第百話 噂と自分とのギャップ

そう言ったルバートは、何故俺たちに宮殿きゅうでんでの会議かいぎ出席しゅっせきしてほしいのかを話し始めた。


まずみなとあらわれたクラーケンを誰よりも早く何とかしようとした者たちとして――。


そして、そのときに感じたこの国のことを是非ぜひ貴族きぞくたちの前で話してもらいたいと言うのだ。


それを聞いた俺は、正直しょうじきそんなことをしても意味いみがないと思った。


どこのうまほねとも知れない俺たちが会議に出ても、貴族がこちらの話をまともに聞くとは思えない。


「で、でもいくらクラーケンを止めようとしたからって、私なんかが何か言っても……」


先ほど、食べてもいいとも言われていないのに出された菓子がし頬張ほおばっていた人物じんぶつとは、まるで別人べつじんのように弱々よわよわしく返事へんじをするビクニ。


まあ、そうなるよな。


この女は元々もともと人前に出るのが苦手にがてやつなのだから。


意味があるかないかよりも、ビクニにとっては大勢おおぜいの者の前で何か話をするほうが 難易度なんいどが高く、まずそのことを考えるよな。


だが、ルバートは意外いがいにもしつこく食い下がった。


「君がラヴィからあずかった手紙にるしてあったよ」


ルバートは手紙を読んだからこそ、俺たちに会議に出てもらいたいと思ったようだ。


ラヴィの手紙には、ビクニとこいつのおさななじみのことも記るしてあり、かの大賢者だいけんじゃメルヘン·グースが召喚しょうかんした聖騎士せいきし暗黒騎士あんこくきしであることも書いてあったそうだ。


そして、ビクニとその幼なじみ二人のうわさは、この海の国マリン·クルーシブルにもとどいているという。


それと、あれだけ手の付けられなかった魔物まものたちがりをひそめ、世界が平和へいわになったのは聖騎士と大賢者のおかげであることは、この国に住む者でも知っているようだった。


「そして、何故か今また魔物たちが動き始めた。そこでライト王国からもう一人の救世主きゅうせいしゅ――暗黒騎士の少女がおとも吸血鬼きゅうけつきの少年と幻獣げんじゅうバグをたびに出たことも知れわたっているんだ」


なるほど。


それならルバートの目論見もくろみにも納得なっとくできる(俺のことをお供あつかいしていることは気に食わないが)。


おそらく、男女だんじょ種族しゅぞくも、そしてつみおかした者にさえも差別さべつのない国として有名ゆうめいなライト王国から来たビクニに、この国にたいして忌憚きたんのない意見いけんを言わせ、貴族たちの意識いしきを変えたいのだろう。


ましてやビクニは救世主として知られている。


そんな人物じんぶつがこの国の内戦問題ないせんもんだい――。


中心街ちゅうしんがいの人間たちと旧市街きゅうしがい亜人あじんたちのいざこざに何か言えば、たしかに変えられないまでも影響えいきょうはありそうだ。


「で、でも……私なんかじゃ……」


ウジウジとつぶやくように言うビクニ。


噂になっている人物と自分との差異さい戸惑とまどっているのだろう。


たしかに、こいつは騎士としては半人前はんにんまえもいいところだ。


性格せいかくもけして自分から自信じしんを持てるタイプではないし、会議に出て意見を言うのは、ビクニとって少々しょうしょうおもい。


だが、ここでやらないと愚者の大地へは行けない……。


「さっきからなに言ってんだか。お前はこれまでスライムやゴーレム。さらには精霊せいれいノーミードや精霊ノームを相手にして、武道家ぶどうかさとすくってきただろう?」


「ソニック……」


「それだけでも十分じゅうぶん立派りっぱ英雄えいゆうだろうが。リム·チャイグリッシュだってきっとそう言うぞ」


「だ、だけどさ……」


「いいからお前はこの国で見たことをそのまま話せばいい。それでうまくいかないときは俺がなんとかしてやる」


俺はビクニをはげますつもりはなかったが、こうでも言わないとこいつはやらないだろう。


やれやれ、まったくもって面倒めんどうくさい暗黒騎士さまだよ。


その後、俺に続いてググもビクニを激励げきれいするかのように大きくいた。


最初さいしょの言い方がおかしかったね。これは相談そうだんではなく私からのおねがいだ。たのむよビクニ」


ルバートは椅子いすから立ち上がるとビクニの前にひれした。


まさか貴族の男が子供相手ににここまでするとはな。


その態度たいどはこの男がプライドよりなによりも、本当に国のことを考えているのだと思わせた。


それでもビクニはやはり戸惑とまどってはいたが、小さく笑みをかべてコクリとうなづく。


「私なんかでよかったら……」


そして、自信なさそうに小声で答え、ググが続いてよろこびの鳴き声をあげた。

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