第四百二十四話 リブッカ
◆新機歴121年12月15日12時25分
ただでさえ狭い街道に列を成して敵勢力が現れたため、門前には中々に迫力がある光景が広がっている。
広くスペースが取られている門前広場にずらりと並ぶ敵勢力。その数、17+1匹。
眷属9機、眷族化機体8機、そしてリブッカである。
元々門前で我々を見張っていた眷属達が合流し3機数を増やしたが、道中要らぬ事をして減らした分の補填にはとても足りない。
だが……現在奴らには、思わず目を反らしたくなる様な応援がついている。そう、リブッカである。ムキムキとしたそのボディと、立派なツノは地球の動物であるヘラジカ《ムース》を彷彿とさせる。
我々と敵勢力は、顔を合わせて直ぐに『はい! 戦闘はじめ!』とはならず、現在絶賛にらめっこ中だ。
それを幸いと、スミレはせっせとリブッカの解析に取り掛かっていた。実体験や、書籍からの情報で作られた、魔獣データベースはかなり良いものに仕上がっているのだが、リブッカのデータは薄く、データベースに掲載されているのは名前と外見的特徴位のものだった。
なので、こうしてスミレ先生がいそいそとデータ解析に励んでいるのである。勿論、解析作業は戦闘中にする事も出来るのだが、事前に知っておけばそれだけ有利に立てるからな。こうしてチャンスが訪れた以上、利用しない手はないのである。
「ふう……。なるほど、脳筋ですねこれは」
「ノウキン? どういう意味なの? お姉ちゃん」
脳筋などと言うから戦闘前だと言うのに吹き出してしまった。その言葉を知らないレニーが意味を尋ねているのがまた。
「脳筋というのは、脳まで筋肉になっているような者を指すのですが……筋肉バカ、いえ、力こそ正義というようなタイプの例えるならばレインズ……いえ、それは良いのです。リブッカはシンプルなパワータイプの魔獣、そう言いたかったのです」
魔獣はザックリ分けると2パターンの攻撃方法を持っている。
一つは本来の姿、動物的な肉体的特徴を活かした打撃攻撃や噛みつきなどの物理攻撃だ。魔獣と呼ばれるものでも、動物に近い姿をした物が多く使う傾向にある。これまでに戦った魔獣で言えば、ダンゴムシ型のタンククローラやイノシシ型のヒッグ・ギッガがそれに該当する。
そして、厄介なのがこちら、身体に装着された武器を使うパターンだ。どういう理屈でそうなったのかわからないが、体毛の一部が固く鋭くなり、刃物の様になっているのはまだわかるのだが、口腔内にレーザービームを放つ機構を備えていたり、身体の外部装甲に火炎放射器を装備している物など、厄介な魔獣が数多く存在している。
名を挙げるならばやはりバステリオンか。奴が口から放ったビームにはかなり面倒な思いをさせられた。某機械生命体の模型も好きで集めていたので、実のところバステリオンはかなり好みの魔獣なのだが……まあ、今はどうでもいい話だろう。
武器を装備している魔獣は、やはりそれだけ手強い存在だ。以前戦ったキランビのソルジャータイプはバステリオンと比べると圧倒的に弱い魔獣だが、ニードルキャノンを装備していて遠距離攻撃を可能としていた。
遠距離攻撃を持たぬ状況で挑んでしまえば、ひどく苦労することだろうな。まして……キランビは群れで行動することも多いため、そうなれば今の俺でも単機ではなかなか苦労しそうだ。
つまり、リブッカなるヘラジカ型の魔獣が武器を備えているかどうか……遠距離攻撃を可能とするかどうかでかなり戦況は変わると睨んでいたのだが、どうやらその心配はないようだ。
「一応……あの角が武器と言えなくはありません。刃物化こそしていませんが、あの角で突かれてしまえば、硬質の棍棒で殴られたかのような打撃ダメージを受けてしまうでしょう」
なので、カイザー、レニー。どうか油断なきよう……と、スミレがまとめた所で動きがあった。
「おいおい……これは驚いた……このためのリブッカ狩りだったのか?」
眷属達は半円形に陣を形成し、街道を塞いだ。そしてその中央に居るのはリブッカ。そして俺。後方には守るべき門が、前方には眷属達が。完全に退路を塞がれた形になっている。
これではまるで……
「決闘みたいじゃないですか!! 7話で河原で悪い少年たちに取り囲まれて竜也と謙一が殴り合ったあのシーンみたいです!」
レニーにシャインカイザーで例えられると思わなかったが、そのとおり、これは正しく決闘だ。ただし、決闘みたいな事になってしまっているのは俺が単機で前に出てしまっているからだろうな。
眷属達としては、門を破る攻城兵器として配置したんだろうさ。しかし、あいにくその門を破られるわけには行かないんでね。せっかくだからここは決闘といこうじゃないか。
【ケィエェエエエェエエエエエエエン!】
リブッカが甲高い咆哮を上げる。それを皮切りに眷属達が武器を大地に打ち下ろし、ダン…ダン……と、嫌なリズムを刻み始める。まるで戦いを鼓舞しているかのようで、ますます決闘じみてきたぞ……眷属のくせに生意気な事をする。
「リブッカ後脚部にゲイン集中。チャージアタック来ます。備えて下さい」
「「了解!」」
スミレの指示に俺とレニーの声が重なる。
ないものねだりをしても仕方がない……な。
「レニー、カイザーブレードだ。ブレードで受け流そう」
正面から受けてしまっては少なからずダメージを受けるだろう。ならばブレードで力を受け流せば、そうレニーに提案したのだが。
「いえ! だめですよカイザーさん! 受け流してしまうとそのまま門に向かわれる恐れがあります!」
上手く角度をつければそんな事はあるまい……と、反論しかけたのだが辞めた。議論を重ねる余裕はないし、何より……よく考えてみればレニーにそんな器用な真似は出来ないのだ。
「だから……! 拳で……止めるっ! 来い! カイザァアアアアアアガントレット! 改ッ!」
「こ、拳で!? いや待て、ガントレット……改……だと!?」
レニーの雄叫びとともにストレージより召喚され、俺の手に装備されたのは確かにカイザーガントレットだ。しかし、それは俺が知っている物ではなく、以前より大型化し、現在の体格ぴったりに改装されているものだった。いやいや、いつの間にこんなものを用意してたんだ!? いつの間にストレージにつっこんだんだ!?
「ふふ、こんな事もあろうかとっていうやつですよ! さあ! いっくぞおおおおおおお! リブッカァアアアアア!」
【ケィエェエエエェエエエエエエエン!】
レニーが拳を構えるのとリブッカが地を蹴ったのは、ほぼ同時であった。
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