第二百三十九話 予感 

 執拗に俺を付け狙う紫色の雷。


 それはどうも命中させるためではなく、俺を誘導するかのような動きをしている。


 そう、何処か特定の場所に向かわせているような、いや……寧ろ遠ざけている?


 この間にも不明の反応が4つ、こちらにどんどん迫っている。

 明らかな敵対行動に対して此方も何か対策を講じる必要があるのだが、如何せん落雷が激しすぎて行動を取ることが出来ない。


 しかし、この間にもスミレは分析を続けていて、落雷の正体を明らかにする。


「不明機からの攻撃、これは電子由来の物ではありません。私も驚きが隠せませんが、これは光子……いえ、魔力を含んだ光子というものなのでしょうか……?

 此方の言葉を借りて言うなれば『魔術兵装』というものなのかもしれません」


 今では技術が失われ、正しい意味での魔術兵装というものは再現できないでいると聞いている。しかし、俺の目の前で起きている現象は『魔術兵装』による攻撃だと考えれば理解が出来てしまう……。


 そして間もなく目視された機体によりその正体が明らかとなり、奴らの目的もまた判明した。


「カイザー! 不明機の姿を捉えました。映像出します」


 スミレの鋭い声と共に不明機達の姿が映し出された。


「あれは……! 俺のフォトンライフル……なのか?」


 3機の黒騎士を従えた漆黒の機兵が禍々しい装飾がされたフォトンライフルだったものを杖のように握っている。

 

 黒騎士たちはアランや女性パイロットが乗っていた物と同様の機体だったが、中心で護られるように杖を持つ漆黒の機兵はそれらと意匠が異なり、杖同様になにやら禍々しい装飾がされている。


 しかし、状況がわからない。


 既に両軍は撤退を開始しており、黒騎士達の到着を見た帝国軍達もそれに続くことをしないことから純粋な援軍というわけではなさそうだ。


 寧ろ、混乱している様子すら伺える。


 であれば暴走機の回収が目的なのか?


 狙撃によって黒騎士から俺が離れるように誘導した、そうも考えられるが、納得がいかない理由がひとつある。


 黒騎士の中心にいる謎の機体。エース機とも推測がされるが……それがあの様に護られる陣形をとっているのは少し妙だ。


 あれではまるで……。


 なんだかとても嫌な予感がするぞ。


「あれの目的は恐らく暴走機、確証はないが、連中の手に渡すと不味いことになりそうだ!」


「『……はい、暴走機に使われているコア……それが……の手に渡ると大変な事になります……』」


「む!? レニー?」


 普段とは少しだけ違う声色で話すレニーに驚き顔を見ると、なんだかうつろな表情をしていた。

 こんな状況で一体何が起きているのだ。


「『暴走機のコアこそが黒龍の卵です……それが今、孵ろうとしています……皇帝機に渡してはなりません……お願い……みなさん……なんとしてでも止めて……お願い……お姉……』」

 


 そこまで言うとレニーは普段の表情を取り戻し、暫くの間、何やら難しそうな顔をしていたが……直ぐにキョロキョロとあたりを見渡し、首を傾げた。


「ええっと……今何が? もしかして一瞬寝ちゃいました? えへへ……」

「……レニーさ、今、お前に何か……」

「巫女様の神託……。お父様が聞いたと言っていた巫女様の神託ですわ……」

「なんだか知らない声で……とんでもないことを言ってましたよ……」


「……え、ええ? 神託? ……どうして今更私に……って、カイザーさん!

 みんな! 呆けてる場合じゃありませんよ! ほら! 敵機がもう間もなく暴走機のところに到着しちゃいます! 急ぎましょう!」


「あ、ああ! どうやら我々は再び激戦区に飛び込むハメになったようだ!

 けれど、何が遭っても俺はお前達を必ず生きて帰す! だから、もう暫く力を貸してくれ!」


「何いってんだ水くせえ! あたい達はみんなで1つだ!」

「そうですわよ! 4人の力と5機の力! みんなで1つのブレイブシャインですわ!」

「私の力は皆さんの為にあるのです。遠慮なく使ってください!」

「行こう、カイザーさん! お姉ちゃん!もうひと働き頑張ろう!

 そして……生きて帰るのはカイザーさん、あなたもですよ!」


「ああ……そうだな!」



 少女たちの言葉に胸が熱くなる。

 神託……突然の事に困惑しているが今はそれを信じるほかあるまい。

 これまで感じていた心のざわめきは……あれが黒龍の卵を抱いていたから……なのだろうな。


 しかし問題は近寄ろうとすれば落とされる雷か。

 一体どういう仕組で正確な狙撃を実現しているのか興味深いところだが、今はただひたすらに煩わしい。


「スミレ、何とか出来ないか」


「恐らく敵機は此方の未来位置を予測して狙撃していると思われます。

 その仕組がわからない以上、対策を講じるのは難しいですね」


「むう……ならば手詰まりというわけか?」


「いえ、であれば予測させ無ければよいのです。

 幸いな事に連中は此方がもう動けないと判断し、攻撃の手を止めています。

 今なら容易く作戦を実行できることでしょう」


 そしてスミレから提案された作戦はシンプルだったが理に適っており、現在取れる行動の中では一番成功率が高そうなものだった。


 相手がどの様な方法で此方の未来位置を割り出しているのか、それが不明な以上当作戦にも不安が残るが、これ以上時間は残されていない。


「では、作戦開始だ。皆覚悟は決めたか!? 行くぞ! 行動開始!」


「「「「はい!」」」」


 ブレイブシャイン一同の声がコクピットに響き渡る。


 皆の力、皆の心をひとつにし、俺達は大地を踏みしめた。

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