第二百五十二話 リバウッドへ。
本日はいよいよ宿場街『リバウッド』に到着する。
トリバ中の何処へ行くにも必ず通る中間地点で、様々な人々が集まると聞いているのでどんな街なのか朝からずっと楽しみだった。
野営地からひた走り、昼を過ぎる頃、ようやく街の門が見えてきた。何時も通りの手続きを済ませ、中にはいるとびっくり。
街の中心を抜けるように川が流れていて、その両岸には大きな木がずらりと並んでいる。フロッガイよりも更に木の割合が増えた住宅様式と相まって自然と共存した街という印象を受けた。
この川は「ヤリーガ川」と言う名前で、トリバからルナーサを経て海に至る『ルーシュラ川』という大河の支流らしい。支流と言っても川幅、水深共にそこそこの規模で、流れは穏やかなため、ちょっとした移動手段として小舟が使われているようだ。
……なんだか(前に来た時はこういう観光をきちんとしなかったな)なんて頭にチラリと浮かんだ。思い出せない過去の記憶、それがちょっとだけ顔を出したのかな?
川から流れる風が冷たくて心地よく、いつまでもこの河原の道を歩いていたいと思うけど、フィオラはそれを許してくれなかった。
今フィオラはラムレットと二人大きな袋を担ぎ、えっちらおっちらとギルドに向かって歩いている。この街のギルドは川に沿ってパインウィード側に向かった先にあり、そこに向かうまでの間、私は河原の散歩を堪能してたってわけだけど、それもそろそろ終わり。
少し大きめの建物、2階建てのハンターズギルドが見えてきた。
「ふう、ようやく着いた! 重かったよね、ごめんねラムレットさん」
「ひい……ひい……それはいいけど、フィオラ、お前凄い体力だね……そっちの袋、アタイのより重たい筈なのに……」
「んー? まあ、慣れてるからかな?」
二人が担いでいる袋、この中には仕留めたイノシシを解体した素材や肉が入っている。かなりの大物だったため、大袋2つになってしまった。
街に入るまでは馬車に積むことが出来たため、負担になることはなかったが、馬車から降りると大袋2つという大荷物がフィオラにのしかかることとなった。
当初はそれでも一人で持とうとしたフィオラだったが、ラムレットが『流石に無理だよ!』と手伝いを申し出た。
フィオラとしてもそれは嬉しかったようで、大喜びで『軽い方』の袋を手渡していた。
軽いとは言え、中にはいっているのはキバや皮等の素材で、他にも別途捕まえていた鳥等がまるごといくつか入ってるためにかなりの重量になっている。
元の荷物と合わせると結構身体にくる重さになるはずで、袋を持ち上げたラムレットが苦笑いをしていたのを私は見逃さなかった。
うん、あれは手伝うと言ったのを後悔している顔だったね。
でも、フィオラが『大量の肉と骨』が詰まったさらに重い袋を軽々背負う姿を見て、負けず嫌いの闘志が燃え上がったのか、あまり泣き言を言わずにここまで運びきってくれた。
いやほんと、フィオラがご迷惑をかけちゃって……。
ようやく辿り着いたギルド内はそれなりにハンターが居て賑わっていて、15分ほど列に並んだ後、フィオラの番が訪れる。
「ようこそ! ハンターズギルド リバウッドへ! って貴方……っと、ごめんなさい、知ってる子に似てたからちょっとね。ええと、今日はどのような御用ですか?」
「えっと、素材の買い取りをお願いします。魔獣ではなく、動物ですが良いですか?」
「ええ、もちろん大歓迎よ! 最近のルーキー達は何かと魔獣魔獣とうるさいけど、貴方は偉いわ! 動物素材だって重要な資源だってわからない子が多いのよ」
魔獣っていうと、やたらでかくて食べられない、機兵じゃなければ相手にならない面倒な奴らだったな。魔獣の知識は薄っすらと覚えているぞ。あんなのフィオラじゃ相手にすることは不可能だし、運良く倒せたとしても素材を運べないもんね。
その点、動物ならフィオラは上手に狩ってくるし、素材も何とか人力で運ぶことが出来る。それこそ適材適所って感じだね。
「うん、ちょうど人が切れたし、私が査定するわ。こっち来て」
係員の名前は『ナナイ』見た目からして20代後半くらいかな?
