第48話 閉店営業

チャリン♪

二十二時十分

お店の扉が開いた。


「いらっしゃいませ。

実はもう閉店の時間で、って、あ、先ほどの・・・」


「あら、どうも・・・」


初めて出会った日での再会だった。



夏海は同じテーブルの椅子に座り

ビール片手に残りの手作り海鮮おつまみをつまんだ。


「ごめんなさいね、もう閉店のお時間なのに」


「いえいえ、いいんです。これも何かの縁ですから。

それより、どうしてこんな時間に?

会ったのは、まだ朝でしたけど。」



「ふふ、ちょっと飲みたい気分になっちゃって」



照れくさそうに言う彼女のことが

夏海は少しずつ気になっていた。




「何かあったんですか?」


「そうね、すごく私的な話だけど聞いてくれるの?」


「はい、そのための閉店営業です」




二人の長い夜はここから始まる。




「ありがとうございます。

私、どんな仕事しているように見える?」


「そうですね・・・

朝早く海辺を歩いてことからそれなりに融通の利く仕事・・・

ネイルもされていますし、服装もファッション的というか

オシャレしているように見えるので、自営の美容師とかでしょうか?」


「おーーー!

店長さん、すごい洞察力してるわね♪」


「じゃあ、」


「けど、ハズレ!!」


「ガクッ」


「こう見えて私、科学者なの。」


「え?

・・・科学者ですか?」


「信じられないでしょ?」


「はい、現段階では一ミリも信じられません」


「ふふふ、そうよね。

朝から海辺をうろついて、

こんな深夜にお酒を求めて出歩いてるもんね。」


「いや~

おっしゃるとおりですね」


「あら、店長さんなかなか言うじゃない」


「すみません。科学者ってあまりにも特殊な仕事な気がして。

こんな田舎に科学者が働けそうな場所があるようにも思えないし。」


「特殊じゃないわ、普通よふつう。朝ご飯はパンとヨーグルトくらい普通よ。」


「え?あ、ちょっと、その例えからして、やっぱり普通じゃないですね。」


「朝は、パンじゃないのー?」


「朝は、やっぱり白飯とあさり汁と魚ですね」


「それこそ普通じゃないでしょ!」


二人の笑いの絶えない話が

閉店した店内を明るく灯していく。



「どの辺で働いているんですか?」


「それは秘密よ。

でもどんなことを実験しているかは

教えてあげてもいいけど・・・」


「どんなことを実験しているんですか?

例えば不死の薬の開発とかですか?」


「あら、不死の薬ほしいの?」


冗談半分で言った不死の薬について聞き返された夏海は


「そうですね、

そんなものがあるのなら

いつまでもこうして

海満の美味しい魚たちを振る舞いながらお姉さんとお話していたいです。」


「あら、店長さんシャレたこと言うじゃない、ふふ。」


はぐらかされたのか。

夏海は彼女への気持ちを今は必死に抑えながら

もう一度聞いた。


「それで結局は何の実験をしているんですか?」


しつこいと嫌われるだろうか?

いや、まだ確かなことは聞いていない。

確かなことは・・・


彼女は目を細め、笑みを崩さず言った。


「今、店長さんが言ったものよ」


「え?冗談はやめてくださいよ、

さすがにそれは嘘ですよね。」



彼女をまっすぐ目つめる夏海に


「ふふ、本当よ。

こんなこと冗談でも他人には言えない。

でも不思議とあなたには言えたし、

言う前にあなたがその答えを導き出してくれたわね。」



冗談は嘘か誠か

この場で明らかにはなりそうにない。

夏海はそう感じた。

ただ、彼女に何があったのか。

気付くと

店長さんからあなたへと呼び名が変わっていた。




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