第百九十七話 底

ルバートはうすれていく意識いしきの中で、その少女が何者なにものであるかに気が付く。


聖騎士せいきし……リンリか……」


「イケメンのお兄さんは休んで、あとはこのあたしにまかせなさいッ!」


ルバートはラヴィから聞いていた話を思い出していた。


女神の使いとして――。


リンリはバハムートを引き連れてあばまわっていたが、それは本当の彼女ではない。


女神にあやつられているのだということを。


そのリンリが自分を助けにやって来たのだ。


それは、選択せんたくほこらへちビクニをすくいに行ったソニックとリムが、彼女の洗脳せんのういたことにほかならなかった。


「彼らが上手うまくやったんだな……。では、たのんだよ……聖騎士の少女……」


そしてルバートは笑みをかべながら、その身を宝石ほうせきへと変えていった。


リンリは現在げんざい状況じょうきょうさっしているのか、そんな彼を笑顔で見送みおくった。


だが、そんな微笑ほほえんでいた二人とは対照的たいしょうてきに――。


女神は不機嫌ふきげんそうにフンッとはならす。


「今さら出てきて何のつもりなの?」


いかりがこもった声でたずねる女神に、リンリは少しもうわけなさそうに笑顔を返す。


「いや~すぐに追いかけたんだけど。あなの上から眼鏡めがねのお兄さんと騎士のお姉さんが落ちて来てね。それでちょっとおくれちゃった」


右手で頭をポリポリきながら、テヘッとしたを出すリンリ。


そのふざけた態度たいどに女神はさらに怒りをあらわにする。


「それ、こたえになっていないのだけど?」


「でも、しょうがないよね。ヒーローは遅れてやって来るもんだしぃ。それにどうやら誰も死んでないみたいだしぃ。うん、ナイスタイミングだ、さすがあたしッ!」


「……あなたがここまで会話かいわができない子だと思わなかったわ。もういい、サッサと消えなさい」


女神はそういうとかざした手から魔力を放出ほうしゅつ


だが、すかさずリンリも同じようにひかりはなち返した。


周辺しゅうへんがそのすさまじい衝撃しょうげきによって荒地あらちへと変わる。


「私の加護かごうしなってもまだこれほどのちからを出せるなんて……」


「女神なんてワンパン……と言いたいけど。どうやらそう簡単かんたんにはいかないみたいだねぇ」


女神もリンリもたがいに気を取りなおし。


ふたたはげしい魔力のぶつかり合いが始まるのであった。


――そのころ、女神の開けた穴に落ちたリョウタとレヴィは――。


ソニックたちがいる地下ちか神殿しんでんにいた。


二人は穴から真っ逆さまで落ちていたときに、すれちがったリンリの咄嗟とっさとなえたの魔法の力にすくわれ、ダメージもなくこの下まで着地ちゃくちすることができていたのだ。


その場にすでに戦乙女いくさおとめワルキューレと倒したリムも合流ごうりゅうしていた。


レヴィは気を失っているビクニをくソニックとリムへ上での現状げんじょうつたえると、天井てんじょうに開いた大穴から空を見上みあげている。


「この程度ていどの高さならいけるな」


そして、突然リョウタをかついで跳躍ちょうやくしようとしていた。


当然とばかりにリムも穴から地上へと向かうと、言い出している。


リョウタはそんな二人を見ながら、じついやそうな顔をしていた。


「いや、あのさ。上に行くのはいいんだけど。俺のこの体勢たいせいってすごくカッコ悪くない?」


女性に担がれて最終決戦さいしゅうけっせんの場の立つのは、ひどなさけないことだと思ったのだろう。


リョウタはできればちがうやり方で地上に出たがった。


「お前は飛べないんだから、ほか方法ほうほうがないだろう。それに今さらだぞ。私がお前を担ぐなんて、べつずかしがるようなことではない」


「いや、俺は恥ずかしいんだけど……」


レヴィとリョウタがそんな話をしていると、リムが感情かんじょうのない表情ひょうじょうをして会話かいわに入って来る。


「リョウタのその無様ぶざまさを見せつければ、女神も少しは油断ゆだんするかもしれないのですよ」


「少しの間会ってなかったけど。相変あいかわらずお前は俺にキツイな……」


そしてリョウタの意見いけんなどなかったことになり、レヴィが跳躍。


地上を目指めざして飛び上がっていく。


その後、リムはビクニを抱くソニックを見て、彼のかたをポンっとたたいた。


それからググの頭をでて自分も飛び上がろとすると――。


「おいリム……一緒に来いって言わねぇのかよ……」


ソニックがかぼそい声でたずねてくるのであった。

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