第三百六〇話 移動
レニーとフィオラが顔を見せたことにより、村人達の緊張は解けたのだが……村の入口前にどんどん村人たちが押し寄せ、我々は村の入口から先に進めないままでいる。
巫女の姉妹が機神様を連れて帰ったぞと、親切な人が村中を走り回って宣伝してくれているようで……流石にこの状況では危なくて歩くことも出来ない。
すっかりお祭り騒ぎになってしまっているので、これじゃあ何時になったら収まるのかわかったもんじゃないぞ。
「レニーなんとかしてくれよお……。ミコ? なんだろ? 言うこと聞かせらんねえのか」
「それは言わないで! 私は巫女じゃないし、そもそも巫女は別に偉くないから!」
狼狽したマシューがレニーに頼るも、レニーはすごく嫌そうな顔でそれを否定する。確かにレニーに巫女は似合わないよな……なんて失礼なことを考えていると、気絶したバルさんと共に一足先に俺から降りていたサナが誰かを連れて戻ってきたのが見えた。
「おーい! レニー! フィオラー。おじさんとおばさん連れてきたよー!」
「げえー!」
『お姉……変な声出さないの!』
「いやだって……流石に……ね?」
『まー、お姉が悪いんだからしょうが無いね。なるようになるよ』
サナが二人の人間を連れ、こちらに向かってくると、俺達に群衆が綺麗に割れて我々までの道が出来上がった。サナのセリフからして、連れてこられたのはレニー達の両親なのだろうが……しかしこの状況は……。
「おーい! レニーちゃーん! お母さんよー! フィオラーちゃーん! おかえり~!」
「お父さんもきたぞー! おおい、レニーちゃーん! 顔を見せておくれ!」
「レニー……」
「ちゃんですの?」
「可愛らしい呼び名ですな」
「ほら、レニーちゃん。ご両親が呼んでますよ」
「うう……ううー! もー!お父さんもお母さんもやめてよ恥ずかしい!」
「ほら、あなたレニーちゃんよ。しばらく見ない間に大きくなって。フィオラと同じくらいだわ」
「当たり前だろう? レニーちゃんはフィオラちゃんのお姉ちゃんなんだから。そりゃ育ってるさ」
「ついこの間までこれくらいだったのにねえ。外で美味しいものを食べたのかしらね?」
「レニーちゃんは食べるのが好きだからね。それはあるかもしれないねえ」
「もー! 人を犬か何かみたいに言わないで!」
なんだか強烈で愉快な両親が登場したな……。
レニー達と同じ目と髪の色をした母親は巫女服の様な物を纏っていて、どことなくレニーの面影がある父親は神主のような格好をしている。
あくまでも「ような」というだけで、全くそれそのものというわけじゃあ無いが、どこかしら日本の神社を連想させるそんな服装だ。これもきっと例の神様のイタズラに違いない。
「ところでレニーちゃん、大きなお友達と、中に乗ってるお友達の紹介をしてくれないかい?」
「そうよー! お父さんとお母さんには隠し事はできないんだからねー! ああ、でもこのままじゃ駄目ね」
凄い。なんか凄い、グイグイと来る両親だ。こちらの正体というか、事情を知ってるっぽいのは置いといて、ひたすらに強烈だ……。
その強烈な二人が群衆に向かって声を張り上げた。
「はーい! 皆さん聞いてくださーい! 突然ですが、今日はお祭りの日に決まりました! はい! 今決めました!」
「レニーちゃん達が連れてきた機神様の紹介をするから、皆は2時間後くらいに神社広場に移動してねー!」
お祭り……? 今決めた……?
