第三百九十四話 現場よりマシュー
◆SIDE:マシュー◆
前に洞窟でやったみたいに、キリンは……ええとなんだっけあれ、なあフィオラ……ああ、そうそう、それだわ『もーどがれーじ』になってあたい達に指示を飛ばす。
予想はしていたけれど、じっちゃんやリックのじっさま達はキリンのことを大層気に入ったみたいだ。そりゃそうだよな、自分達と対等以上に話ができる知識があってさ、技術者としての腕も良い。そこまでならまあ、探せばどっかにザックみたいな変わり者がいるかもしんねーけど、我が身を工房に変えるヤツなんてキリン以外にいないよ。喋って動く工房だぜ? 技術者連中からちやほやされねーわけねーわ。
キリンみたいな機兵が量産できれば、仕事で移動することが多いトレジャーハンター達に人気がでるだろうなあ。ケルベロス達みたいに喋って動けなくてもさ、移動させられる工房ってだけで需要はあるよ。
ま、なにより先に『変形』が出来る機体を作れるようになるっていう第一段階をクリアする必要があるけどね。
平和になったらじっちゃん達をそそのかして、キリンも誘って一緒に研究するのもわるくないかもしれないね。
さて、現在あたい達がキリンの指示で作っているのは『対伐採・整地用兵装』とか言う機兵用のやたらデカい道具なんだけれど、それはひとつだけじゃ無くって、3種類の装備がキリンより提案されてさ、今はみんなで一生懸命に作ってるとこなんだ。。
まず1つ目は機兵が装備して伐採するための装備だ。これは1機の機兵で運用するタイプと2機以上、またはキリンが単体で装備するタイプの2種類作られている。
どちらも回転する刃が付いた伐採用装備であることには変わりはないんだけど、1機用はそのまま武器にも転用できそうな細長い刃が付いたもので、キリンは『これはちぇーんそーと呼ばれている物だ』とかなんとか言ってたな。一度に多くを伐採出来ない代わりに、小回りが効くので大型タイプで手がまわらないところのフォローに使うとか言ってたな。
で、その大型タイプなんだけど、マジで凄まじいの一言に尽きる。『むげんきどう』とキリンが呼ぶ気持ちが悪い車輪のようなものがつけられたその装備はとてもでっかくて、機兵2機以上で押すように動かしながら使うものなんだ。完成品を見た時はなんだか攻城兵器のようで笑ってしまったけれど、よく考えたら実際にそのような運用も出来るんじゃねえかなって思う……。
なんと言っても凄まじいのは、巨大な円形の刃が2枚ついているところだな。手元の操作盤で自在に位置を変えられる2枚の刃でどんどん強引に木を伐採することが出来るんだ。
キリンが単体で使う際には、洞窟で岩をガンガン削ったときと同じ具合で、例のヘンテコな形状に変形して1機でゴリゴリと切りながら進むそうな。その様子を想像してみた時には、もうあいつだけで良いんじゃねえかなってちょっと思ったわ。
これが伐採用兵装なんだけど、次の2つめが、またヘンテコな奴なんだよな。
それは抜根用兵装とかいうやつで、切り株をドンドン引き抜いちまう奴なんだ。まずはじめに根っこにパーツをガバリとかぶせ、周囲の土をわわっと除去するんだ。
そうやってある程度根っこが露出したら、パーツの内側から生える凶悪な形状の牙みたいなパーツで切り株を掴んで力任せに引き抜いてしまう。木の根っこを掘り出す苦労はあたいも知ってるからね。あのヘンテコな奴のありがたさをしみじみと感じたよ。
これらの兵装を使ってどんどこ伐採された木や切り株を処理するのが3つ目の兵装……いや、これは機兵の装備じゃなくって『製材所』と呼んだほうがふさわしいだろうな。固定式の『ちぇーんそー』や腕だけの機兵をどんどこ操って木や切り株達を建築資材や薪に変えていく施設だ。
出来上がった木材はクルー達の宿舎や店なんかを建てるのに使うそうだ。それでも沢山余ってしまうであろう木材達はしまっておいて『いざという時』に使うらしい。
……ルクルァシアとの戦闘が大規模になっちまって、街や村に被害が出た際の復興用資材ってことだな。いざという時が来ないようにするのもあたい達の仕事だな。
あたい達の都合で切りまくっちまう木達だって、何か明るくて楽しい事に使われた方がいいに決まってる。奴との戦いには気合いれて挑まないとならないね。
つーわけで、あたい達はキリンが配った図面や資料を見て驚いたり興奮したり、喜んだりしながらせっせと工具を振ってるってわけだ。
いやしかし、この「もーどがれーじ」って奴は凄いよな。前も思ったけど、あたい達が今まで使っていた工具たちは一体何だったんだろうと思うレベルで便利な工具が揃っているんだから。
まして、キリンが密かに作っていたらしい『工作用外部装甲型機兵』という、長ったらしい名前の小型機兵の存在がかなりヤバい。乗り込むと言うよりは、着るといった方がしっくりとくるそれは、生身の身体ではどうしようもない『力』を与えてくれるんだよ。
力自慢が3人集まってようやく運べるパーツをさ、そいつを纏った奴は1人で軽々担げてしまうんだもの。腕力だけじゃあなくて全身の筋力が底上げされるような具合になってるらしくって、あれを着て走れば馬より速いし、跳べば背丈の3倍は軽く上昇することだって出来る。手に持つ得物をスパナから剣に持ち替えたら……って考えたらゾッとしたよ。
人より二回り大きい程度の機兵と考えるとかなりヤバイぞこれは。ちょろちょろと戦場を駆け巡って妨害工作を仕掛けたり、敵の基地に忍び込んで破壊工作だってこなせてしまう。それも、熟練の工作兵じゃなくてもいい。下手すりゃひと月程度の訓練をした兵士でもそれを可能にしちまうかもしれねえ。
あたいたちブレイブシャインにグランシャイナーのクルー達、そして連合軍のパイロット達といった機兵乗りだけじゃあなくって、パイロットとしての技術じゃ無くって、我が身で戦うための腕を磨いて来た連中が対機兵戦の重要な戦力に化けてしまう、あの小型機兵にはそんな秘めた力を感じるね。
……もっとも、一応は赤き尻尾の代表やってるあたいからすれば、さっさと平和な世の中に戻してさ、あれを思う存分発掘作業に使ってみてえってのが本音だけどね。
今なら旧ボルツ領だって補給がたやすくなって採掘作業の難度がぐんと下がってるんだぞ。ほぼ手付かずのあの地にどれだけお宝が眠っていることか。ああ、考えるだけで腕がうずくぜ。
さーて、そろそろ製造作業もおしまいだ。モリモリと木材を切りまくってやるぜ!
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