第1話 俺の名は
「おい おい しっかりしろ!!」
「もう死んでるわよ」
「ふざけるな。死ぬわけないだろ!!
俺が今何とかするから!!」
「死人に口なしとは言ったものね」
「おい しっかりしろ、今、生き返らしてやるからな!!
一人で死ぬんじゃねーぞ!!」
夢か・・・・
リアルな夢だな・・・・
気付かないうちにページはめくられていた。
今日は会社も休みで
カフェで本を読んでいたはずが、いつの間にか寝てしまっていた。
やめよやめよう!!
これでは俺の唯一の趣味の読書が睡魔に負けてしまったことになる。
俺の仕事はバーチャル関係のものであり、言うならば本とは対立的なところにいる。だからこそ紙でできた本が愛おしく、また読書が一番の趣味となっていた。
俺に辛気くさい始まり方は似合わない。
さぁ、気を取り直して
夢のことは一度忘れて自己紹介の方をさせてくれ。
深緑のエプロンを身にまとい、
髪を後ろでお洒落に束ねるウエイトレス。
照明が発するオレンジの光が
よりエレガントさを際立たせ、
メープル色よりもやや暗めな木造のインテリア空間。
そんなオトナなカフェで
街歩く人を時折眺めながらアイスコーヒーを片手に読書する
三百六十度 どの角度から見ても読書家のように読書する男
THE読書家の俺の名は
佐藤太郎
二十三歳
独身だ。
と、最後の〝独身だ〟は何だか癇に障る。
独身の音が
「ドクシン」の四文字へとニュアンスが変換するやいなや、
頭の中で壊れたステレオのように何度もリピートし、
次第に暗示をかけられたかのような状態に陥る。
ネガティブ回路へと接続されるのだ。
独り身を略して独身。
社会人シークレットワードの一つであることは間違いないだろう。
気圧のせいだろうか。少し肩が重たい気が・・・。
しかし、
落ち着いて内容を整理してみれば俺の歳は二十三。
これはあくまで佐藤太郎、俺自身の独断と偏見だが
男の二十三、そう男の二十三で独身は何ら恥じることではない!!
・・・・
と強気な発言をしてみたが、いばって言えるものでもなさそうだ。
一つだけいいだろうか。
重要なことは
ドクシンは独身でも働き盛りの独身であるということだ。
高校三年間青春を謳歌し、
大学で学生生活を
リア充として満喫するという娯楽の誘惑を断ち切った。
そうして死に物狂いで就活に励んだ結果、苦労して立派な一社会人になった。
つまりは
今や恋愛に現を抜かす暇もないくらい働く俺は
自ら望んでの独身であるということ。
決して負け惜しみを言っているわけではない。
この特別な意味を含む独身は、
俺という人間を知っておく上で決して外せるものではない。
では、誤解が解けたところで、改めて自己紹介をさせてもらう。
街歩く人を時折眺める、
どの角度から見てもぼっちな二十三歳独身
佐藤太郎 一応・・・働き盛りだ。
どうしてこんな哀愁漂う自己紹介になってしまうのだ。
これでも一応主人公だぞ。一応ね・・・・
このままでは仕事を理由に独身貴族を語る寂しいやつとしか
思われない可能性がある。
それは大きな誤解だ。
この誤解を早々に解かなければ一体どこの誰が
こんな主人公の物語に期待してくれるというのか?
否、してくれない。
独身貴族を語る寂しいやつと言うと、
友達が一人もいない、孤独でとても寂しいのに、
見栄っ張りな性格が孤独さをひた隠しにし、
あたかもそれこそがクールなのだと思い込んでいるイメージを持たれてはいないだろうか。
残念、その読みは外れだ。
確かに俺が気を許せる友達と言えるやつは極めて少ない。
だが、
いないというのと少ないというのは全くの別物だ。
俺には友達が少なからずいるのだから。
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