1-2 まさかの同じクラス
あっという間に時は経ち、高校3年生となった。
高校最後の1年間もこれまでと同じように単調な日常を送るはずだったが、僕の日常は、彼と初めて同じクラスになることで大きく変わってしまった。蓋をしたはずの恋心が、今にもはじけそうなぐらいに大きくなってしまったのだ。
張り出されたクラス替えの紙から自分の名前を見つけると、そこには、彼の名前があった。気にしないようにして教室へ向かった。
教室に入ると、
「愁(しゅう)君、今年は同じクラスだね。よろしく。」
屈託のない笑顔で柳木凛(やなぎ りん)が話しかけてきた。
「僕の方こそよろしくね。」
凜ちゃんは、同じブラスバンド部でフルートを担当している。男女関係なく友達が多く、誰とでもすぐに打ち解けられる明るい女性だ。その社交的な性格は、到底真似できないので、少し憧れていた。性格は、少しだけ気が強めだけど、根はとても優しい人だ。
僕は、自分の席を見つけてそこに座った。
「今年も一緒だね。」
照れるように話しかけてきたのは、元宮優(もとみや ゆう)だった。
「これで3年間一緒だね。今年もよろしくね。」
「こちらこそ。」
彼女がいて本当によかった。僕は、友達が少なく、優ちゃんとは、数少ない友達の中でも、特に仲良しで、高校に入って初めてできた友達でもあった。高校1年生の時、たまたま席が隣同士になり、ぎこちなく話しかけたのを覚えている。そこから少しずつ仲良くなり、高校生活にはいつも隣にいてくれた。部活は、美術部に入っていて、内面世界をよく描いている。一度だけ、見せてもらったことがあり、とても綺麗で繊細な絵だった。ウチなんか上手じゃないよ、と伏し目がちに言っていたのを今でも覚えている。
「よぉ、山口!」
突然後ろから、ニヤニヤと笑いながら武藤勇(むとう いさむ)が話しかけてきた。正直、困ったなと思った。武藤君とは、友達というほどの関係ではなく、一方的にいつも絡んでくる。知り合ったきっかけは、高校野球の応援だった。高校2年生の時、ブラスバンド部として武藤君が所属する野球部の公式試合で応援演奏をした。試合は、接戦でホームランを打たないと負ける場面に差し掛かっていた。その時、武藤君がマウンドに立った。僕も応援演奏に力が入ってしまい、その反動で変な音を出してしまった。気づくと逆転ホームランで終わっていた。その試合から数日経ち、廊下で武藤君とすれ違った。そこで、あの時の変な音のおかげで、逆にリラックスできたと言われ、感謝された。それから、会うたびに絡んでくるようになった。
「初めて同じクラスになったな。よろしくな!」
「よろしく、、、」
僕は、小さな声で言った。武藤君は、ずっとニヤニヤしながら僕を見ていた。
はぁ、、武藤君かぁ、、苦手だなぁ、、、
「山口君ですね、よろしくお願いします。」
武藤君の横にいて、丁寧に話しかける男性がいた。彼は重岡玄(しげおか げん)だ。重岡君と武藤君は、仲がいいみたいだった。廊下で武藤君に絡まれる時には、必ず隣には重岡君がいた。重岡君の印象は、武藤君と違い、常に穏やかで丁寧な印象を受けた。
「よろしくお願いします。」
僕も丁寧に言い返すと、2人は、自分の席へと戻って行った。
教室に次から次へと人が入ってくる。そこには、今まで見かけたこともない人もたくさんいて、クラスの大部分が教室に入り終わった頃、彼が入ってきた。
藤澤恭(ふじさわ きょう)。その人だった。
クラス替えの紙は、嘘ではなかった。彼の歩く姿を自然と目で追ってしまう。その姿は、やっぱりかっこいい。驚いたことに彼は僕の隣に座った。嬉しさとともに緊張感を覚える。決してこの思いを誰にも悟られてはいけない。
「オイラと一緒だね。」
彼に親しげに話しかける男性がいたが、知らない人だった。その人は、無邪気で明るそうな人だ。
「だな。」
話を聞いていると、同じサッカー部のようだ。彼は、その男性とは対照的に終始冷静だったせいで、抱いていたイメージが変わった。サッカーをやっている印象からもっと明るい人だろうと勝手に感じていたのだ。
隣で話している2人の会話を聞きながら彼のことを何一つ知らないんだと思った。
こうして、高校最後の1年間が始まった。
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