第三百二十三話 特別ゲストとは
今日は各国首脳会談の日。普段であれば長距離通信で済ませてしまうのだが、今日は特別ゲストが基地までいらっしゃるということで、アズことアズベルトはまあ、基地に住んでいるようなものなので良いとして、わざわざトリバからレイことレインズ・ヴィルハート大統領が来訪する事になった。
レイの奴『大事な客が来るんだ、トリバの代表たる俺がいかんでどうするよ』なんて言ってたけど、ここのところずっと基地に行きたい行きたいとうるさかったからな。ゲストの話を聞いてこれ幸いと、羽根を伸ばしにやってくるというのが本当の所だろうよ。
さて、そのレイなのだが、噂の特別ゲストの護衛がてら、途中で合流して向かうとかで……そろそろ彼らの到着時間と言うことで、基地の前にはずらりと機兵が並び、とっても物々しい雰囲気が漂っている――
――なんて、他人事のように語っているが、俺もまたブレイブシャインの僚機達と共に基地前に整列し、彼らの到着を待っている所だ。ブレイブシャインは会談の参加者ではあるが、防衛の要でもあるからな。お出迎えを兼ねて警備員としてここで待ち構えているというわけさ。
「カイザー、複数の機影を確認。どうやらお客様が到着したみたいですよ」
「そのようだな。おい、みんな! どうやらそろそろ到着するようだ。歓迎の用意!」
「「おう!!」」
なんて言ってると、なんだか魔獣討伐をしているような気分になるのだが、今日は本当の意味で正しい歓迎をする……とは言っても、特に何か特別な事をするわけではなく、道の両脇にズラリと整列してそれらしく出迎える――というだけなのだが、たくさんの機兵が並んでいる様子は非常にかっこいいだろ? ……っておいおい、マジかよ、レイの奴やってくれたな!
まず……先頭を歩いてきたのは護衛の……ではなく、白に金色の差し色がたんまり入ったレインズ専用機『エードラム参式改』だ……まったく、なにやってるんだ、あのおっさんは。2機の護衛が前に付くって話だったのに……さては目立ちたくって前に出て来たな? 事前に打ち合わせた警備プランという物が有るのだから、きちんと守って欲しいのだが……まったく護衛の方々の苦労がうかがえるな。
それに続いてエードラムが6機……本当はレイを挟んで前に2機、後ろに4機だったのに、レイが前に出ちゃったからフォーメーションが妙な事になってしまってるじゃないか。
……そのミチミチとつまった護衛の後ろを歩くのはレインズ専用機と同じ意匠で飾られたエードラム。どうやら特別ゲストには元レインズ専用機であるエードラム改に乗って貰っているようだね。そしてまた、エードラムが4機と続いている。
基地の入り口、シャッター前まで到着すると、各機のコクピットハッチが次々と開いて搭乗者たちが顔を見せた。いつも通りに暑苦しい顔でドヤ顔を浮かべるレイに、何処か疲れた顔をしているトリバ軍の方々……。
そして、陽光に煌く金色のさらさらヘアーが憎いイケメンが一人……。
場に集まった連中の視線は既にレイには無く、見慣れぬイケメンに集中している。まあ、そりゃそうだよな。彼こそが本日の特別ゲストには間違いないが、ここに彼の顔を知っている人はあまりいないのだから。
ゲストが来ると言う話はしておいたが、防犯上、誰が来るかまでは極秘にしておいたからな。みんな、あのイケメンは一体誰なんだと、困惑しているに違いない。
「カイザー、そして同盟軍の諸君! 出迎えご苦労!」
「レイも……まあ、護衛ご苦労様だった。早速で悪いが、特別ゲストを紹介してくれないか。事情を知らない人が多いだろう? 皆が困惑しているようだからな」
「ああ、そうだな。おい! みんなよく聞け! こっちの白いエードラムに乗っているかっこいい兄ちゃんはな、なんと驚け! シュヴァルツヴァルト帝国皇太子、ナルスレイン・シュヴァルツヴァルト殿だ!」
ザワり……と、野次馬達がどよめいた。当然、そうなるよな。なんたって現在絶賛戦争中の国から、そこの皇太子がはるばると、それも単身でだ。帝国と敵対している我々同盟軍の基地くんだりまでやってきたのだから驚くのは当たり前だ。
そういや、アニメのカイザーでも似たような回があったな。そう、21話『来訪者』だ。激化するジャマリオンとの戦いに力不足を感じていた竜也達カイザーチームの元に博士が一人の男を連れて現れるんだ。
博士の後ろから現れたのはジャマリオンにおける戦闘指南役みたいなおっさんで……カイザーチームのパイロットたちは勿論のこと、基地の職員たちも『一体なぜ敵を連れて来たのだ』と動揺していたっけな。
ただ、そのおっさんは前々からフラグというか、なんというか『このおっさんは悪人じゃないよ』アピールが凄かったんだよな。制作側の。
竜也達ははじめこそ訝しんでいた物の、おっさんの話を聞いて考えを改める。
なんでも、異星に住む野蛮人達に戦いを挑むのだと言う事で、スカウトされるままにジャマリオンの指南役として加わったおっさんは、組織の連中を鍛え上げ、ジャマリオンの戦力の底上げに一役買っている存在だったのだが、地球到着後の、時が経つにつれて実は騙されていたのでは……こいつら言ってたこととやってること違うじゃん、と気づき始めたのだ。
そう、地球人は野蛮人などでは無く、きちんとした文明を持っているじゃないかと、ジャマリオンの連中は大義も無く、己の欲望のためだけに侵略行為を繰り返していて、こいつらこそが野蛮人では無いかと。もっと早くに気づけよなと、実況スレで突っ込まれまくっていたのだが……まあ、兎に角、ジャマリオンに嫌気がさして飛び出してきたのだ。
