ウザ後輩と、ゴーカート

 腹も満ちて、俺たちは散歩がてらあちこちを回った。


 メリーゴーラウンドなど。ガキの乗り物だろと思っていたが、クルミと回っていると案外楽しい。


 俺の後ろで馬を操りつつ、上下に動くたびに変顔で攻めてきた。俺は思わず、吹き出しそうになる。


 前の馬車にいるアンズ会長たちに気づかれないよう、俺も反撃した。


「ゴーカートやろうぜ」


 誠太郎が言い出して、ゴーカートのサーキット場へ。


 小さいマシンながら、結構なスピードで走っている。


「あたしのスピードに追いつけるッスかね、先輩?」

「バカ言え。クラスの男子対抗カートゲームでトップだった俺の実力を見せてやるよ」

「コンピュータゲームの話ッスよね? 本番に弱いタイプッスか?」

「言ったなお前。じゃあジュース賭けようぜ」


 俺たちがヒソヒソと話していると、アンズ会長がジッと見ていた。


「なに二人絵で話し込んでるの? 行くよー」


「は、はい姉さん」

 会長に呼ばれて、クルミがカートに乗り込む。


 ヘルメットまで借りれるのか。本格的だ。


 コースを二週して先にゴールしたほうが勝ちである。

 しかし、S字や直角カーブなど難しいルートが用意されていた。


 シグナルがブルーになり、俺はアクセルを踏む。


「うお⁉」


 いきなり、俺のマシンがトラブルを起こす。エンジンが動かない。


 慌ててスタッフさんが駆けつけ、数秒で解決したが。


 クルミが振り向いて「プププ」と余裕の笑みを浮かべた。


「あのやろ……おい前、前!」


 俺が呼びかけたときには、もう遅い。

 S字をクネクネ走行していたクルミは、タイヤの山に激突した。

 エンジンが止まる。


 その間に持ち直した俺は、アクセルを全開にした。

 クルミを抜きにかかる。


「ズルいッス!」


「よそ見したお前が悪い」




 なお、俺もよそ見してタイヤの防壁に突っ込んだ。




「へへーん、お先ッス」

 クルミが俺を抜いた。

 だが、直線でスピードを出しすぎて、まともにタイヤの山へ直撃する。



 もたついているクルミを横目に、俺はクルミを抜いた。

 直後にスピンしてしまう。 


「何やってんだよ、リクト!」

 もう一週回り終わった誠太郎が、俺を華麗に抜き去りゴールする。


 続いてアンズ会長がクルミを助け出す余裕を見せてゴールした。


 クルミはすぐ目の前だが、このままでは負けてしまう。


 とはいえ、クルミは二度目のS字でもたついた。

 クラッシュしないよう、慎重になりすぎている。


 そのスキに、俺のマシンは飛び出す。

 クルミのすぐ隣まで接近できた。


 もう一息で勝てそうだ、そう思った瞬間である。

 まさか、クルミのマシンが俺に体当りしてきた。


「ちょ⁉ ありかよそんなの!」

「勝てばよかろうッス!」


 だが、二人仲良くスピンしながらゴールする。

 写真判定するでもなく、俺たちは引き分けとなった。


「仲がいいんだから、悪いんだか」

 俺自身、判断しかねている。


 ゴーカートの直後、俺たちは「お互いにおごり合う」ことでカタをつけた。


「せっかくッスから、いいのをおごるッスよ」

「いいよ。コーラをくれ」

「スペシャルメニューの『はちみつキュウリ味』ってあるッスよ?」


 疑似メロン味じゃねえか。いっそメロン味のコーラで売ればいいのに。


 おやつのチュロスを食いながら、アンズ会長が「次はどこへ行こうか」と話題を振ってきた。


「あたし、あれがいいです」



 クルミが指定したのは、お化け屋敷だった。

 廃墟となった病棟をモチーフにした、話題のスポットである。



「えっ、クルミちゃん? あんなのでいいのか? 想像以上に怖くないって話題だぜ? 薬品の匂いが充満してるだけ、って掲示板に書いてあるし」


「う、うん。わたしもパスかな。二人きりになるのには最適だけどー?」


 大げさに、二人は言う。もう少し刺激がほしい二人は、絶叫マシンを希望している。


 と、いうのは建前だ。

 

 誠太郎は、俺がビビりだと知っている。


 さりげなく、恐怖系はスルーさせようとしているのだ。絶叫系で音を上げたくらいだからな。


 会長が話を合わせているのは、クルミと俺とを二人にさせるのに、まだ抵抗があるからだろう。


「実は、文化祭でうちのクラスの出し物が、あれに決まったのです」

 クルミが話すと、アンズ会長たちは納得した。


「そ、そっかー。それならいいかもね」

「俺たちは待ってるから、姉妹で行ってこいよ」


 できるだけ自然に、姉妹をお化け屋敷へいざなう。


「あたし、先輩と行きたいです」

 しかし、クルミは譲らない。

 頑として、俺との同行を希望する。


「男の人と一緒に行かないと、セクハラ対策になりませんから!」

 妙に説得力のある意見で、クルミは迫ってきた。


「あまりワガママ言って困らせちゃダメよー、クルミ」


「いえいえ、あたしたちがお化け屋敷を回っている間に、お二人は自由な時間を満喫していただければ。おじゃま虫は引っ込んでいますから。ちょっと移動に時間かけますし」


 今、アンズ会長の脳内が垣間見える。

 天秤が揺れ動いているのが、俺にも見えるぞ。


「うーん、しょうがないなあ」

 結局、会長は誘惑に勝てなかった。

「それなら、わたしたちも一緒に」


「アンズさん、あっちの射的なんてどう? 景品あげるよ」

 俺に気を使って、誠太郎がお化け屋敷以外に誘導する。 


「え、あ、うん……」

 思わぬ誘導に、アンズ会長はなすすべなし。


「じゃあクルミ、リクトくんのこと、よろしくねー」

「生きて帰ってこいよ、リクト」


 クルミと俺を置いて、二人は射的コーナーへ。


 俺も、おばけを撃つ銃がほしい。

 横にいるクルミを見た。


 すっごいいい顔になってる!

 お化け屋敷行こうって言った途端、すっごいいい顔になりやがった!


「せーんぱい。大ピンチだったッスね」

「やっぱ確信していやがったな、クルミ」


「一度、本気で怖がる先輩を見たかったんスよ。あたし」

 エヘヘと、無邪気にクルミが笑う。

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