ウェーブが掛かった茶色の髪からぴょこんと生える耳が可愛らしい。制服から出ているしっぽを見る限りでは彼女は猫系の獣人族なんだろうね。いいなあ、猫耳。
間もなく動物用の解体場に到着し、フィオラがドスンドスンと大きな肉や素材を並べていく。その様子を見てちょっと引き気味だったナナイさんだったけど、何かを思い出したのか「フフッ」と小さく笑い、フィオラたちの様子を微笑ましそうに見ていた。
「ふう、これで全部です。結構量があるんですけど、大丈夫ですか?」
「ん? あ、ああ! うん、大丈夫よ。それにしても凄い大物ね……処理も綺麗だけど、貴方達二人で狩ったの?」
驚くようにフィオラとラムレットを見るナナイさんに慌ててラムレットが否定する。
「違う違う! アタイはただの荷物持ちだよ! これらの獲物は全部このフィオラが獲ったんだぞ。見てくれよこのイノシシ、素材からわかるだろ? かなりの大物だ。それを罠でさっくりとっちまたんだよ……」
「それはそれは……ふふふ、見た目だけじゃなくてやることもあの子にそっくりね」
「あの子……?」
「ええ、聞いたこと無い? ブレイブシャイン。あの子達ね、パインウィードでヒッグ・ギッガを狩ったの。リーダーのレニーを含め皆可愛らしい女の子だからね、私もちょっと疑っちゃったのよ。本当に狩ったのかな? って。
そしたら頭にきたんでしょうね。魔石や素材をドスンと取り出して見せてね。びっくりしたやら、申し訳ない気持ちになったやら……」
ヒッグ・ギッガって言ったら、屋敷ぐらいある大きな魔獣だったような気がする……。あれは確かイノシシみたいなやつだったよね? レニーって子達が魔獣でフィオラが動物のイノシシか。面白い偶然があったもんだね。
……レニー?
なんだか名前に既視感を感じたような……いや、あちこちの町や村で皆がその名前を言ってたせいだね。
しかし、一体どれだけめちゃくちゃなパーティなんだよブレイブシャインは。
そして査定が終わり、フィオラの顔がグダグダに蕩けるほどの報酬が手に入った。フィオラはそこからラムレットにお礼を渡そうとしたんだけど、それは遠慮されてしまた。
いや、厳密に言えば遠慮ではなく、お金ではないものを要求されてしまったのだ……。
それはさておいて。
ナナイさんと別れたあと、彼女がボソリと気になる独り言を言っていた。それは私にしか聞こえないほど小さな声だった。
『フィオラちゃん……どう見てもレニーそっくりなのよね……。綺麗なストレートでくせっ毛のレニーとは違うし、少し幼いから別人だってわかるんだけど……レニー、何処行っちゃったんだろう……』
二度も言うとはそこまで似ているのか。フィオラと似ている少女、レニー。彼女はブレイブシャインのリーダーで、どうやら行方不明。前にも『似てる』と言われたのは偶然……?
フィオラが探しているのは姉で、彼女もまた行方知れず。
……フィオラの姉はレニー? でも、それならどうしてフィオラは『私が妹です』と名乗り出ないんだろう。やはり全くの別人? それとも、何か言えない事情があるのだろうか。
ううむ、『もしかしてフィオラのお姉ちゃんってレニーさんなんじゃないの?』と聞けたらどんなに楽なことか!
……取り敢えずこの件は暫く私の胸にしまっておこう。
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