第二話 珍獣襲来
そういえば、スミレはどうして新たな年号や世界の状況を知ってるのだろう? こんな山の中、どう考えたって人が来るわけがない。
いくら優秀な俺のセンサーでも盗み聞きが出来るのはせいぜい数十メートル四方だ。山の麓ならギリギリなんとかならないこともないけれど、レーダーで探った限りでは深い森に囲まれているだけで村がある気配が感じられない。
「ねえスミレ、どうして年号を知ってたの?」
『周辺探知完了 異常なしです、カイザー』
「うん、ありがとう。でね、どうして年号を……」
『前方に当機体に高速接近する物質あり……緊急体勢に入ります』
「えっなんだって? と言われても俺には何も出来ないだろ?」
『鳥でした、カイザー』
「もしかして……言いたくない?」
『……』
「沈黙は肯定だよ、スミレ。答えることにより俺たちに不利益が生じるならそれでいい。でもね、大事なことは隠さないで教えて欲しい。二人の身を護るカギとなるかもしれないからね」
『わかりました。ごめんなさい、カイザー……実は……』
渋々と言った具合にスミレが語った真実は驚くべきことであった。
実は300年前には既に最終防衛モードは解除され、先に目覚めたスミレは訳あって直ぐには
俺は山頂に居るとはいえ、その姿は結構目立つ。麓から見つけたのか、何度か物好きな人間がえっちらおっちらやってきたらしいのだが、御神体として拝んだり、俺の価値を見抜き解体しようと人を集めてやってくることもあったらしい。
しかし、堅牢な俺の装甲だ。何をしようとも其れは叶わずやがて諦めて来なくなったとのことだ。
なんだか懐かしい光景がこんな所でもまた繰り返されていたらしい……。
もちろん、パイロットの素質があるものが来れば俺を起こして紹介するつもりだった、とはスミレは言っているが、どうもまだ何かうそをついているような気がする。
そこで、拗ねた真似をして何とかスミレの重い口をこじ開けてみたところ、どうやら最近、一か月ほど前からちょいちょい来る人間が俺を拝んだり、撫でたり、たまにバールのようなものでハッチをこじ開けようとしたり、どうにかこうにか俺に乗り込もうと頑張っていたらしいのだ。
「そんだけ熱意がある奴なら俺を起こして適性チェックさせりゃよかったじゃん。
チェックはそれほど厳しくないとはいえ、誰彼が乗れるようにはできてないんだぞ。乗りたいってやつにはどんどん試させないとまた何千年も山の神様になってしまうよ」
『お気持ちはわかるのですがカイザー……あっ』
心なしかスミレがいやそうな感じの声を出す。どうしたの? と尋ねてみれば……。
『……言いたくありませんが、噂をすればなんとやらです……例のパイロット候補……いえ、しつこくカイザーを狙う個体が前方より接近中です……』
前方にセンサーを集中させるとのんきな声が聞こえてくる。
「かっみさっま かっみさっま やっまのかみー おうっけをすくった でんせっつのお」
「あれ、俺の事かな?」
『肯定しかねますが、もしかしたら』
「きょうっこっそはいるっぞ こっくぴっとー そっしって あったしっが うっごかすぞお」
信じられない単語を聞いた。確かに彼女は「コクピット」と歌っている。
「スミレ、彼女……だと思うんだが、コクピットって歌ってるけど、あれは俺達が知っているコクピットと同じものを指すのかな?」
『恐らくはそうでしょうね、カイザー。あの小娘は無礼にもカイザーのコクピットハッチをバールのようなものでこじ開けようと頑張りながらあの歌を歌うのです』
それならやはり、カイザーを、ロボットという物の構造を理解していると言えよう。
まして「動かす」と歌っているんだ。何が起きたか分からないが、俺達が寝ている間に文明が発達しロボが空飛び戦う世界になってしまっているのかもしれない……。
わざわざロボットで無双……もとい、引っ掻き回すためにロボが存在しない世界にやってきたというのに、これはちょっとあんまりだ……まったく神様は意地悪だな。
あ、聞こえてるかもしれないので訂正しますよ。これは光ってる貴方に言ったのではなくて、比喩的な、運命のいたずらに毒づいただけですから。
……ほっとしたかのような気配を感じたが、まあ気のせいだろう。
やがて歌の主の姿が見えてきた。全天モニタにデータが表示される。
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種族:人間族
年齢:推定15歳
性別:雌
身長:147㎝
体重:未計測
特徴:髪色は銀、目の色は紫、肌の色は白く、胸は笑うほど貧相である。
初見では少年と勘違いしたほどの残念ボディー()
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性別や特徴の所に悪意をとても感じる……。体重が未計測なのは優しさではなく、測りようが無かったんだろうな。よじ登った時にセンサーを使えばわかりそうなものだが、俺にまとわりついてるのが嫌で嫌でそれどころではなかったのかもしれない。
データを見るにスミレは酷い分析をしいているようだが、それなりに可愛らしい少女で、ロボットアニメのヒロインに居そうな感じだ。
確かに体つきはやや気の毒な感じではあるが、まだ15歳だ。がんばれ! きっと未来はあるはずだ! と応援してやりたくなる。
やがて、少女は俺の前にやってきた。折角喋れるようになったんだし、挨拶でもしてやろうと思ったが、ちょっと様子を見ることにする。いきなり声を掛けたらびっくりして転ぶかもしれないしな。
「こんにちは!! 神様!! 今日も来たぞ! さあ! 今日こそハッチを開け私をパイロットとして認めなさい!」
”パイロットとして認めなさい”、か。そこまで知っているのかと感心するやらゾッとするやらだ。うーん、パイロットにできなくとも、話し相手として欲しいかもしれない……。スミレは確実に拗ねるだろうが、ここではスミレであっても知りえない世界の情報はやはり欲しい。
「うーん、やっぱり今日もだんまりですか。おかしいなあ、やっぱり伝承は嘘なのかなあ? でもなあ……。ええい! では力尽くで!!!」
バールのような物で無理にこじ開けようとする鈍く嫌な音が辺りに鳴り響く。
それも、直ぐには諦めず、しつこく開けようとする音を聞いているうちになんだか不安になってきてしまった。
「ス、スミレ……、念のために聞くけど、あれの被害状況は?」
『被害状況報告します。矮小生物からの攻撃活動による当機体に損傷はありません。よって矮小生物の脅威レベルマイナス5と報告させていただきます フッ』
なんか最後鼻で笑ってたな。アニメでもちょいちょい見られたスミレの黒いところがよりハッキリと見えてきた。ファンとしては嬉しいが、当事者となるとちょっと嫌だな……。
「ふー、しょうがない神様ですね! また明日来ますから!」
満足したのか、今日のノルマ終わり! って感じで背伸びをすると、ブンブンと手を振りって元気よく下山していった。なんなんだアレは……。
『以上、矮小生物の自己紹介でしたが、どう判断されますか? カイザー』
「まあ、悪くは無いと思う。ただ、良くも無いね。適正は観てみないとわからないけど、あまり賢くないような気はする……素直そうだけどさ……」
『そうですかね、カイザー。私ならアレをのせるなら野ネズミでも乗せた方がマシですが』
「まあまあ……」
やはりスミレは彼女をめちゃくちゃ嫌っているな。俺を取られると心配しているのか、はたまた純粋に嫌いなタイプなのか。まあ、もう少し付き合ってみないとわからない。
……でもさ、この山3800mも有るんだぜ? どっから登ってきてるのか知らないけれど、頻繁に通ってくるほどの体力……パイロット候補として悪くは無いかも知れないな。
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