第五十六話 自己紹介
レニーがまた厄介そうなクエストを受けたようだ……。
ハンター達が禁忌とするような場所……ね。
悔やみの洞窟なる場所らしいが、レニー達の会話から推測するに、訪れたことを悔やむ何か恐ろしい事が起こるのだろう。
恐ろしい事――魔獣や猛獣などの危険生物による襲撃か、はたまた天然由来の精神的ダメージを与える不気味な現象か……いや、魔法的な物が存在するこの世界だ、何らかの魔術的な仕掛け、トラップの様な物が有ることも考えられる。
しかし、俺にはもう一つ別の原因が思い浮かんでいる。
霊的な何か……ではなく、もしかしたら俺の装備に関わる何かがあるのでは、という期待をどうしてもしてしまうんだ。
悔みの洞窟――俺が居た神の山付近には洞窟はひとつしかない。おそらく、俺が把握している場所がその目的地で間違いないだろう。
位置的に俺の装備が迷い込んでいる可能性は低くはない。俺としてもその洞窟は大いに興味がある。
レニーに色々と言いたいことも有るが、ここはお説教はせずに任せてみることにしよう。
……しかし、護衛依頼なー……だったらちょっとワンクッション入れておかないといけないよね。
「こちらカイザー、レニー、聞こえているか? うむ。話は聞かせてもらった。それでだな、その依頼を受けるにあたってひとつ案があるのだが――」
『あー、なるほどなるほど、そうですね、いい案だと思います! 面白いし! えっへへ、じゃあ、今から外に出ますので……はい、はーい、わっかりましたー!』
……
…
と、やってきたのは前にも訪れたことがあるライダー向けのカフェだ。
ここは俺やオルトロスも一緒にお茶が出来る貴重なスポット……とは言っても飲むことは出来ないのだが、会話に参加することは出来るからな。屋外と言うのはありがたいよ。
「じゃあ、改めて。私はレニー・ヴァイオレット。
「あたいはマシュー、ただのマシューだ。レニーと同じく
「俺の名はカイザー! レニーが乗る君たちが言うところの機兵さ! よろしくな!」
「……」
「あ! こら! カイザー! 気を失ったぞ!」
「もう! カイザーさん! だから止そうって……!」
「面白そうだって言ってだろう? あー……しかし気を失うとは……」
流れで押し切ってやろうと思ったが失敗してしまった。まいったな、行けると思ったのになあ……。
『この手が通じませんか……なるほど、レニーやマシューと比較し、知能レベルが上位の個体と想定されます』
「聞こえてるぞ!スミレ!」
「スミレさん酷い!?」
『マシュ~より賢いだろうね~』
『口調が上品だったもんねー』
「おめえら!」
なんて、わいわいがやがやと騒いでいると……ミシェルさんとやらがぱちくりと目を覚ます。頼むぜ? そのまま俺の顔を見てまた気絶とか……しないでおくれよ?
「……はっ! わたくしは? ここは? 今、なにかレニーの機兵が喋ったような……? 夢かしら?」
「ミシェル、落ち着いて聞いて。夢じゃありません。私の機兵、カイザーとマシューの機兵オルトロスは……喋ります……!」
「そ、そんな悪い冗談は止めてちょうだい? う、うそよね? さっきのはいたずらよね?」
「すまない、ミシェル……俺は別に驚かすつもりは……」
「……っぐ!」
また気絶するかと思ったが、今度はなんとか踏みとどまったようだ。
はあはあと荒い呼吸をしながらもゆっくりと俺やオルトロスを眺め、自分で自分を納得させようと頑張っている……強いな、この子。
「……本当に喋ってる……んですの?」
「ああ、信じられないかもしれないけれど本当だ」
『オルたち~』
『喋れるんですー』
『『ねー』』
「…………ふう。」
ゴクゴクとカフェオレ的な物を飲み干し、一呼吸入れている。熱くないのだろうか……。
「わたくしとしたことが、突然のことに驚いてしまい、失礼な事を致しました。わたくしはミシェルです。カイザーさん、オルトロスさん、よろしくお願いしますわ」
『実は私も居ますよ。私はスミレ、カイザーの戦術サポートAIを担当しています。お見知りおきを』
「ま、まだいらっしゃったのね!? す、スミレさん? お姿が見えないようですが……はい、よ、よろしく……」
ミシェルが見せた反応、これは真っ当な反応だ。
レニーやマシューの同類たちはまあ、別として……普通の神経をしてればミシェルのように気を失うか、びっくりして腰を抜かしちゃうだろう?