ただ、ここは異星である。嫌になって組織を抜けたところで行き先困ってしまうわけだ。
そこで博士にコンタクトを取って意気投合。組織を裏切り、こちら側についてくれた……んだけれども。
このおっさん、この手の寝返りキャラによくあるテンプレを見事に貫き通しちゃったんで……ああ、悲しいかな。竜也たちがパワーアップをした直後に『裏切者には死をー!』ってやられちゃったんだよな……言いキャラだったからほんと残念だった。
っと、久々にアニメカイザーの思考に溺れてしまった。
とにかく、いきなり敵の大将に一番近い存在が現れたわけだ。基地の連中がどよめくのは当然の事。むしろ驚かない方がおかしいのだ。
そして、少しだけ場の空気が妙な事になってしまったが、それ以上のことは、なにか暴言が飛んだり、石が飛んだりするようなことは無かった。
まあ、恐ろしく上の立場に居る人間が現れたのにはびっくりしただろうが、帝国人に関しては今更だよな。既に我が同盟軍には元黒騎士である3人が団長付きで味方となって所属しているんだぞ? 帝国人が1人2人現れたところで、キツい目を向ける奴はうちの基地には居ないだろうさ。
そして今回の特別ゲストであるナルスレイン、彼はレニーや黒騎士団の団長、ジルコニスタの口から我々の協力者であると一応は情報が出されては居るが、それでも彼は皇太子。そんな高貴な存在が様々なリスクを冒してまではるばると帝国からやって来たのだから、皆がざわめかないわけはないのであった。
けれど、その皇太子様のご挨拶が始まったとたん、ざわめきはピタリとやんだ。
「お初にお目にかかる、同盟軍の諸君。俺はナルスレイン・シュヴァルツヴァルト。名乗りの通り、国の名を背負う身ではあるが、どうか、頼む。俺の事は皇太子ではなく、ただのナルスレインとして扱ってくれ。
確かに俺は国の代表として、本日ここに訪れた。しかし、それは現在のシュヴァルツヴァルトではなく、俺が創る予定である新たな国の代表としてなのだ。遺憾ながら、帝国はもう長くはないだろう。しかし、トリバ、ルナーサ、リーンバイルと手を取り合い、共に歩める新たな国を興し、我々は新たな一歩を踏み出そうと考えている。
その日が来るまで俺はただのナルスレインだ。生憎、実家を飛び出した身なのでな、もうしわけないが暫くここの軒先にでも厄介になるつもりだ。酒場で顔をあわせたら是非酒を酌み交わそうではないか! よろしく頼むぞ、新たな友人達よ!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
「わかったぜー! ナルスレイン様よー!」
「いいぞナルコー! 俺とお前はもうダチだー!」
「ばかやろう! おめえはいきなりなれなれしいんだよ!」
「「「わはははは」」」
挨拶代わりに始まった突然の演説。それを聞いた基地の連中は元々ノリが良い性分の奴が多い体育会系の組織だけあって直ぐに打ち解けてしまった。
ナルスレインめ、中々に素敵な挨拶をするもんだ。変異前の皇帝も人柄は良かったと聞くしな、良い影響を受けて育ったんだろうな……。
……良き父親であっただろう皇帝を変貌させ、国家滅亡の危機を招いた原因は俺にある。もしも俺が居なかったならば、帝国自体存在しなかったのかも知れないが、それでもやっぱり責任は感じている。
けれど、今更俺がくよくよと悩んでも始まらない……だから俺は、俺達は必ずやルクルァシアを討ち滅ぼし、平和を取り戻すんだ。
と……1人密かに決意を新たにしていると、ナルスレインがコクピットハッチを開いたままこちらに機兵を歩ませてきた。レニーとは知らない仲ではないらしいし、会談前のご対面って奴かな。
「よう、レニー。息災のようで何よりだぞ。それがお前の機体、噂のカイザーか」
「ナルさんも元気そうで何よりだよ。カイザーさん、こちらが噂のナルさんだよ」
「ああ。俺はカイザー、うちのレニーから色々と聞いているよ。その節は本当にありがと……――」
「おお、本当に喋るのだな! すごいなお前は! まさか本当に喋るなんてな! なあ、レニー! 余ってないか!? 俺も欲しいぞ! 余っていたら是非に譲ってくれ!」
「ナル、その辺にしておけ……。いくら『今はただのナルスレインだ』等と言い放ったとはいえ、お前は一応……代表としてここに来ているのだからな。あまり恥ずかしい行動をとるな」
「ああ、うるさいのが来たな。良いかよく聞けジル。俺が今日来たのは会談のためというのもあるのだが、噂の喋る機兵の技術をだな、どうにか俺の専用機として採用……ちょ、おい、まて、なあ、ジル、レニー、ああ、カイザー……」
……。
「あは……ははは……うん、ああ言う人なんだよ。ナルさんは……出来る人なんだけど、少し子供っぽいところがあってね……」
「なるほど……ああ言う人なんだな……」
「ふふ、『ルゥ』と出会った時どんな顔をするか見ものですね」
「あ! スミレ! お前ナルスレインから身を隠して居たな? ふふふ、どうせ会談にはお前も参加するんだ、覚悟していろよ」
「ええ、望むところです。ま、私とルゥちゃんが並んでいたとしても……彼ははルゥちゃんの方に夢中になるでしょうけれどもね」
「なっ……!?」
そして暫しの休憩時間をはさみ、いよいよ4国首脳会談が始まるのだった。
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