第三百九十八話 発進

 新機歴121年12月8日13時02分


 グランシャイナーストレージ内への機体及び物資の収納完了。内訳としてシュトラール改40機、エードラム二式50機、エードラム改80機。


 アランドラ、リリィ両名が乗り込むシュトラール二式改、ジルコニスタ、ナルスレインがそれぞれ乗り込むエードラム二式改これら3機は白地に金色の模様で彩られ、ブレイブシャインの機体と並んでハンガーに収まっている。緊急時には我々と並んで戦力になるだろうという判断でそうしているのだけれども、実際かなり頼りにしているのです。


 ナルスレインを指揮官として新たに編成された白騎士団ステラには、同盟軍の捕虜となっていたお陰でルクルァシアの洗脳を逃れていた帝国軍の兵士や、洗脳状態から回復した元黒騎士達も加わっている。


 指揮系統的には総司令官であるカイザー事、私の指揮下に入っては居るが、ステラはナルスレインの判断で遊撃隊として動いて貰う事にした。彼らの役割は帝国の開放である。それを何より優先して動いて貰うため、指揮系統を分け、柔軟に動けるようにしたのだ。


 現在、ルクルァシアの軍勢はビスワンを落とし、その西にあるマーディンに向け進軍中である。


奴らの部隊はシュヴァルツの様な機体に乗っていて、一見すると黒騎士団に率いられた帝国騎士団にしか見えないが、そのパイロットは人間ではなく、ルクルァシアの眷属が入り込んで操縦しているということがわかっている。


 ……それだけであれば、まだ戦いやすかったのだが、さらに届けられた続報によれば、同じく黒騎士団や帝国騎士団の制服を身にまとったパイロットが乗っている機体も確認出来たとのことだった。


 それもどうやら尋常な様子ではなく、皆一様にうつろな眼差しで、貪るように兵糧を口にしていたのだという。その様子はまるで何かに操られているようであるとのことだった。


 恐らく、それはルクルァシアの支配を受け、洗脳された状態ではないかと推測される。

 元がお子様向けのロボットアニメであるシャインカイザーなので、作中にはそこまでエグいシーンは無かったが、敵幹部が誘拐した人間たちをルクルァシアが洗脳し、カイザー達の作戦を妨害するという事はちょいちょいあったからな。


 たしか『眷属化』なんて無駄に気取った言い方をしていたと思うのだが、作中では問題が解決した後、間もなくして眷属化から開放されていたため、現在ルクルァシアの手先と化しているパイロットたちもきっと救うことが出来るはずだ。


 ……そう考えると本当にやりにくい。下手な攻撃をしてしまえば、救うこと無く命を奪ってしまうことになるからな。相手が望んで敵対していないことがわかっている以上、無力化は大きな課題となりそうだ。

 

 通常なら、敵の侵攻ルートからして、目的はトリバの重要な穀倉地帯であるオグーニの掌握と、イーヘイの陥落だろうと考えるのだが、相手がルクルァシアとなると素直にそうだとは思えない。奴の内にあるのはただの侵略と掌握のみ。


 ただ、手始めに大陸東部を落としてやろうと、純粋に通りやすい道を選んで移動しているのではないかと考えられる。


 しかし、その場合でも通り道となってしまうだろうオグーニは、結局奴らに潰されることになってしまう。オグーニに広がる農業地帯はトリバにおいて重要な食料庫だ。そこが荒らされてしまっては、酷く面倒な事態になってしまう事だろう。


 なので、我々は進路をオグーニの東部に位置するマーディンに向けて移動。我々と同じく現地に向かうトリバ軍と合流し、陣地を形成する。


 用意ができ次第ルクルァシア軍と交戦。現地の安全を確保した後、我々ブレイブシャインとステラを中心とした帝国奪還チームは帝国に攻め込む――と言う予定である。


 まあ、あくまで予定は予定だ。通信網を敷いていたお陰である程度の情報は届いてくるけれど、実際の所は現地に行かねばわからない事も多いからな。


 一応、ポーラに居るフィアールカの本体からの情報でルクルァシアは出張ってきていないと伝えられているので、今回のような作戦が立てられたのだが、劇場版ルクルァシアの力は未知数だ。慎重に事を進めようと思う。



