなあ」
「そうですね、カイザー。グランシャイナーの到着が遅れていたらと考えると少々ゾッとします。流石の私でも、あの状況下では生存率が11%を超える解を出すことが出来ませんでしたし」
「それでも二桁はあったのか。流石俺の相棒だ」
「ふふ。レニーと私を逃して貴方が特攻した場合の数字ですけどね」
「くっ……全く君というやつは……」
「冗談ですよ、ふふふ」
ともあれ、なんとか無事に終わったな……。
今回ばかりは本当に駄目かと思ったが、なんとか生き残ることが出来た。戦闘による怪我人は出てしまったが、失われた命は0だ。防壁や畑、家屋等は守りきれず、軽くはない傷跡を残してしまったが、それでも人命を守り抜けたのは本当に嬉しい。
……これから先、ルクルァシアとの戦いはこれ以上に厳しい戦闘状況を余儀なくされることが増えるだろうな。眷属共も地味にパワーアップしてる。強くなったと慢心していてはいずれ足元をすくわれ、取り返しのつかない事態を招いてしまうかも知れない。
そうだな、やはりここは……
『おーいカイザー! レニー! 手が止まってるぞ! さっさと片付けて浜辺でご飯にするぞ!』
っと、マシューから怒られてしまったな。今回の一件で考えなければならない事が増えたけれど、まずは目先の仕事……荒らしてしまった土地の後片付けをしようか。
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