第百三十九話 吸血鬼族の能力

それからぼくとソニックは、ビクニとは別の部屋にはこばれた。


この大聖堂だいせいどうの地下にあるカビくさくて、とびらにはわざわざ立ち入り禁止きんしと書かれたふだがかけられていた。


その部屋のかべの色もやっぱり灰色はいいろで、大人が一人が横になれるくらいのベットが一つと、小さなあかりとかがみが置かれている。


思えば城門じょうもんにも街の中にも、この大聖堂のどの部屋にも絶対ぜったいに鏡がある。


日々ひび身だしなみをチェックするようにっていう女神きょうおしえなのかな?


ぼくがそんなことを考えていると、突然部屋のすみほうり投げられた。


壁にたたきつけられて、ただでさえ魔力切れで動けないのに、こんな目にってさらにグッタリしちゃうよぉ。


それからボロボロにされたソニックは、部屋にあったベットに乱暴らんぼうに寝かされると、彼の手足を拘束こうそくしていたひかりかせがそのかたちを変えていき、彼の着ていたふくやぶかれた。


ソニックはそれにさからうことはできず、ほとんどはだかのまま両手りょうてを大きく広げた格好かっこうにされた。


その姿すがたは、まるで寝ながら十字架じゅうじかにはりつけにされたみたいだった。


ソニックは吸血鬼族きゅうけつきぞくでしかも王子さまだから、十字架はきらいだと思うけど。


まさか自分が十字架のポーズをとらされているとは思わないだろうね。


「これから拷問ごうもんでもしようってのか? お前らに俺から聞き出したいことなんてないだろうが」


ソニックはあれだけいためつけられても、まだ威勢いせいよく言い返していた。


ワルキューレはそんなソニックを見て、フンッとはならしている。


そして、彼女は衛兵えいへいに向かって首を振った。


何かの指示しじを受けた衛兵は、自分の持っていた剣をさやから抜いて、部屋にあった灯りの火にその剣を当てる。


「やはりそれではぬるいか」


そう言ったワルキューレは、人差ひとさゆびを立て、衛兵の剣に向かってほのお魔法まほうとなえた。


炎につつまれたは、になるまでねっされていく。


「外はもう夜だ。吸血鬼族がどれだけ不死身ふじみなのかをためすには丁度ちょうどいい時間だと思わないか?」


熱によって赤くなった刃を持って、衛兵が拘束されているソニックへと近づいて行く。


まさかあの剣でソニックの体を切るつもりなの……?


「女神の使いはこういうのが趣味しゅみかよ。他人たにんのことを残酷非道ざんにんひどうとかよく言うぜ。てめぇのほうがよっぽどじゃねえか」


小馬鹿こばかにするように答えるソニック。


その目の前には、見るだけ火傷やけどしそうな剣が寄ってきている。


「その余裕よゆうがどこまで持つか、楽しみだな」


衛兵が、剣の刃をソニックに左太股ふとももにゆっくりと刺した。


ジュッと肉のがす音がして、火葬かそうのときにげるはないが鼻につく。


「ぐっ……! ぐぐ……いっ!」


自分の体をかれながら切られているのに、ソニックはを食いしばって、けして悲鳴ひめいをあげなかった。


衛兵は剣をひねってさらにおくへと押し込んでいく。


やめて……やめてよぉ。


そんなことしたらソニックの足がダメになっちゃう。


ぼくは必死ひっしに鳴いて止めようとしたけど、ソニックに刺さった剣はさらにふかく突かれていった。


焦げた皮膚ひふ隙間すきまから血がゆっくりと流れていく。


そのときのソニックの顔からはあせあふれ、一気に彼の顔色が悪くなっていった。


剣がソニックの太股を突き付けてベットにたっすると、衛兵はゆっくりとそれを抜いていく。


ソニックの白い太股には、赤黒いきずがまるで刻印こくいんのようにのこされていた。


あんなことされたらもうソニックは、普通ふつうに歩くことなんかできなくなっちゃう。


「こいつはおどろいたな……」


ぼくが見てられなくて目をそらすと、ワルキューレが驚愕きょうがくの声をあげた。


顔を上げてぼくもソニックを見ると――。


「なるほど。これはたしかに不死身と言っていいな」


剣を捻って開けられた太股の傷が、おそるべき速度そくどなおっていく。


焼かれた皮膚も痛々いたいたしく流れていた血も止まり、元のソニックの白いはだがそこにあった。


すごい……。


これが吸血鬼族の能力のうりょくなんだ……。


「この力があれば、我が同士どうしリンリが少々手を焼くのもしょうがなかったというわけか」


ワルキューレはこんなことを試したかったの?


ソニックを痛めつけるためだけに生かしておいたの?


そんなのひどすぎるよ。


「では、どれだけ痛めつければ死ぬのか、これからじっくりと試してみるとしよう」


ぼくはまた止めようと鳴いたけど。


「うるさい」と衛兵にり飛ばされてしまった。

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