女神はそんなリョウタたちを見下（みお）ろしながら笑う。

くだらない。

実（じつ）にくだらないと、女神は言葉を続ける。

「そこまで言うのなら、何故あなたたちはワルキューレに救（すく）ってあげなかったのかしら? そこの武道家（ぶどうか）の子はあの子と直接（ちょくせつ）会っているのでしょう? それにリンリ、あなただって操（あやつ）られていたから何もできなかったとでも言いたいわけ? あとそこの騎士（きし）の子もそうよ。あなたがリョウタと楽しんでいる間もあの子はずっと苦（くる）しんでいたのよ。それなのに、ずいぶんと偉（えら）そうなことを言うじゃない」

先ほど気を吐（は）いたリム、リンリ、レヴィだったが、女神にそう言われると何も言えなくなってしまっていた。

特（とく）にリムは悔（くや）しそうに自分の拳（こぶし）を強く握（にぎ）っている。

「私はあなたたちとは違（ちが）う。あの子を、ワルキューレを救ってあげた。彼女が望（のぞ）んだもの……力（ちから）を与（あた）えてあげたわ」

女神がそう言ったとき――。

突然リムが怒鳴（どなり）り返した。

彼女は今にも泣きそうな顔をしながら言葉を発（はっ）する。

「ワルキューレは力なんて望んでいなかった! あの人は……ずっと自分の種族（しゅぞく）を……もう一度竜人（りゅうじん）族を栄（さか）えさせようとッ!」

「だけどあの子が選（えら）んだのは復讐（ふくしゅう）よ」

すると、女神が叫（さけ）ぶリムの言葉を遮（さえぎ）った。

もしワルキューレが本当に自分の種族を再起（さいき）させようとしていたのなら、どうして自分の――女神の加護（かご）を受け入れたのかと、静（しず）かながら力強く言う。

「あの子が悲惨（ひさん）だったとあなたは感じているのでしょうね。でも、それは違（ちが）うわ。あの子は自分で結果（けっか）がわかっていて死んでいってたのよ」

再（ふたた）び押し黙（だま）ったリム。

女神はまるでパフォーマンスでも見せるかのように両手（りょうて）を広（ひろ）げ、そこから煌（きら）めく星（ほし）のような光（ひかり）を振（ふ）りまいている。

所詮（しょせん）、限（かぎ）りある命（いのち）を持つ者たちは、自（みずか）らの愚（おろ）かさに気が付かずに争（あらそ）い続けるだけ。

世界がどうなろうと自分のことしか考えられないのだと、女神は宙（ちゅう）を舞（ま）いながら語（かた）っていた。

だから滅（ほろ）ぼすのだ。

人間も亜人（あじん）もすべて滅亡（めつぼう）させ、病（やまい）にかかった世界を治療（ちりょう）するのだ。

そのために別（べつ）の世界から魔力の高い者を召喚（しょうかん）し、聖剣（せいけん）と暗黒（あんこく）剣に生気（せいき）を集（あつ）めさせ、自分を復活（ふっかつ）――受肉（じゅにく）し肉体（にくたい）を得（え）た。

女神使いとして――戦乙女（いくさおとめ）ワルキューレは、女神の復活に協力（きょうりょく）しただけでも罪（つみ）を許（ゆる）され、その魂（たましい）は浄化（じょうか）されたのだ。

女神はそう言いながら、空から光を振りまき続けていた。

もはやリムには返す言葉がない。

それはリンリも同じで、彼女たちのようなまだ幼（おさな）い少女には、女神の話している意味（いみ）がよくわからないのかもしれない。

特にリンリはこの世界に転移（てんい）された者だ。

この異世界の住人が争いばかりしていることなど知らないのは当然であった。

だが、二人とは違い――。

レヴィは女神の話を理解（りかい）していた。

彼女も心（こころ）のどこかでそんな世界を憂（うれ）いていた。

ひょっとしたら自分たちは間違（まちが）っているのではないか。

この世界にとって人間や亜人は寄生虫（きせいちゅう）でしかないのではないか。

だとしたら、滅ぼされてしかるべきなのかも――。

レヴィは女神のやろうとしていることを正（ただ）しいと思い始めていた。

だが、困惑（こんわく）する彼女たちの傍（そば）で――。

一人の男が喚（わめ）き出していた。

「ふざけんじゃねえぞクソ女神! てめえがやっているのは有り余（あま）る力を使って、“私は正しい”って言いてえだけじゃねえかッ!」

「リョウタ……」

レヴィは思わず彼を見ると、そのまま目が離（はな）せなくなっていた。

リョウタは何も言い返せなくなったリム、リンリ、レヴィに代わり、まだまだ喚き散（ち）らす。

「人間や亜人は争いばかりして醜（みにく）い!?　このまま滅ぼされるのは自業自得（じごうじとく）!? それを何もしねえで勝手（かって）に決めるてめえは雲（くも）の上から正義感（せいぎかん）を押し付けるクソ女神なんだよ! そうやって自分よりも弱（よわ）い奴（やつ）らが苦（くる）しんでいるのを見て笑える精神性（せいしんせい）を見てわかるが、明（あき）らかに私情（しじょう）が入ってんじゃねえか! それでも神かよ! いい加減（かげん）にマウントとって楽しんでんじゃねえよ! 火の鳥異世界編（いせかいへん）でもやりてえのかてめえはッ!?」