第三百六十二話 神事

 まるで我々が来ることをわかっていたかのように………いや、実際何らかの力でわかっていたのだろうな。そうで無ければこの状況はどうにも理解をする事が出来ない。


 現在我々ロボ軍団はもれなくきらびやかな布を装着され、首からはしめ縄のような物をぶら下げている。これは差し詰め……


「ふふ、カイザー。まるでお正月の自動車みたいですよ」

「……君は変なことを知っているな。近年はあまり見かけなくなっているというのに……」

「貴方の記憶を一部共有していますから当然です」


 しかしスミレの言うとおりなのだ。それでいて、我々が居るのが神社というのだからもうたまらない。お正月特番の特別編かとツッコミを入れたくなる。コクピットに鏡餅を置かれやしないかヒヤヒヤしたくらいだよ。


 めかし込んだ我々は今もまだ倉の中で待機させられている。なんでもプログラムに沿って呼び出されるとのことだが、なんだかほんと大事になっているな……。


「君に疑われる前に言っておくけどね、私は何も知らないからね。君はネタバレをするなと言うし、私もそれは尊重しているが、これだけは敢えて言わせて頂こう。私が居た世界線であっても、こんな面白いイベントは起きなかった。流石にこれはオリジナル展開だと断言するよ」


「キリン……それは流石に言われなくてもわかるよ……」


 ロボ軍団と話しをしていると、着替えをしてくれた巫女達が我々を呼びにやって来た。


「機神様方、お待たせいたしました。私共が先導いたしますので、ごゆるりとどうぞ」


 しずしずと歩き、先導をする巫女達。うう、この体格でゆっくり歩くのは難しいのだが……僚機たちも心なしか辛そうである……が、ここは我慢をするしか無いのだろうな……。


 なんとか蔵から一歩踏み出した瞬間、わっという歓声が。

 顔を上げると、神社の広場に集まる多くの村人たちの姿が見えた。巫女達が向かう先にはこれまた神社でよく見るヒラヒラとした紙……紙垂しでがつけられた縄が張られたスペースが有り、どうやら我々はあそこに入るようだ……。


 そしてそのスペースには先導をしている巫女たちとはまた違った巫女服、若干豪華な巫女服に身を包み、頭に何かきらびやかな装飾品をかぶった少女が二人。


「見てくださいカイザー、レニーとフィオラですよ。ふふ、録画しておきましょうね」

「なんというか……不思議と似合ってるな……」


 そしてレニー達と共に縄の内側に立っているのはパイロット達。流石に彼女達まで巫女服に身を包んでいるようなことはなかったが、やはり頭には何かを被せられていて、マシューとラムレットがひたすらに辛そうな顔をしている。


「おい、スミレ。マシューとラムレットの様子も撮っておけよ。あれはとても嫌がっている顔だ! 後で見せてやったらきっと喜ぶぞ!」

「心得ていますよ。ふふふ、カイザーも意地悪ですね」

「スミレさんには言われたくないさ」


 我々のおめかしに気づいたらしいマシューとラムレットが辛そうな顔から一転。笑いをこらえた顔に変わる。見ろよスミレ、おあいこと言うやつだよ、これは。


 先導の歩みがゆったりとしているものだから、たっぷりと村人たちに見られることになり……中々に辛いものがあったのだが、同じくらいマシューたちも視線にさらされていると思えば溜飲が下がる。我々は家族みたいなものだからな! 喜びも悲しみも恥も共有してこそだよ。


 ……一番辛そうにしているのはやはりレニーか。フィオラと喧嘩をして飛び出したとだけ聞いていたが……もしかして巫女服を着るのが嫌だとか修行が嫌だとか、そんな理由もあったのかもしれないなあ。


 耳まで真っ赤にしてうつむいている辺り、本当にあの格好が恥ずかしいのだろう。逆にフィオラは涼しい顔をして……いや、こちらを見てニヤニヤする余裕はあるようだ。


 そしてようやくレニー達のもとにたどり着くと『シャン』と鈴の音が聞こえた。鈴がたくさんついた長い杖を持ったレニーの母親と何やら剣のようなものを持ったレニーの父親が登場し、いよいよ神事が始まるようだ。


「皆様。本日機神様がこの地に降臨なさいました。先祖代々に渡り護り通した我々の御勤めが実を結ぶ日がついに訪れたのです。今では御勤めを忘れつつ有る民も居ることでしょう。しかし、それを恥じる必要はありません。本日の神事にて、グレンシャの民に課せられた御役目を思い出し、そして共に祈りを捧げれば全て赦されるのですから」


 シャン、シャンと杖を鳴らしながらレニーの母親、アイリさんがなにやら神事の前説をしている……前説と言ったら怒られそうだが。


「我々はやがて現れる邪神を打払う機神様をお迎えし、新たな力に導くお役目を大神から賜り、先祖代々この地を今日まで護り続けてまいりました。本日はこの5柱の機神様方と6人の使徒達に祝福を授けると共に皆様に大神からのお言葉を公開したく思います」


『使徒』と言うのはパイロットの達の事か……。大神というのは間違いなくあの神様のことだろうな。なんだかとんでもないネタを仕込んでくれたものだよ……。後でじっくりと話を聞く機会がとれると良いな。説明をしてもらいたいからな!


「それではまず、機神様方と使徒達の紹介を致します。こちらの白き機神様がカイザー様。この機神様方を束ねる大いなる光、それがカイザー様です」


『おおいなる光……カイザーも立派になったものですね』

『うるさいな!』


「カイザー様には紫電の女神、スミレ様も搭乗されており……」


『し、紫電の女神だと。ふふっ め、女神様ってキャラかよ……くくく……』

『やめなさいカイザー。というか紫電の女神と例えたのは誰ですか……』


 そして謎の二つ名を与えられながら我々の紹介が終わり、同じく『使徒』達の紹介も進められていった。


『白銀の巫女』『銀翼の巫女』と紹介されたレニーとフィオラも非常に傑作だった。そう呼ばれた瞬間の二人の顔と言ったら……これは後から大いに身内で盛り上がることだろう。


『カイザー、悪巧みは後にしてください。巫女が村のお役目について語り始めましたよ』

『おっとスミレありがとう。きっと我々にも関係がある話だろうからな。真面目に聞こうじゃないか』

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