第二百八十一話 揺れる旅
フォレムから『基地』までは馬車で移動しても2日くらいはかかるらしいんだけど、ブレイブシャインの機兵たちならもう少し速くつくそうな。
そうなると馬車もない、機兵も無い私達はどうやって移動しようかーって思ってたんだけど……。
ガタゴトガタゴト
現在私達は馬車? に揺られすごい速さで基地に向かっています。早いのは早いんだけど、もう、びっくりするほど揺れるものだからフィオラとラムレットが青い顔をしている。
かれこれ走り出してから1時間か……時間的にちょっと早いけどこれはヤバい。彼女たちにリバースされる前にちょっと休憩にしてもらおう。
パタパタと飛び、御者の……パイロットと言ったほうが良いかな? マシューの元へ。
コンコンとハッチをノックして中に入れてもらった。
「おう、カイザー。どうした? なにかあったか?」
「私はなんもないけど……二人がね……完全にダメになってる」
私の口調から何かを察したマシューは『ああ……わりい、配慮が足らんかった』と言って停止し、しばしの休憩時間となりました。
フラフラと降りた二人は木陰にへたり込み、ミシェルから貰った果実水を弱々しい顔で飲んでいる。乗り物酔いはほんとどうしようもないからな……。
ただ、この二人が特別乗り物に弱いわけじゃない。慣れなきゃ酔うと言われてる機兵はもちろん、馬車でもケロりとしていた二人が寄った原因それは……。
「うう……色々とびっくりしたけど、一番の驚きは乗り心地の悪さだよ……」
「アタイ達に文句を言う資格はないが、こりゃあんまりだ……」
なんとオルトロスは機兵から犬……2つの頭を持つ大きな犬に変形したんだ。
それをみた瞬間はびっくりしたけど(そういえばそうだった)とジワジワと記憶が蘇り、だからオルトロスは双子AIだったなあと思いだせたんだ。
でも、流石にその犬を使って馬車の真似事をするのはあんまりだった。
確かに早いは早いんだけど、ぐわんぐわんと揺れる車内はホント酷かった。
私はホバリングしてたし、そもそも乗り物酔をしないだろうから平気だったけど、二人はね……。
「まあ、もう少しゆっくり行けば多少はマシになるだろ。あーあ、やっぱカイザーのマネごとは無理があったかあ」
「私の真似事?」
「なんだ、そんな事も忘れちゃったのか。カイザーはなんか知らんが馬に変形出来るんだよ。どういう訳か馬車形態ってのにもなれてさ、アレは揺れないわ静かだわで快適な乗り心地だったなあ」
「ルゥ……ね? 今直ぐ思い出して? その記憶を取り戻して変形して? ね?お ねがい」
「無茶言わないでよフィオラ……。そもそも馬に変形するらしい本体がないんだよ?
たとえこの身体が馬に変身したところで手のひらサイズだよ? 馬車なんてどうやって引くのさ……」
「それはそれで……見てみたいな……小さい馬……かわいい……」
ラムレットが食いついたー!?
「あっはっは。そうそう、カイザーはさ、そのスミレみたいな身体を貰う前に子馬の身体を貰ってたんだぞ。ぬいぐるみみたいでかわいいんだアレがまた」
「っく! それもまた、本体と一緒に何処かにあるってわけかよ! アタイきめたぞ、フィオラとルゥと共にマシュー達に協力して、必ずやカイザーを見つけ出してやるんだ!」
動機が不順だけど……やる気が出たのは良いことだ。
「よし! それだけ元気ならまだまだ行けるな! さあさあ!乗った乗った!」
「……うう…本当にゆっくり目でお願いね……」
「善処する!」
青い顔をした二人を乗せ、犬車は再び走り出す。
ちなみにミシェルとシグレだけれども、彼女たちは先行してそれぞれの仕事をしに向かっている。
ミシェルは先に基地に入り、簡単な事情の説明となにかの用意……をするらしい。
シグレはなんと変形して大きな鳥になったヤタガラスにのって大空に。
周辺を飛び回って安全を確認してくれるそうな。
いいなあ、私もああやって飛べたらどこに行くのもあっという間だろうになあ。
◇◆
少しだけ、ほんの少しだけマイルドになった揺れと対話をすること6時間。
本日の野営ポイントに到着した。
「いやあ、感覚がおかしくなっててな。今日中につける気がしてたがやっぱ無理だったわ」
カラカラと笑うマシューにじっとりとした目でフィオラが嫌味を言う。
「もし今日中についてたとしたら、中に乗ってた私達はさぞかし愉快な事になってたと思うよ!」
「いやあ、ほんと悪かったって!」
「ガアスケがもう少し力持ちならば、二人を乗せた籠をぶら下げてとべるんですけどね」
「ああ、そういやカイザーがそんなことやってたっけ」
「え? 私が?」
なんと、私はオルトロス達と合体して大きな体になれるらしい。その際、ヤタガラスの能力を借り、飛行も可能になるとかで、大きな『容れ物』に多くの人たちを乗せて運搬したこともあったそうな。
「乗ってた連中、最初はぐったりしてたが最後あたりは楽しそうだったからな。そこまで悪い乗り心地じゃないと思うぜ」
「ね、ねえ! シグレちゃん! ガアスケちゃん! どうかな? 私とラムレットさんを乗せた籠を持って飛ぶというのは!」
「ば、ばかやろうフィオラ! シグレがさっきガアスケが力持ちならっていってただろ? 無理なんだよ!」
『むう。しかし言われてみれば拙者、試したことが無いでござるな。フィオラ殿、ラムレット殿よろしければ試しに……』
「だめだだめだ! フィオラ! いらんこと言うな! アタイは絶対に飛ばないからな!」
この必死さ、さてはラムレット、高い所がダメな子なんだな……。
あれは度胸が有る無いの問題じゃないからどうしようもないね。
……このままだとホントにお試しでやりかねない。どれ、少しラムレットを助けてあげるとしましょうか。
「さあさあ、冗談はこのくらいにして今日はもう寝よう? 明日も揺れるぞー」
「うう……それを言われると空のが……いやいや! 寝るぞ! アタイはもう寝る! おやすみ!」
助け舟を出したつもりが、結果としてトドメを差す形になっちゃったな……。
さて、明日はいよいよ基地に到着だ。私達も早めに休んでおかないとね。
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