第2話 返品は出来ませんことよ?

 17歳になったリコネルは、正に天使のような美しい女性に成長していました。

 本当に美しい金髪に、海のような美しい青の瞳。唇は赤すぎず、それでいて食べてしまいたいほどの魅力を彼女から感じ取ったのです。



「……嗚呼、リコネル。本当に王太子から婚約解消を言い渡されてしまったのですか?」

「ええ! わたくし、あのような方と婚約したこと事態に絶望したものですもの。こうして他の女が横から掻っ攫って下さって助かりましたわ!」



 なんと! リコネルは王太子であるチャーリー様と不仲だったとは……王の話は当てになりませんね。



「そもそも、俺様思考も気に入りませんし、あの方とっても頭が悪いんですのよ?算数すら出来ないんじゃありませんこと?」

「そこまでですか……」

「文字もなんて書いてあるのか毎回頭を悩ませるほど悪筆なのです。もうストレスでストレスで……でもそんな事も、全て終わりましたわ! あんな顔だけ男を横から掻っ攫って下さってありがとうございます! さてジュリアス様! わたくし、押しかけ女房にならせて頂きますわね! 決定事項ですの、追い返したりしないで下さいませ?」



 そう言って淑女の礼をするリコネルに思わずポカーンとしてしまいましたが、これは大変な事になったと屋敷中がその後はてんてこまい。


 まずはリコネルの部屋を用意しなくてはなりません。

 しかし――。




「まぁ! 夫婦になるのにまだ一緒の部屋では眠ってはなりませんの?」

「婚約の挨拶をしにいかなくてはなりません、暫くは忙しくなりますが「ああ、その心配なら要りませんことよ? 今日の夜にもお父様達が挨拶に来られますもの」 えええええ!?」



 用意周到とは正にこのこと!!

 私は急ぎ地価にある移動用の魔法陣に魔石を沢山補充するように通達しました。



「ふふ、やっぱり魔法陣は使えませんでしたのね?」

「お恥ずかしい限りですが、この辺境地に来る客は少ないのです。ほぼ0といって過言ではありませんので、私が行く時にのみ魔石を入れ込むようにしていたのですよ」

「だと思いましたので、わたくし馬車で来てしましたわ。取り合えず数日持つように軽そうな服装と、メモ帳とペンを持って来ましたわ!」



 今度は自分達の事を小説にされてしまうのでしょうか。

 思わず後ずさりした私に、彼女はクスクスと悪戯っ子のような表情を為さいました。

 その顔を見ると、悪役令嬢と言うのはなんとも魅力溢れる女性の事を言うのだと痛感させられた気分になります。



「しかし、宜しいのですか?」

「なにがですの?」

「私のような見目麗しくも無い、年もあなたよりもいったおじさんに嫁いでしまわれて」

「それはしかたありませんわ。わたくしの好みにジャストミートしてるんですもの!」

「「ジャストミート……」」



 リコネルの言葉に執事とメイド長が口を揃えて呆然としています。

 確かに彼女とはじめてであった時に初恋をしたかのような表情をしていましたが……。



「それに……ハッ 見目麗しい? 素晴らしい事ですわね。でも中身は見目麗しい殿方が、女性がどれほどいらっしゃるかしら? 見も心も見目麗しい方なんて聖職者にもいませんことよ? それにわたくしが美しいと思うのは内面ですわ」

「内面……ですか?」

「ええ、内面が美しい男性のもとに嫁ぎたい、それがわたくしの幼い頃からの願い、夢。そのドンピシャがジュリアス様だったというだけの事ですわ! ふふ! まだ独身でいらっしゃって良かったですわ~!」



 そう言って嬉しそうに今にも抱きついてきそうなリコネルに、私の顔は禿げた頭から湯気がでそうな程恥ずかしくなりました。


 この様な私にも、ここまで情熱的に愛を囁いて下さる女性がいるとは思いもしなかったからです。



「と、言う事で。婚約が決まるまでは恋人時間を楽しみましょうジュリアス様。まぁ夜には婚約者ですけど、逃がしはしませんことよ」

「は……はい!」

「良い返事ですわ~! さぁ、わたくしが一応それまで使う部屋へと案内して下さる?」




 こうして、本当に悪役令嬢のような雰囲気を醸し出す未来の妻は、メイド長に案内され屋敷の中へと入って行かれました。




「旦那様……」

「ええ……嗚呼、この様な奇跡が起きるなんて神に感謝を」

「え、そっちですか?」




 ――こうして、夜にはリコネル・ファーネルの両親も到着し、その日の内に婚約したのですが、巷で噂の悪役令嬢(?)が妻になりにきた嵐のような一日でした。

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