第三百四十五話 キリンの仕様
スミレとウロボロスによる診察の結果、やはりキリンの輝力炉の破損及び異常が確認された。破損の他に異常とは穏やかではないなと思ったが、詳しく話を聞いてみると、どうやらその『異常』と言うのは、そう悪い意味ではなさそうだった。
「正直言って困惑しています。未知の機体なので少々警戒をしましたが、蓋を開けてみれば概ね見慣れた仕様……それに黒森重工の刻印が随所に見られましたので、キリンを僚機だと確信しました。しかし……」
『いやびっくりだよね。確かに彼女の機体は僕らの仕様と共通点が多い。しかし、そのどれもが洗練され進化している』
『パーツ各所に黒森重工の銘が入っていたから生まれた場所は同じみたい。でも、明らかに私達のパーツより改良された新型だろうなってものが使われていてね、なんだかちょっと嫉妬しちゃったわ』
ふうん、最新型のパーツを使っている……地上波版の俺達より進化した機体ねえ。劇場版を見ていないから……そう、劇場版を見ていないからその辺りの経緯が全くわからないんだよな!
なんだろうな、ロボットアニメや特撮ヒーローで近々新機体や新フォームが出る時ってさ、先におもちゃの情報が出るじゃんか。そこでガッツリネタバレしてくるじゃんか!
私は! それが! あんまり! スキではなかったッッ! アレはホント辛かったよ!
しかしあれは避けては通れない。アレを避けようとすれば本やネットという媒体全てから1~2ヶ月は離れなければいけなくなる。そんなことは無理な話なので、割り切って楽しむようにしていたんだけど……。
はあ、まさか実物が歩いてネタバレに来るとは夢にも思わなかったよ……。
「カイザー? 聞いてますか? カイザー? ……ルウちゃーん? ルーウーちゃーん?」
「だからルゥちゃんと呼ぶなって! ……ああ、ごめん。キリンの報告だったね」
「大丈夫ですか? 心ここにあらずと言った感じでしたが」
「いやほんとごめん。ちょっと劇場版を見るより先に
「まったく貴方は……」
盛大にため息をつくスミレ。そんな大きな溜息をつかなくてもいいんじゃない……?
私は軽くショックを受けてるんだからさ……。
「そんな貴方に報告です。良い報告と悪い報告、どちらから聞きますか?」
「……なんだいそのノリは……。上げてから落とされるのは嫌だから悪い方から頼む」
「はい、では悪い方から。キリンの仕様は貴方が劇場版を楽しむに当たって支障となるレベルの……ぶっちゃけた話、かなりヤバいネタバレが含まれています」
「……なん……だと……? スミレの言葉が乱れるほどにヤバいネタなの……?」
「ヤバいです。それで良い報告ですが、なんとキリンには小型の輝力炉が2基搭載されていました。
片方は重篤な破損をし、完全に停止してしまっていましたが、その仕様のおかげで、生き残っていたもう片方によって今日までなんとか活動停止をせずに済んでいたようですね。
残された炉によって機体の維持がなされていたため、私達は破損した炉を修復するだけで済みそうです。炉の修復にはもう少し時間がかかりそうですが、それが済んでしまえば輝力が満ちるのを待つのみです」
「……デュアル輝力炉……それも十分ヤバいネタバレじゃないか……」
「ある意味ではそうですが……アレは序の口ですよ。真のネタバレは別の情報なのですが……どうします?」
「ああ、聞くよ。どの道、キリンとは行動を共にすることになるだろうし、遅かれ早かれ彼女のデータは把握して置かなければいけない。私のワガママで知らんぷりは出来ないからね」
「意外と大人なんですね、カイザー。ふふ、ルゥちゃん。後でいいこいいこしてあげますからね」
「いいから報告して……」
なんだか妙に機嫌が良さげなスミレがキリンのスキャンデータを投影し、ざっくりとした解説を始めた。
「まず輝力炉のお話ですが、先程説明した通り、我々のものよりも小ぶりな輝力炉が2基搭載されています。1基あたりの出力量は我々のものより低出力ですが、同サイズにした場合、我々の炉より出力が高い高性能な炉であることがわかりました。
片方は重篤な損傷を受け機能停止、もう片方は軽微な故障で出力が落ちていながらも、今日までしっかりと輝力生成を続けられていたようです……」
劇場版の黒森重工にどんなブレイクスルーが起きたっていうんだ……? ちくしょう、その経緯がめちゃくちゃ気になる! ……! はっ! レニーの故郷にある円盤が予想通り劇場版だというのであれば……先にそれを見てからキリンと行動をともにしても良いのでは!?