「……カイザーさん、みんな……。色々と言いたいことや聞きたいことはあるだろうけど……もう少しまっててね……。どうせ、どうせ直ぐわかることだから……うう……」
『お姉観念しなよね。ここで逃げたら皆にも迷惑かかるんだから』
「わかってるわよ! もー!」
レニーの両親による群衆への説明によれば、祭りは夕方から行われるらしい。それまでの間、我々は先に神社広場とやらに移動をして準備をしてほしいとのことだが、準備とは一体……ていうか、やっぱり神社の巫女さんと神主さんっぽいな……。
事情が飲み込めず混乱する我々を尻目に、レニーの両親はニコニコとただひたすらに嬉しそうにしていて、我々を先導するように神社広場まで案内をしてくれた。
流石のスミレもこれには動揺を隠せない様子で、非常に微妙な表情を浮かべながら必死に村のデータを拾い集めていた。なんだか普段見ないほどに戸惑っているスミレ見ていたら俺の緊張はすっかりほぐれてしまった。
広場に向かう途中に見えるのは村人たちの家だ。そのどれもが美しい白い壁をしていて、なんだか妙に懐かしい既視感を覚えた。あの壁はどういう建材なのかとレニーに聞いてみると、漆喰を塗った木造家屋とのことだった。
なるほど、漆喰か。言われてみれば父の実家にあった蔵とよく似ているな。既視感は底から来ていたか。ふふ、そう考えると、なんだか小さな蔵がたくさん並んでるようで和んでしまうな。
建物と建物の間は広く離れていて、間に木々が茂っている。この緑を多く取り入れた街づくりはどことなくリバウッドを彷彿とさせるが、あの街と違ってこの村には川が流れていないので、また別の独特の雰囲気があるな。
しかしレニーの両親は……一体何者なのだろうか。いや、巫女と神主であろうことはわかっているのだが、そのスペックの凄まじさと言ったら。
なんと二人は我々の歩幅に負けぬ速度で先導をしているのだ。それでいて、小走りをしているようにも見えず、ただ普通に歩いているように見えるのに、凄まじい速度で移動している……。
おかげであっという間に広場前に到着してしまったのだが……おっと、あれは……。
「鳥居だ……御両親の姿から予感はしていたけど、ここにもあったんだな」
「あ、これってリーンバイルにもあったやつだな?」
「ですな……まさかレニーの実家にも同じものがあるとは……しかし、ここのは大きいですね」
「確か外敵から身を守る結界の発生具だとか言っていましたわね」
「あーーー! そう言えばそうだね! シグレちゃんとこにもあったよねえ、これ……実家に同じのがあったのになんで気づかなかったんだろう」
「お姉はほんとそういうとこ駄目だよね。アニメでも同じの出てたのに反応しないんだもん」
「ああ、そういえば出ていたね。アタイさ、竜也達がこのトリイをくぐった先で食ってる肉パンが羨ましくてねえ……」
「そうだった……アニメにも同じのが出てたね……ほんと、どうしてあたしは気づけなかったんだろ……」
「どうせ無意識のうちに実家のことを封印してたんでしょ。お姉ってそういう頑固なとこあるしさ」
「くう……」
そう、我々を迎えるように立っていた赤い柱のようなもの、それはまさしく巨大な鳥居であり、その奥には石畳が敷かれた広場、そして最奥には大きな神社の姿が見えた。
「村の建物もそうでしたが、あの建物はよりリーンバイルの様式に似てるでござるな」
「ああ、リーンバイル
グレンシャ村に神社があるというのは非常に不思議だがね……と、キョロキョロと広場を眺めていると、レニーの母親がこちらに向かって声をかけた。
「はい、じゃあ皆用意するわよ。パイロットの皆はおりて頂戴。レニーちゃんとフィオラちゃんはお着替えね。ええと、カイザーさんでしたわね? 悪いけど、支度がありますので一度分離をして僚機の皆様たちと、ええ、もちろんそちらの黄色い機神様もご一緒にあちらの建物に入ってくれるかしら?」
……ようし、驚かないぞ。驚かない。色々と突っ込みたいが驚かないぞ。
「彼女は随分と我々の仕様に詳しいようですが、レニーの母親とは何者なのでしょうか?」
だめだ、スミレ。その謎に今触れるのは駄目だ。もう俺はいっぱいいっぱいなのだからな!
「ま、まあ……取り敢えず、指示に従って流れに身を委ねようじゃないか……きっと悪いようにはならんだろう」
「楽観的ですね。レニーの両親ですから私も疑ってはいませんけれども」
話についていけず戸惑うパイロットと別れ、我々僚機たちもまた同様に戸惑いを隠せないまま、若い巫女に案内をされて巨大な蔵に入った。
「これは……驚いたな……遠くからも見えていたから何かと思っていたのだが……」
俺達が足を踏み入れた蔵。それは外からは決して想像できない内装だった。
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