 新機歴121年12月8日13時38分


 グランシャイナーへの乗り込み、全て完了。乗員は328名と、若干定員オーバーだが椅子が足りないだけで飛行には問題は無い。時間も無いので演説は省略。基地に残る仲間達には『行ってくる! 留守は頼むぞ!』と、シンプルに伝えて急ぎ発進した。


 グランシャイナーの移動速度ならマーディンまで約5時間で到着する。敵勢力が使用している機体が一般的な帝国機のスペックと同等であると推測すると、ビスワンからマーディンまで寝ずに歩いて1日と言うところだろう。


 地点に到達する頃には、先に到着し、待機しているトリバ軍と合流することが出来る。

 その頃の敵位置を推測すると、現地から機兵の足で1時間から3時間と言ったところだろうか。相手が通常の人間ではない以上、しっかりとした計算をするのは難しいが、それでもガワは機兵には変わりはないので、早くとも1時間の距離だろうと思う。


 ビスワンが落とされたのを残念に思っていたが、アズとレイによれば、ルナーサが陥落してからビスワンは遅かれルクルァシア軍に落とされるだろうと予測していたのだという。


 敵軍の動向を探る前線の村として、住人の殆どを同盟軍に置き換えた上で、攻め込まれたら足止めをしながら即座に撤退できるよう、密かに村の設備を整えていたらしい。


 有事にはギリギリまで敵を引き留め、囮となるのがその役割、つまりはトカゲの尻尾的な村になっていたとのことだ。


 村人達も、国境沿いという土地柄、覚悟はしていたようで、特に文句を言うこと無くまーディンやフラウフィールドに疎開してくれたらしい。


 見た目的には牧歌的でも、中身はガチガチのトラップ祭りに魔改造されてしまったわけだ。あの村の雰囲気は結構好きだったから悲しいものがあるな。


 このままマーディンが落とされてしまえばオグーニ、下手をすればフロッガイやフラウフィールドにまで戦火が及ぶかも知れない。そうならないためにも、ビスワンは犠牲となって敵の足止めをしてくれている。なんとしてでもマーディンに来る前に食い止めねばな。


 離陸から1時間後、基地から通信が入った。基地の通信室に詰めているアズベルトからである。


『こちらアズベルト。ルナーサからの報告が先ほどようやく届いたよ。ルナーサ側に関しては、以前よりも若干守りが堅くなったくらいで特に大きな動きは無く、サウザンやキャリバン平原方面への進軍準備をしている様子はなかったそうだ』


「やはりルナーサという土地だけ欲しいだけだったのか、二国同時に攻めるほどのリソースがないという事なのか……どちらかはわからないけど、とりあえずおとなしくしてるのはありがたい」


『そうだね。一応サウザンにも同盟軍を展開して備えては居るけれど、心許ない所はあるからね……。君達に頼れない以上、ルナーサ領が静かなのは本当にありがたいよ』


「とは言え、万が一サウザンが落とされたらキツいよね。引き続き監視をお願いしといてね。こちらからもポーラのクマたちに頼んでおくから」


『ああ。では、また1時間後に』


 我々の活躍により制御を取り戻したポーラは、現在この大陸上空で静止衛星として地上を見張っている。静止衛星の仕組みを真面目に考えてしまうと、一体どうやって位置を固定しているのだろうと頭が痛くなってくるんだけど、ポーラの場合は物理とかそういう真面目な何かじゃなくて、適当な謎パワーによる力技なのだろうと思う事にしている。


 そのポーラに搭載されているカメラにより、ルナーサ周辺とビスワン周辺、そして帝国があるヘビラド半島はある程度見張られているというわけだ。


 とは言え、それも完全では無いから、地上からの目、大魔法使いの山にある監視基地や各地の諜報部隊からの連絡も大いに頼りにしているわけなんだけど。


 さてマーディン到着まで残り4時間を切った。まずはマーディンの防衛。そしてビスワンの奪還……。

 

 それが終わればいよいよ決戦だ。


 首を洗って待っていろよ、ルクルァシア。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る