「カイザー!? 聞いてますか!?」
「はい! 聞いてます! すいません!」
だめだ! 今更スミレに『やっぱ話すの辞めて!』なんて言えっこない。さっきかっこをつけたのもあって尚更言えないぞ。
悔しいが、非常に不本意だが覚悟を決めて話を聞こう。
「……輝力炉をわざわざ小型化してまで2基搭載している理由、それはキリンがシュトラールのように2つのコクピットを持つ二人乗りの機体だったからです」
「なんとなく……作中でもいつかそういう機体が作られそうな気はしていたけど、劇場版でとうとう作られたのかあ……。っく……! 出来れば劇場で見て興奮したかった!」
「お気持ちは察します。しかし妙な偶然ですね。ちょうどフィオラとラムレットの為に用意されたような……あまりにも出来すぎた話ではありませんか……?」
「ただの偶然かもしれないし、神のいたずら、比喩ではなくてほんとうの意味でそうなのかも知れないね」
……あの神ならマジでやるからね。キリンと合流させるために妙な気象現象を起こして誘導しただけではなく、シュトラールの開発やフィオラとラムレットの出会いにまで……いや、レニーとの出会いの時点で何らかの干渉があったのかもしれないな。
俺が望んだ『シャインカイザーになりたい』という願いを成立させるため、そして自分が楽しむため、世界を面白くするためになら何でもやりそうだしなあ、あの神……。
一人私が頭を抱える中スミレの報告は続く。
「ただ、キリンのメンテナンス中に一つ問題が発生しました」
「問題? まさか完全には直らないとかそういう話ではないよね」
「いえ、スキャンや修理自体は可能なのですが……キリンのOSをチェックしようとした所、アクセスができなかったのです」
「アクセスが出来ない? 僚機だと言うなら、例え合体対象機ではないにしろ、アクセス自体は出来るはずだろう? 武器だって一応はチェック出来たじゃ無いか」
非合体対象機、厳密に言えば機体ではなく大型の装備達だ。衛星とリンクが可能となる『サテライザー』や一応バックパックもその対象となる。各装備にも個別にOSが搭載されていて、機体と接続することによってデータリンクがなされ、様々な機能を使用可能となるのだけれども……。
「そうなんですが、非常に悔しい話、どうもキリンのOSは我々のものよりも新しいようで、こちらからアクセスをすることが出来ないのです……」
ああ……。新しいアプリで作ったデータを旧式のアプリでは開けないとかそういうアレか……。
「ということは、キリンの詳細な仕様が含まれたデータは吸い出せなかったと。得られたのは外見的特徴から判断できる情報だけだったということだね」
「ええ、遺憾ながら。まったく妹とあろうものが姉に隠し事など……」
「何もキリンが好きでやってるわけじゃないと思うけどね……」
そしてややあって再びスミレが報告にやってきた。キリンを構成しているのが殆ど新型のパーツということで、思ったより手間取ったみたいだけど、それでもなんとかウロボロスとスミレは構造の解析をしてそれに対処することが出来、無事輝力炉の修復が完了したらしい。
炉の修復が終われば後は周囲の輝力を集めエネルギーを貯めるだけだ。其れが済み次第、OSも正常動作に戻るだろうね。周りに何もなければ輝力の回復には結構な時間がかかるけど、ここには4発の輝力炉と、生体輝力炉とも言えるパイロット達が4人……いや、おそらくフィオラ達もあわせて6人も居るんだ。
明日にはすっかり直って目をさますだろうな。
……それはそれとして、神様……恨むからな! ネタバレを嫌う民は……ネタバレ踏んだら怖いんだからなあ!
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