第百七十七話 新たなる身体

 スミレが取り出した新たな義体はスミレとよくにた顔をしていて、ぱっと見る限りではスミレの色違い……2Pカラーと言えるものだった。


 レニーのような白銀の髪、赤い瞳にゆったりとした白いローブ。

 そして背中にはスミレ同様に2対の翅がついている。


「なるほど、この身体であれば確かに俺の望みが叶えられるというわけか」


 では、早速と新たな義体に仔馬からシステムを移し、手や足、首に腰などを動かし動作チェックをする。

 

 うん、いいね。特に問題なく動作するようなので、今度は発声テストだ。


「あーあー、わっ、中々に可愛らしい声だな……そりゃそうか。

 この身体でカイザー役の渋いイケボ声優の声なんか出しちゃったら気持ちが悪いもんな……」


 ブツブツと言いながらあちこち作動チェックをしていると不思議そうな顔をしたスミレが近づいてきた。

 

 ううむ、サイズ差が無いと普通の女の子にしか見えんなこりゃ。

 これまた久々の感覚だけど、まあ、なんというかしっくりくるね。


「どうしたんだい? そんな不思議な顔をして。どこかおかしな所でもあったかのかい?」


「い……いえ、その……、その身体……女性型なんですよ? あの……何かもっとこう……、変化による違和感とかそういうのは無いのですか? というか、その、げえ! 俺が女の子にー!? みたいなリアクションとか……そういう……」


「そうは言われてもな……メインの身体は人型とはいえこの身体ほど人間に近いわけじゃ無いだろう?

 今の身体はに近いわけだから、違和感はそこまで無いというか、寧ろしっくりくるというかで何ら問題を感じないんだよ……リアクションって言われても、嬉しさが勝ってしまって……なんかごめんね?」


「ううん……そういう事を言ってるわけじゃ無いんですが……いや……カイザー貴方まさか……」


 スミレ先生的には私がひどく動揺するリアクションが見たかったんだろうけど、ふふふ、わるいな。


 私はこの食事可能で小型の義体が喉から出るほど欲しかったのだよ。

 人型であれば、別に男性型でも女性型でも構わないわけさ。


しかし……さっき意地悪をされたからな。

 分かってることをあえて聞いて嫌がらせをしてやろう。

 

「なあ、スミレ。なんでの身体を女性型にしたんだ?」


 何か言おうとしていたスミレだったが、俺の質問を聞いてそれを引っ込めてしまった。

 そして一瞬困ったような顔をしていたが、少し考える顔をした後理由を話してくれた。


「そ、それはええと、ああ、はい。ブレイブシャインは女性だけのパーティですからね。共に行動する際、貴方も女性型の方が彼女たちもやりやすいと思ったのですよ」


「へえ、成程なあ。流石スミレ、そこまで考えているとは」


 取って付けたような理由を出しやがったけれど、まあ、言われてみればと素直に感心したので褒めてあげたのだけれども……何か諦めた顔でため息を一つついて追加の理由を話し始めた。


「……と言うのは実は建前で……いえ、女の子ばかりのパーティだからだというのは同じなのですが、男性の身体になるとその……サイズ感はあれどいわゆるハーレムパーティになるじゃないですか……」


「は、ハーレム?」


「レニーは師弟愛のようなものですから兎も角、マシューやシグレは少し怪しいところがあります。特にミシェル。彼女は母親の推しもあって下手に人間に近い男性体を見せてしまえばコロリと行く可能性大!」


「ちょ、ちょっと待ってくれスミレ! あいつらが俺のことをそんな目で見ているとでも?」


「ですから、見る可能性が高いと言う話ですよ。女性ばかりの職場にイケメン上司が配属されたらどうなりますか? 王子化するのは目に見えてますよ! パーティクラッシャーカイザーになってしまうのです!」


「いやあどうかな……女子ってさあ、表向けはそうでも裏では結構……そもそも男の評価ポイントって顔じゃないしさ……って、いやいや、そうじゃなくて。

 なんだ、スミレ……お前はそんな事を考えていた訳か……」


 まったく。結局の所またスミレの打算的な暴走が原因だったというわけか。何処まで人に近づけたとしても俺の身体は生身では無く機械であるわけだし、妙な間違いなど起こるわけは無いのだが。


 ミシェル母が言っている事だってあれはある種の暴走みたいなもので、ミシェル本人にはそう言う性癖など有るわけも無し。そもそもが彼女たちにそう言った興味を抱くわけはないのだから、結局の所スミレの取り越し苦労というわけだ。


 これはあれだよね……原作でも見られたスミレ先生のヤキモチってやつだ。

 ちくしょう、かわいい奴め、だからスミレは好きさ。

 

「スミレ。とっても素敵な義体を作ってくれてありがとう。君のようなパートナーが居て俺は幸せだよ」


 まだなにかブチブチと言っていたスミレだったけれど、俺の心からの感謝の気持を聞いてぱあっと表情を変え、一気にご機嫌になった。

 

「ふふ! そうですか、そうでしょうとも! さあ、カイザー! 行きましょう! 今日のドッキリは二段構えです!」


 いたずら顔で微笑むスミレと相談をして、最初は俺が登場することになった。


 ふよふよと普段のスミレを意識して乙女軍団の所へ移動すると、彼女たちは配膳を終えスミレがくるのを待っていたようで俺に声をかけてきた。


「あ! お姉ちゃんやっときた! ほらほら、ご飯のしたくができましたよ……ってあれ?お姉ちゃん? なんか変だよ?」

「スミレ? なんかちょっと変わったかお前? ああ、わかった服が違うんだ! 着替えあったんだな!」


「服どころか……レニー殿の様な髪の色になってますし……顔も違うような……」

「……スミレさん……ではありませんわね? で、では……まさか……本物の妖精様……?」


 レニーとマシューは少し残念な子だが、シグレとミシェルは鋭いな。直ぐに普段のスミレと違うものだと気づいたようだ。


 そしてこのタイミングで彼女たちの後ろからスミレが現れる。


「どうかしましたか皆さん。あら、ご飯が出来てますね。お待たせしちゃってすいません」


 スミレの声を聞いて後ろを振り向き、俺とスミレを交互に見るレニーとマシュー。


「あれ……お姉ちゃんが二人……あれ?」

「おいおい、スミレ……お前まさか……増えたのか……?」

「だからスミレさんではなく妖精さまでは無いかと言ってますでしょう?」

「うむ、やはりスミレ殿とは別の者か。お主……何者だ?」


 その言葉を待っていた。俺は自信満々に胸を張ってそれに答えてやった。


「俺が何者かだって? 忘れたのか俺の姿を! 俺はカイザー、お前達の司令官だ!」


「「「「……」」」」 


 可愛らしい声で放たれた俺のセリフに固まる乙女軍団。


 後日スミレから「あの時のカイザー、今まで見た中で一番のドヤ顔でしたよ」と言われてしまった……。

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