イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第百三十一話 管理国家体制

それからぼくらは――。

ヴァイブレが用意（ようい）してくれた料理（りょうり）を食べることになった。

ずっと話ばかり聞いても落ち着けないだろうからって、ヴァイブレが気を遣（つか）ってくれたんだ。

とはいっても、それはとても料理とはいえない代物（しろもの）だったけど。

「ヴァイブレ。なんだこの四角（しかく）いもんは? 味（あじ）が全然しないぞ」

早速食べたソニックの横で、ビクニもおいしくなさそうにブロック状（じょう）の固形物（こけいぶつ）を口に運（はこ）んでいる。

ぼくはそのブロックを皿（さら）の上でコロコロと転（ころ）がしてから、パクッと食べてみた。

うん、おいしくないね。

別にまずいわけではないけど、ソニックの言う通（とお）り味がしないんだよね。

ぼくは、人間も亜人（あじん）もみんな料理をおいしく食べることが生きがいの一つだと思っていた。

だから、このブロックってなんか変な食べものだなぁ。

味がないものを食べるなんて、全然楽（たの）しくないじゃないか。

「すみませんソニック王子。今愚者（ぐしゃ）の大地（だいち）で手に入る食べものはこれしかないのです」

ヴァイブレが申（もう）し訳（わけ）なさそうに答（こた）えてる。

たぶんだけど、きっとこのおじいちゃんのせいじゃないのにね。

それからヴァイブレは、ようやくソニックが聞きたがっていた愚者の大地の現状（げんじょう）を話し始めた。

聖騎士（せいきし）の少女と戦乙女（いくさおとめ）ワルキューレによって制圧（せいあつ）された愚者の大地は、それから大幅（おおはば）な改革（かいかく）が始まったんだって。

聖騎士とワルキューレはまず、各地（かくち）にいた者たちをすべて城壁（じょうへき）の中に押し込めて、真四角の住居（じゅうきょ）に住まわせた。

そして、愚者の大地の住民たちはみんな同じ灰色（はいいろ）の服（ふく）を着せられ、朝から晩（ばん）まで働（はたら）かされた。

もちろん休みなんてない。

今この大陸（たいりく）の地面（じめん）を埋（う）め尽（つ）くしている石畳（いしだたみ）の道や街を囲（かこ）っている城壁も、全部住民たちに造（つく）らせたんだってさ。

食事は配給制（はいきゅうせい）で、さっきぼくらが食べたブロック状の固形物を日に三回もらえるだけで給料（きゅうりょう）はなし。

酷（ひど）い話だね。

ぼくはぜったいにヤダなぁ、そんな生活。

好きなだけ寝ていたいし、誰かに無理矢理なにかやらされるなんて耐（た）えられないよ。

「それから聖騎士とワルキューレは新（あら）たな決まりを作りました」

無法地帯（むほうちたい）だったこの大地に秩序（ちつじょ）を――。

そんな旗印（はたじるし）の元（もと）、聖騎士とワルキューレは女神（めがみ）を崇（あが）めるように住民たちへ強（し）いたみたい。

中には、そんな状況（じょうきょう）を変えようと、反旗（はんき）を翻（ひるが）した住民たちもいたみたいだけど。

でも何故かその企（たくら）みはいつも見つかっちゃって、まだ反抗（はんこう）の種（たね）の根が小さいうちに刈（か）り取られちゃうんだって。

「なんで見つかっちゃうの? 愚者の大地の人たちだってバレないように行動（こうどう）していたわけでしょ?」

ヴァイブレは、コクッと頷（うなづ）いてそのことを説明（せつめい）し始めた。

なんでもどうやっているのかわからないけど、聖騎士やワルキューレにはこの大陸に住む人の行動がすべて筒抜（つつぬ）けみたい。

「じゃあ、ここも危（あぶ）ないんじゃないのか? なんでお前は奴（やつ）らの監視（かんし）の目から逃（のが）れられているんだよ?」

「おそらくこの地下（ちか）までは、奴らの不可解（ふかかい）な力（ちから）も届（とど）かぬのかと思われます」

ソニックが訊（たず）ねると、ヴァイブレが丁寧（ていねい）に頭を下げて返事をした。

「長くなりましたが、以上が私の知っていることのすべてございます。それでは食器（しょっき）のほうを片付（かたづ）けさせていただきますね」

そしてヴァイブレは、ぼくらが食べ終わった食器を持って部屋から出て行った。

出入り口の扉（とびら）から出る間際（まぎわ）に、「ごゆっくり」と言い残して。

ふむふむ。

ようはこの大陸は今まさに、女神に使（つか）える聖騎士と戦乙女に支配（しはい）されているわけだね。

でも、たしかビクニが愚者の大地に来た理由（りゆう）って――。

「その聖騎士の少女って……私が捜（さが）してる子……リンリかも……」

やっぱりそうか。

そりゃそうだよね。

聖騎士は女神の加護（かご）を受けた者にしかなれないし、ぼくが最後（さいご）に聖騎士を見たのはもう何百年も昔（むかし）のことだもん。

だからたぶんだけど、この時代に聖騎士はビクニの幼（おさな）なじみだけのはずだ。

でも、なんで愚者の大地を制圧したんだろう?

ビクニの話では、たしかに世界は平和（へいわ）になったみたいだけど。

ヴァイブレの話を聞く限り、この大陸はまるで地獄（じごく）そのものだ。

ビクニの幼なじみの目的（もくてき）は一体なんなんだろう?

「それよりも今は……さあソニック! 次はあなたのことを聞かせて!」

呟（つぶや）くように言葉を発（はっ）していたビクニは、突然ソニックに向かって大声をあげた。

ソニックは無表情（むひょうじょう）のまま、ただ彼女のことを見つめ返した。