そうじゃなくとも、余り堂々と街中で喋って動いていると確実に大騒ぎになるのは目に見えているからさ、俺達の秘密はなるべく内緒にしておくというスタンスなんだけれども……。
今回は護衛依頼と言うことで、彼女とは暫く一緒に行動することになるわけだ。となると、秘密のままにしてしまえば、長期に渡って我々の行動に制限が課せられることとなる。
となれば、ただでさえ厄介そうな依頼の成功率が大きく低下してしまう。
このミシェルと言う少女は悪い人間には見えないし、年齢的に二人と仲良くやれそうだ。
となれば……さっさと打ち明けてしまって、こちら側に取り込んでしまえば良いだろう、乱暴な話だけれどもそう判断したんだ。
……まだ少しだけ動揺しているようだけれども……この様子ならきっと大丈夫さ。
「で、では最後にわたくしから改めて自己紹介をさせていただきますわね。
わたくしはミシェル。ルナーサで商人をやっている者の娘ですの。
今回は依頼のため、初めてフォレムまで来ましたが、皆様のように素晴らしいハンターに出会えてうれしく思っていますわ」
まだ少し緊張を残しながらも、ふわりと笑ったミシェルからは何処か気品の様なものが感じられた。
ルナーサの商人……ね。
商人と一言で言ってもピンからキリまであるからな。この言葉遣いと報酬金額を考えれば……結構なお嬢さんなんじゃないかな、この子。
「さて、ミシェルの依頼を含めた今後の行動予定を話そうと思うけれど……みんないいかな? ああ、勿論ミシェルも一緒に聞いてくれて構わない」
こう言う事は本来リーダーであるレニーがやるべきなのだが……レニーが俺に丸投げしてしまった以上しかたない。とはいえ、知識的に俺だけではどうしようも無い部分もあるためレニーとの二人三脚+スミレで纏めていく事にした。
「まず、ミシェルの依頼に出る前に先の依頼で入手した報酬で魔獣の図鑑を購入したいと思うのだが、どうだろうか?。
キランビルの件で必要性を改めて強く感じたからな。何かあった時に敵の正体が分かれば的確な指示を飛ばせるわけだ、だからこれは今後の必要経費だと思ってほしい」
ハチ退治は本当にヤバかったからな……キランビルの特性をしっていれば、もう少しスマートにやれたと思うんだ。だから今後を考えると、何より優先してデータを充実させた方が良いと判断したんだけれども、どうやら二人もそれには異論はないようで、元々購入する予定もあった事から特に反対されることはなかった。
「次に、護衛依頼だけど、さっそくだけど、明日から始めようと思ったのだが……どうだい?」
「わたくしはそれで構いませんわ」
「私も問題ないよー」
「ま、特に用事はねえからそれでいいよ」
「ありがとう。であれば、今日は準備日として、手分けをして依頼のしたくをしよう。
とりあえず一度リックの所に向かい、本日はそこで解散。後はそれぞれ話し合って自由に支度ををしてくれ。
それでだな、レニー。俺はリックと話すことがあるからさ、申し訳ないけど買い物は徒歩で頼むな。荷物はオルトロス、お前達が持ってやってくれ」
『おっけ~』
『任せてー』
……
…
というわけでリックの工房に来たのだが……まだまだリックは奥に籠もっているようで、相も変わらず無人の工房に何かを加工する音が響いていた。
そろそろ出来るのでは無いかと淡い期待をしてきたのだが、どうやらまだもう少しかかりそうだ。ううむ、これならばレニーの買い物に付き合っても良かったかもしれないな……。
「じゃ、お買い物してきますね。マシュー、ミシェル行こっかー」
今からでも……と、思ったが、レニーがミシェルの手を引いて楽し気にしているのを見ていうのをやめた。
レニーだって女の子なんだ、同世代の女子と年相応に過ごすのも……大切な事だからね。 昔は兎も角、今はごっついロボットだからな。女子会の邪魔をしちゃあならないよね。
マシューが乗り込んだオルトロスはこちらをちらりと見ると、軽く手を振って。
ゆっくりと二人の速度に合わせて歩いて行った。
……って、一番大事な食料についての打ち合わせを忘れてた……まあいいや、今ざっくり計算して連絡しよう。
ええと……洞窟までは多めに見積もって1日ちょい、1泊二日ってところだね。
ミシェルの話によれば、現地についてしまえば用事は1日もあれば終わると言う事なので、仮に現地滞在日数を時間を2日と設定して……さらに予備として2日をみて……倍の10日分くらいの用意をしていけば困る事はなさそうだな。
レニーに連絡を入れ、その旨を伝えると、了解の返事と……これから本屋に向かう所だと言う報告がされて、ちょっと嬉しくなった。あくまでも戦闘の役に立てるために欲しい図鑑だけれども、魔獣図鑑ってさ、生物的な意味合いでも興味深いけれど……この世界の場合だとさ、動物型メカの設定資料集的なものとも言えるわけだろう?
データのためと皆には言ってるけれど、個人的に欲しいという気持ちも実はかなり大きいんだよね。ああ、楽しみだなあ、早く読みたいなあ、魔獣図鑑……!
一体どんな内容なのか、期待に胸を躍らせていると――
「ううおおおおおおおおおお!!!」
――響き渡るはリックの雄叫びだ……。
どうやら頼んでいたものが完成したようだけど、ちょっぴりびっくりしてしまったよ……。
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