第三十三話 双頭の獣

 俺と互換性があるコネクタ、つまりはレニーの"おうち”、バックパックと同型のコネクタが存在している。


 これは一体どういうことなのだろうか? バックパックは俺から外れたオプションパーツだったわけだが、機体となれば事情は変わってくる。


 予想されるのは聖典マニユアルに記載されている図面を元に作られた機体だと言うこと。それを元にかつての王国、または現存しているいずれかの国家が組んだ際、何に使うのか分からないが取りあえず形を真似て実装したのでは無いかと考えられる。


 恐らく意味の無い飾りのような物だと思うが、どうにもこれは見逃せない。


「スミレ……これは試した方が良いのだろうか? 俺はどうにもあれが気になって仕方が無い……」


『そうです……ね……。対電子戦用防護システムを立ち上げた上でチェックしてみましょうか。正直なところ不安ですが、それ以上に好奇心もあり、AIながらモヤモヤしています』


 スミレもか。俺もなんだかとってもモヤモヤしている。開けるなってラベルがついた箱が置いてあったら気になって仕方ないだろう? 開けたらどんな酷い目に遭うかわからない、けれど開けて中身を見ないと気になって仕方が無い! そんな感じなんだ。


 スミレの許可も出たことだし、早速調べてみよう。っと、その前にレニーをコクピットから出さないとな。変な物が俺に侵入しないとも限らない。何か起きてコクピットが封鎖されても困るし、なによりパイロットの安全は最優先に考えないとね。


「レニー、一応コクピットから下りててくれないかな?何が起こるか分からないから」


「わかったけど、カイザーさん、壊れちゃ嫌だからね?」


 不安そうな顔で下りたレニーに大丈夫だと親指を立てて見せ、念のためにマシューと一緒に下がらせた。


 レニー達が安全圏まで移動したのを確認し、スミレにゴーサインを出す。


『では……行きます。サブ接続ハッチ開放、ケーブル放出。目標に接続します。3,2,1,接続しました。紫色からの強制アクセスありません、こちらからアクセスを開始します……

………

 オペレーティングシステムの存在を確認……えぇ……嘘でしょう? と、当機のシステムと互換性有り……データダウンロード可能、カイザーどうしますか?』


「おっ、OS? それはまあ良いけど、互換性有りィ? 念のためにセキュリティチェックを最大にしつつダウンロードしてくれ。ちょっとどころじゃ無く気になるよ」


『了解、ダウンロード開始……有害と思われるプログラム……該当無し……あっ……』


「……ああ、なんてこったいそういう事か……」


 俺がもしも人間の体だったならば、間違い無く涙を流していたことだろう。


 向こうから次々流れてくるデータには俺の失われた記憶が残されていた。


 そのどれもが人間の俺に対してもカイザーの俺に対してもかけがいのない物ばかり。


 "忘れていた"情報が大切な思い出となって次々と流れこんでくるため言葉がなかなか出てこなかった。


「カ、カイザーさん? お姉ちゃん……? だ、大丈夫?」


 あまりにも長く沈黙が続いてしまったためレニーが心配している。そうだな、事情を話さないとな。


 ……その前にやる事をやっておかないとな。


「スミレ、俺のシステムアップデートを頼む」


『了解……レニー、カイザーの機能強化を実行します。許可を』


「な、なんだか知らないけどとにかくよし!」


『カイザー及びパイロットの承認確認……本部の承認、緊急時により省略。セーフティロック解除。カイザーメインシステム 第6及びサブシステム第9の機能制限が解除されました。サブシステム第9のアップロードを開始します』


 スミレの声とともに停止していた紫色のロボの目が鈍く輝き再起動を始めた事を告げる。


「な、なんだ? あたいは何もしてないぞ? なんで動き出してんだ?」


『サブシステム第9 アップロード及びデータリンク完了 サブシステム起動確認……デュアルAIオルトロス起動』


『……おはよおございますう~』

『……って起きてただろー』


 気の抜けた幼い声が聞こえてくる。ああ、そうだ。今なら思い出せる! この癒されるロリボイスとショタボイス!!


