第二百七話 リム族
「うまい……こんな美味い飯があったのか……」
泣きながら食っているのは護衛隊の年長者、リシューである。
彼は17才で若い獣人族を纏める存在らしい。
彼もまた、移住の悲劇の生き残りで、幼かったため当時のことは良く覚えていないが、その時に命を落とした父親に代わって集落の大人と協力して母を支えているのだという。
彼ら『リム族』は生存のため集落皆家族の教えを持って生活していて、何かあれば皆が手を取り合い協力するのが普通だと言うことなので、誰か一人が特別苦労をしているわけではないとのことだったが、聞けば聞くほど集落の状況は酷いものだった。
生存するために必要不可欠な食料が圧倒的に足りていないのだ。
砂漠に慎ましく生えている食べられる植物を採集したり、命がけで海に向い貝や甲殻類を捕ったり、後は稀に大人達が小型の動物を狩ってくることもあるらしいのだが、それもまた満足な量では無く、口に入るのは僅かだと言うことだった。
水のことはかつて先祖が掘った井戸がまだ生きているため、その心配は無いとのことだったが、とにかく食料が不足していて、他にも生活物資は不足どころか枯渇していると言っても良いくらいだった。
勿論、それは満足な生活を送れている我々から見た話なので、食料のことはともかく、それ以外の物に感しては特に不足しているとは思っていないようだった。
あまりにも酷い状況だし、どうにかしてやりたいけれど、何をするにもまずは集落へ送り届けてきちんと話を通した上で状況を調べてからだね。
食事とテントが効いたのか、リム族の若者達とすっかり打ち解けることが出来た。
早めに打ち解けられたのは不本意ながら妖精体のおかげだろうな……。
俺は必ず食事を摂らねばならぬと言うわけでは無いため、何日か我慢するかと気合いを入れたのだけれども……ミシェルから
「今日は人数が多いのでカレーですわ」
と言われてしまったらもうだめだった。
我慢ができなくなって妖精体をお披露目してしまった……というわけさ。
まあ、早めにこの姿を見せておけばなにかとやりやすくなるから結果としては良かったのだがね!
妖精体の俺がスミレと共に姿を現した時は予想通りの反応だった。
「……よ……妖精様だ……」
特に神々しくも無い俺とスミレにリム族の若者達が跪く。
マリネッタのみがニコニコとして、
「あー、妖精さんだ! 今まで何処に行ってたの?」
なんて言っていて、ラムネッタに無理矢理頭を下げられていた。
いやほんと、教会を見かけないのに妖精信仰めいた物はあちこちで目にするよなあ。
神様……もう少しこう、なんとかした方が良いんじゃ無いの?
「あー、頭を上げてくれ。俺達は君達が言う妖精では無い。
これでもれっきとした機兵だよ」
「き、機兵だって? そ、そんな小さい……いや、その前に機兵が喋るわけ無いじゃないですか!」
予想通りのテンプレ反応。
こちらもそれには慣れているため、シャインカイザーを分離してそれぞれ自己紹介をしてみせる。
これで納得してくれるだろうと思いきや、今度は……
「な……機神様だ……」
これである。
なんでもリム族にもかつての大戦でルストニアを勝利に導いた機神の話は伝わっているらしいのだが、我々が知るものとは少し違くて、戦後ボルツに神罰を落としたのもその機神だと言い伝えられているのだと神妙な顔で言い、またしても頭を下げられた。
かつて犬族はボルツから奴隷のように扱われていて、大戦時には徴兵もされていたためにルストニアとの戦いで命を落とす者も少なくは無かったのだという。
しかし、彼らはルストニアに感謝をする事はあっても恨むような事はないのだという。
先に言ったとおりボルツでの彼らは奴隷扱いをされていて、不自由な生活を強いられていたわけだ。
その原因であるボルツを滅ぼす切っ掛けを作ったルストニアには感謝の気持ちを持っているし、神罰でとどめを刺してくれた機神様()には感謝の念に耐えないと、今でも信仰している部族が多いのだという。
……いや俺何もしてないよ?
ていうか、そもそも大戦で暗躍していた機神様ってウロボロスだからね?
犬族達はボルツ王都の崩壊後、散り散りになっていた者達と共に集落を再構築し、今日まで生き延びていたという。
その際、ご神体として幾つかの機兵をそれぞれ集落に運び込み置いて信仰していたらしいのだが、ある日それが目覚め、集落の勇者足る存在が乗る機兵として集落防衛に活躍していたという。
なんとも……リーンバイルの電池切れ美品どころの話じゃないぞ。
まさかこんなところで生きている1世代機の話を聞くことになるとはなあ。
しかし、それも少し昔の話のようだった。
「その機兵も今はもう動かないんですけどね……」
「あれがあればもう少し生活が楽になるんだけどな」
「俺達には御神体を直すなんて真似できねえからなあ……」
寂しげに言うその若者は悔しそうで、どうにか手を貸してやりたいと心から思った。
彼らに何もかも見せてしまったので、翌日の移動は楽だった。
既に隠すことも無いため、馬車モードに変形し、御者台に2人、荷台に6人屋根に2人と、全員を無理矢理に乗せて集落への速度を上げる。
屋根の2人を落とすのでは無いかと少々心配になったが、身体能力が高いらしく寧ろ大喜びではしゃいでいた。
「速い速い! 凄いなあ、これさえあればいつでも海に行けるのになあ」
「これなら魔獣も蹴散らせるんじゃ無いか? 森にだってきっと行けるし、たくさん狩れるね!」
年相応にはしゃぐ声に和みながら集落への道を急ぐ。
予定ではもう一泊する事になっていたのだが、馬車が使えたことにより午後には集落に到着することが出来、犬族の少年たちは『すげえすげえ』と大興奮していた。
車輪の音は通常の街道であれば特に目立つ音では無いのだが、他に馬車が無いこの地では非常に目立つらしく、俺達が集落に着く頃にはその入口に住人達が集まって不安そうな顔をして居た。
「なんだあれ……」
「あれは……人が乗ってるのか……?」
「おい! ヤニューとケイジーが乗ってるぞ!?」
「前に乗ってるのはラムニッタと……誰だ?」
「いや、それよりお前らわざと見ないようにしてるだろ……機兵が一緒に居るぞ……」
「3機も……一体何が始まるんだ……」
すまない、4機なんだ。住人達の音声を拾い、かなり驚かしてしまっていることを申し訳なく思う。
しかし、若者達を上に乗せていたおかげで警戒度はそこまで高くは無いな。
集落の入口に馬車を停め、若者達を降ろす。
大人達に取り囲まれた若者達が事情を話している。
時折こちらを指しながら何か説明しているが、また面倒な事になりそうな説明をしているな……。
ほらみろ、ひれ伏した!
「機神様! マリネッタをお救い頂き有難うございます!」
「あー、リシュー達にも言ったが、俺達は機神では無いからな。
ちょっとした事情があってこの地にやってきたハンターだよ」
「はんたー? おお、おお……機神様が来てくださったのか……」
なんだかイマイチ話が通じず、崇めることを辞めない住人達をなんとか宥め、取りあえず集落に入れて貰う。
集落と言っても周囲を囲む壁以外は粗末な物で、これもまたなんとかしてやりたいと思うレベルだったが、取りあえず動きやすいよう入口にロボ軍団を置き、それぞれ義体に乗り換え中に入った。
「機神様方、ようこそおいで下さいました、リム族の地へ」
もう訂正するのは諦めよう……。
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