1-8 二人の姉

一日中体育の授業のことを思い返していた。

藤澤君が僕の前に出てくれて助けてくれたのか、それとも試合だから単純に投げ返したのか。


どうしても自分の都合のいい方に考えてしまう。


僕を守るために助けてくれたと、、、


そんなことあるはずないのに、そうあって欲しいと願ってしまう。

藤澤君の一つ一つの行動が僕を惑わし、感情を激しく揺れ動かす。


あぁ、どうしよう、、、


「考え事?」

そう響君が僕に尋ねる。今、部活が終わり帰る途中だった。響君とは、家も近くて、高校1年生の時に部活が一緒になって以来、いつも一緒に帰っている。凛ちゃんは、僕たちとは、方向が逆のため、帰りはいつも2人だ。

「いや、そんなんじゃないよ。」

僕は、慌てて言った。

「悩みがあるなら言ってね。」

「うん、ありがと。」

暗くて横顔がはっきり見えなかったけど、声からなんだか寂しそうな顔をしている気がした。


僕たちを沈黙が包む。

辺りは、すでに暗く街灯がほのかに周りを照らしていた。


「今年は、新入生たくさん集まりそうでよかったよ。去年は、少なかったもんね。」

「そうだね、僕らも今年で卒業だし、しっかりと後輩にバトンを渡さないとね。」

「ユーフォに来てくれたら嬉しいなぁー」

「トランペットにもね。」


僕らの他愛のない話は続いていく。

「じゃあ、また明日ね。」

「また明日。」

響君に手を振り、別れる。

気がつくと、また体育の出来事を思い出していた。思いが溢れ、心が重くなっていく。


はぁ、、、、


しばらく歩くと、家に着いた。

「ただいま。」

「愁ちゃん、おかえりなさい。」

一番の上の皐姉(さつねぇ)が玄関にいた。

「皐姉、久しぶりだね。いつ帰ってきたの?」

「今さっき、けど、もう行かないといけないの。ごめんね。」

いつも慌ただしい人だ。急に帰ってきて急に出ていく。

「もう行くの?次は、いつ帰れそうなの?」

お母さんが玄関に出て来た。

「わからない。また顔出すから。愁ちゃんの顔だけでも見れてよかったわ。」

そう言うと出ていった。

「またね!」


皐姉は、外資系の企業で働いていて、仕事が忙しいらしい。だから、合間をぬってこうして帰ってくる。帰ってきてもゆっくりしているところを見たことないけど、、

「皐姉、行っちゃったね、、」

「もう少しゆっくりしていけばいいのに。」

お母さんは少し寂しそうだ。

「お父さんは、また遅いの?」

「そうみたい、お仕事大変みたいよ。」

「夏姉(なつねぇ)は?」

「もうすぐ帰ってくるはずよ。」

「ただいま!」

「あっ、帰ってきた。おかえり!」

夏姉は、地元の大学2年生である。専攻は、経済学と言っていた。

「このお土産、何?」

夏姉が机の上に置かれた大量のお土産を見て言った。

「それは、皐(さつき)が置いて帰ったものよ。」

「皐姉、来てたんだ。まーた会えなかった。愁は、会えた?」

「うん。少しだけだけどね。」

「ほんと、慌ただしい人。」

夏姉が呆れていて、僕とお母さんはそろって頷いた。

「ご飯にするから、手を洗ってきなさい。」

「はーい。」


夕ご飯を食べ終え、2階の自室に戻る。

ベッドに横になり、天井を見つめ、一つ大きなため息をついた。


はぁ、、、、


目を閉じると、また体育の出来事を思い出していた。


守ってくれた、、、、そんなわけないよね、、、


気づくと眠っていた。

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