ウザ彼女のポンコツ姉、再び

「以上です、生徒会長」

 クルミが、話し終えた。


「やけに本格的ですね。正式種目にしてもいいくらいに」


「正式種目にすると、景品がもらえなる危険があります。そうなれば、娯楽性を損なうかと。これはあくまでも、生徒たちの肩を温める息抜き。違いますか?」


 さすが妹だ。姉の攻撃にすら物怖じしない!


「分かりました。では、娯楽部門は的抜きに決定します。解散」

 生徒たちが退席すると、またアンズ会長はぐでーっとなる。


「はー、つーかーれーたー」

 会長は、机にへばりつくスライムになってしまった。


「もうなんなのあいつらー。めんどくさいー。アイデア出さないくせにー」


「よしよし、よくできました」

 飼い主の誠太郎が、スライム会長の頭を撫でる。


「アンズさんの気持ちも分かるよ。でも、こんなに早いスピードで案なんて出せないのが普通さ。普通は、ここまで進むのに二、三日は見ておかないと。アンズちゃんは的確さを求めすぎなんだよ」

「そーかなー誠ちゃん? パパパッとアイデアくらいは出ないものかなぁ?」

「誰も出せないアイデアを書記くんに求めたのは、どこのどなた様でしたっけ?」


 諭すように、誠太郎がアンズ会長を責めた。


「あーそっかーっ。そうだったー。ごめんねー、リクトくん。面倒くさい女でー」

 手を合わせながら、アンズ会長は反省している。


「でも、クルミって、あんなに家でしゃべる子だったかなー?」


「クル……妹さんって、普段どんな感じなんだ?」

 妹が話題に上ると、アンズ会長は肩をすくめた。


「チヒロちゃんとは全然印象が違うよー」

 アンズ会長は、チヒロと面識がある。


「あんな楽しそうにしてるクルミって、初めて見たかもしれない」


 ちょっと待ってくれ。変なワードが出てきたぞ。


「え、あれって、楽しんでいたのか?」

「そうだよー。わかんなかった?」


 わかんなかったです!


「ウソだろ、マシーンみたいだったぞ」

「自分の意見なんて、ほとんど言わないもん。いっつも私の後ろに隠れて、黙って人のお話を聞いているの。つまらなさそうに」


 意外だ。俺は楽しげなクルミしか知らない。


「気になる? リクトくん」

 会長からの疑惑の目が、俺に向けられる。





「まあ、な。これからも生徒会にいるんだから、変なストレスを抱え込まないように、俺たちがちゃんと後輩をサポートしないとな」


「えらい! えらいぞー。えらいからお菓子あげちゃう」


 背伸びをして、棚の上にあるお菓子の缶をパカッと開ける。


「てっきりさ、クルミちゃんのよくしゃべるところとか、知ってるのかなーって思ってさ」


 さとい! さすが姉、実にさといぜ。


「とんでもない。まともに会話するシーンを今日始めてみたくらいだぜ」


 どうにかごまかす。


「おせんべいでいい?」




「おう。サンキュ。じゃあまた月曜だな」

 アソートのせんべいを開けて、口に入れる。

 そのまま立ち去ろうとした。

 


「妹と仲良くしてね」

 後ろから、アンズ会長に声をかけられる。

 


「え、なんだよ?」

 

 何か、意味深な感じに聞こえたが。


「さっきのクルミちゃん、リクトくんのことをかばってたみたいだから」


「そ、そうか」




「クルミちゃん、リクトくんのこと、気になってるのかなって」


「そ、そんなわけないじゃん」

 苦笑いで返す。


「気をつけて帰ってね」


「じゃあな」

 アンズ会長と誠太郎に見送られながら、俺は生徒会室を出た。






 真横にクルミがいるのも知らずに。


「ひい!」

 思わず、小さな悲鳴をあげてしまう。


 クルミが、とっさに口を抑えた。笑いをこらえているのだろう。



「どうした? Gでもいたか?」

 ドアの向こうから、誠太郎が呼びかけてくる。


「あ、ああ! そうだ! 足で踏み潰したから見に来るなよ」

 何もない廊下を、足で踏みつけた。


「おー。ちゃんと処理してくれよな」

 特にアンズ会長は、Gが苦手だからな。


「じゃあ帰るわ」

 ドアの向こうの誠太郎に声をかけた。


「気をつけてな」

 誠太郎の言葉を確認し、俺は小走りで廊下を歩く。


「せーんぱい」と、クルミは競歩のような速度でついてくる。ちゃんと音を立てずに。


「一緒に帰りましょ」


 学校を少し抜けるまでは少し間をおいて、クルミは学校が見えなくなった辺りでくっついてくる。


「先輩、出過ぎたマネをしてすいませんッス」

 さっきの会話を聞いていたのだろう。


「いや、なんだ。ありがとな」


「でもでも、発言したのは先輩なのに。あたしが出しゃばったせいで」


 アイデアを出しただけの俺より、具体的な案を提供したクルミの方が、生徒からの印象は強い。


「別に、生徒会でポイント稼ごうなんて思ってねえよ」


 俺はただ、退屈な学生生活を送りたくないだけ。


「球技大会さ、盛り上げようぜ」


 そう言いながら、歩道橋を渡る。


「じゃあ、俺こっちだから」


 先に歩道橋を渡り、スーパーのある方へ。あとは夕飯を買ってくるだけだ。


「先輩、今度のデートスポット、あたし決めちゃいますね」

「あ、待った。一緒に言ってみようぜ」


 俺とクルミは、同時に微笑んだ。


「はい。せーのっ」


「「ゲーセン!」」


 二人の声が、重なった。

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