第二百十三話 機兵の追加
広々とした演習場にずらりとトリバの軍用機が並んでいた。
その数なんと40機。
ずらりと並ぶ量産機……いいよね……。
「これは一体……?」
「流石にこれを全部をくれてやるわけにはいかねえがよ、こいつらを改造すりゃあいい戦力になるんだろ?
半分くらいは改造後に返してもらいたいと思ってるが、残りはそっちで運用してかまわねえからどうか頼むぜ」
「頼むも何も……半分でももらえるのはありがたい話だよ……」
「良いって良いって! これから成そうって言う作戦を考えりゃ決して足りる数じゃあねえのはわかってるしな。
けどよ、国防上、一気に全部預けるわけには行かねえし、まずはこれだけで勘弁してくれってことでさ!」
「勘弁も何も十分だよ。しかし、いいのかい? 全体数は知らないけれどこれでもかなりの数なんじゃ……」
「いいんだよ! うちの軍用機はこの倍以上はあるかんな。
それにこいつらはメンテしないと使えない機兵だしよ、気にしなさんな」
どうやら軽微な不調でメンテ待ちをして居た機兵をかき集めてきたと言う事らしい。
どうせバラして次世代機に改良するのであれば、多少壊れていてもかまわんだろと言う雑な判断ではあるけれど、実際間違っていないというか、十分にありがたいよこれは。
「それで、運搬方法だがどうする? 戦闘させるには不安があるというだけで、動作は可能だから現地まで歩かせることは出来るが、一度にやると目立つからなあ……」
「ああ、それならば問題ない」
外に停めてある本体とリンク可能なのを確認し機兵達をロック。
そのままレニーの端末経由でバックパック内に収納していく。
ストレージには何でもどんどん入ってしまうのである。
「ちょ、おめえ! こら! なにしやがった?」
「あ、すまない。邪魔だろうからしまっちゃったけど……もしかしてまだ運んじゃだめだったか?」
「そういう事じゃねえ……ああ……うん、もういい。
それでいい……全くほんとデタラメな奴だな……」
「リーンバイルから一世代機を運搬したって話をしたじゃ無いか。
何を今更言ってるのさ。驚くようなことじゃないだろ」
「そういえばそうだったか……。
なんつうか、お前達パーティひとつ味方につければ国でもなんでも取れそうな気がしてくるぜ……。
まったく、今の時代に目覚めてくれてありがとうよ!」
褒められてるのかなんなのかわからないけれど、確かにこの収納能力は戦争に使った場合恐ろしい武器となるよな……。
戦地についてから機兵を取り出して配置できると言う事は、移動コストが大幅にカットできるということだ。
パイロット達を馬車で運べば疲労も最小限に抑えられるし、移動中の機体損傷リスクも下げられる。
それに、俺達は飛ぶことが可能なので、攻撃を受けて機兵が不足したとなれば、すぐに代替機を運ぶ事だって出来るし、修理工房があるところまで故障機を運ぶという事も出来てしまう。
戦闘力だけではなく、バックアップ要員として俺達はかなりの戦力になっちゃうな。
悪用しようと思えばいくらでもできちゃうよねこれ……。
なんというか、良い国で目覚められて本当に良かったよ。
これで帝国で目覚めてた日には……どうなっていたことやら。
「取りあえず、ある程度改装が済んだら教えてくれ。交換する形でまたこちらから機兵を回すからよ」
「ああ、わかった。機兵だけあってもパイロットが居ないからな。
トリバの軍用機に関しては、そちらを優先して渡す事にするさ……と、重要なことを忘れていた。次世代機は若干操縦方法が変わるのだが大丈夫だろうか……」
「そんな重要なことは先に言えよ! 若干でも場合によっちゃ専用の訓練が必要になるだろが」
「ごめんすっかり忘れてたよ。それでさ、軍用機も操縦桿やペダルを用いた操縦をする機体が主流なんだよね?」
「そうだな、1世代機からずっと受け継がれてきたというか、重要な箇所は模倣しかできねえからな。そこだけはずっと変わってないはずだ」
「だよね。もしかすると操縦方法が大きく変わってしまうかも知れないが、まあ、それはいいだろう」
「いやいや、よくはねえよ!?」
厳密に言えば、1世代機は操縦桿に紅魔石が仕込まれていて、それを握ることにより体内の魔力を紅魔石に蓄えつつ増幅し、炉に送り込むことで動作していた。
次世代機はそれを改良しつつ機能を追加した、言わば先祖返りとも言える機体になるわけだが、操縦桿の設計をより
それを説明すると、レイは顎に手を上げて唸る。
「うーむ……操縦方法云々はまあ、取りあえず置いとくとしてだ。問題は魔力操作だな。
魔導具を使う際にちょっと魔力操作が必要となることはあるが、機兵となるとちょっとじゃすまねえんだよな」