「久しぶりだな! オルトロス! そしておかえり! オルトロス!」

『おかえりなさい、オルトロス。元気そうで嬉しいわ』


「「オ、オルトロスぅ?」」


 レニーとマシューが揃ってびっくりしている。さもありなん。俺だってびっくりしたさ。なんたってこれは俺の大切な僚機であり――


「オルトロス達! 積もる話もあるが早速試すぞ! 動作チェックだ!」


『りょうかい~』

『うーん久々でどきどきするー』


「いくぞスミレ!」


『了解、カイザーシステム第6起動 モードギガナックル 承認』


「ギィイイイガアアアナックル!!! フォオオオオムチェンジッッ!!!」


 パイロットの代わりに俺が叫ぶ。いいじゃんか、レニーがやってるの見てちょっと羨ましかったんだもん。

 

 ……私の掛け声とともにオルトロスが変形を始め、2つに分離する。それを見ていたレニーとマシューは口を開けたまま驚愕し、壊れただの壊しただの騒いでいる……が! 驚くのはまだ早いぞ!


『行くぞ~カイザ~』

『とおー』


 気の抜けた声を出しながらオルトロスたちが左右から俺の腕めがけて飛んでくる。両腕を左右に伸ばしそれを受け入れるとすっぽり俺の手が包まれた。


『がい~ん』

『がしーん』

 

 巨大な拳ギガナツクルに包まれた片手を天に掲げ決めポーズ……ッ!


「ふわあああああああああしゅごいしゅごいよかいじゃーしゃん!」

「あ、あたいの機兵がぶ、武器になったのかあれは?」


「みたか、これがギガナックルフォームだ。おっと変わったのは腕だけじゃないぜ?」


『みてみて~』

『胸部もおっきくなってるのー』


 身体を屈ませパイロットたちにコクピットを開けてみせる。


「なんとー!」

「い、椅子が2つあるぞ?」


「合体したからな。複座になったんだよ。無論、二人が乗った状態でもこのフォームに変形可能だし、それによって変なところに巻き込まれることも怪我をすることもないぞ」


『これがカイザーの合体システムです』

「す、すげえ……で、でもあたいの機兵は無くなっちゃったのか……?」

「心配しなくていいぞ、マシュー。これは元に戻れるし、なにより常用するものじゃない」


 そう、ギガナックルフォームは巨大な腕と拳を持つ超火力フォームなのだが、足元は元のカイザーのまま。つまり重い上半身を機敏に動かすパワーを出すことが出来ない。


 このモードになると通常時の半分以下の機動力になってしまうため、下手に使うと敵の良い的になってしまうわけだ。


 つまりこれは必殺技。最後の最後にとどめとして使ういわゆる決め技ってやつだな。


 しかし、参ったな。オルトロスと再会出来たのは良いけど、こいつらは既にマシューの機兵になっている。


 元々俺の所有物とも言えるから所有権の主張をしてオルトロスを連れて行くことは出来なくもないけれど、さっき合体したときマシューが浮かべた心配そうな顔を見ると……うん、そんなことは言えないよね。


 他にも色々思うところがあるし、まずは相談をしてみることにするか……。


「マシュー、相談したいこともあるし、何より他のトレジャーハンターにも謝りたい。良かったら君たちのギルドで話し合いをさせてくれないかな」


「いいぜ、あたいもオルトロス? について聞きたいことが山盛りだ! よし、ついてこいよ」


『マシュ~』

『乗ってねー』


 俺から分離したオルトロスが機兵モードになるとマシューを乗せるべくコクピットを開いた。


「うおお!? あ、ありがとなあ?」

 

 マシューが困ったような、嬉しいような表情を浮かべながらオルトロスに乗り込んでいる。

 機体自らがパイロットを招き入れているあたり、機能制限されてたとはいえ、オルトロスが自己判断で選んだ適応者ということで間違いないだろうね。


 ……ああ、これはとっても長い夜になりそうだぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る