「その辺りに関してはレニーやシグレに話して貰った方が良いかもしれないな」
「え? あたし達ですか? なんで?」
突然話を振られ、動揺するレニー。
知識しか無い俺が話すよりも実際に操縦しているパイロットの方が体験から説明をしやすいだろうさ。
「厳密には俺達を動かすエネルギーは魔力とは別の物なんだが、この世界では俺達を動かす炉を再現することが出来ない。
なので代わりに魔力と魔石を用いて造られたのが1世代機というわけなんだけど、代わりと言っても運用方法はよく似ていてね、普段から操縦しているレニーやシグレであれば説明がしやすかろうと思ったのさ」
「そういう事でしたか。私はまだ慣れているというわけではありませんので、どうぞレニー、語って下さい」
「え、ちょ、シグレちゃん! もー……じゃあ、僭越ながら……えへへ……」
渋々ながらと言った顔をして居るが、どことなく乗り気でレニーが語り始める。
そう言えばこの娘は機兵マニアとも言える一面があったな……。俺を探しに来たのもその一面があったからだろうし。
「
量が少なすぎると出力が上がりきらず、機体は動かないままです。
かといって、多く流しすぎると、想定外の動きをしてしまったり、制御不能に陥ってしまったりするんですが、なによりあっという間に息切れ、魔力枯渇を起こしてしまいます」
この世界特有の謎物質、魔力という物も輝力同様に人間の体内に有限的に存在するものらしい。
厳密に言えば、人体や魔石に溜まっている
なので輝力同様、枯渇しても自然回復が可能なのだけれども、そこまで使い切ると体調にもかなりの影響がでてしまう、その点も輝力と似た部分だよね。
「そういえばカイザー殿が言っていましたね。
はじめてカイザー殿を動かした際に、レニー殿は輝力を出し過ぎて空高く跳躍してしまったと」
「ちょ、シグレちゃ!」
「ああ、かなりの高度まで飛び上がったのは俺も肝を冷やしたぞ。
当時は俺も自立機動が出来なかったからね、流石に破損を覚悟したよ」
「もー! カイザーさんまでー! じゃあ、私も言っちゃいますけど、マシューの時なんか……――」
そんな具合に一通りレニーのエピソードやマシューと訓練した時の話を伝えると、暫く難しい顔をして何かを考えていたらしいレイが『閃いた』と口を開いた。
「てことはだ。まともに運用するためには魔力操作や独特の操縦方法を覚える訓練が必要であり、それを教えられる講師が必要となるわけだ……」
そこでチラリとこちらをみたため、慌てて首を横に振る。
長期にわたってここで教える余裕はないし、そうじゃなくても多くの人達を前にして講習するのはちょっと嫌だ。
「はっはっは、心配すんな。別にここで教えろって言うわけじゃねえよ。
まずは5人ほどそっちに連れてってよ、動作チェックがてら扱い方を教えてやってくれ。
後はそいつらが他の連中に教えたらいいだろ?」
なるほど、その手があったか。
そろそろ完成するであろう次世代機も最初はやっぱり試作機と言うことになる。
流石に微調整は必要となるだろうし、俺達の基地で講習するのが良かろうな。
その方向でレインズと相談をすすめ、用意が出来次第レイが選出したパイロットを5名基地まで派遣して貰うことに決まった。
「うし、仕事の話はここまでだ! さあ、久々の再会を祝って飲もうじゃねえか!
飲めるんだろ? その身体はよ!」
「いや、折角誘ってくれたのに申し訳ないんだけど、俺達は買い出しも頼まれててね……」
「そういう事なら、カイザーさん! ここは我々にお任せを!」
「ええ、レニー殿と2人、責任を持って任務を果たします故」
「え、ちょ、こら!」
「仕事以外でゆっくりと話したいことだってあるんじゃないですか?」
「うむうむ。代表同士、友同士。酒を酌み交わし忌憚無き話し合いでもするとよいでしょう」
「うっし、じゃあパイロット達からも許可が出たしよ、ここは仲良くやろうじゃねえか、なあ、カイザー!」
「お、おう……うおお!?」
レイの強引な性格からして2人で飲むのはとっても嫌な予感がするため逃げたかった……んだけど……乙女軍団にあっさりと裏切られた俺とスミレは……いや、待って! スミレも居ないんだけどお!
レニーとシグレ、そしてにこやかに笑いながら手を振るスミレの姿がどんどん小さくなっていく。
レイに乱暴に掴まれた俺は、そのまま彼の自宅にお持ち帰りされる事となってしまったのでありました……。
ちくしょう……トリバでの楽しいお買い物があ……海鮮の買い食いがあ……。
スミレ、レニー、シグレ……覚えていろよ……。
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