第七十二話 嬉しくて、情けなくて

気味きみの悪い笑みから一転いってんして表情ひょうじょうゆがめたノーミードは、たおれている私とリムに近づいてくる。


こんな小さなやつに何が出きるのかと思いたいところだけれど。


ノーミードは大地だいち精霊せいれい


それに、リムの体がえられなくなるほどの魔力まりょくあたえることができるちからを持っている。


そんな奴を相手に今の私たちじゃどうしようもない。


このままじゃ私たち……ころされちゃう……。


そうやって私がおびえていると――。


大丈夫だいじょうぶなのですよ。ビクニはリムがまもります」


倒れている私にすがりついて泣いていたリムが、そう言って立ち上がった。


だけど、リムの全身ぜんしんこわいくらいきずだらけで、とても戦えるようには見えない。


あんなにながしたら――。


今すぐにでも治療ちりょうしないといのち危険きけんがある。


「リム……無茶むちゃだよ。そんな体じゃ……」


私はなんとか言葉をはっして彼女を止めた。


でも、それでも彼女はり返って――。


「ビクニはリムのために命をけてくれました。ならば、それにむくわねば、あなたと顔を合わす資格しかくがなくなってしまいます」


満面まんめんの笑みを見せてくれた。


「ご安心を。リムは魔法まほうを使うことのできる武道家ぶどうかですよ。そして、まだ英雄えいゆう目指めざしているたび途中とちゅうなのです。ですから、こんなところで死ぬわけにはいかない……。そう……でしょう? ……そう言ってくれたのは誰でもない……ビクニなのですよ」


そこには、私の知っているリムの笑顔があった。


私はなみだが止まらなかった。


こんなときにと思ったけれど、うれしくて涙腺るいせんゆるんでしまう。


せっかくリムをノーミードの呪縛じゅばくから解放かいほうしたんだよ。


私もリムも生きのこらなきゃうそだよ。


リム一人に戦わせるわけにはいかない。


だけど、体がもう言うことを聞かない。


立ち上がることもできない。


嬉しくて泣いていた私は、今度はくやしくて泣き始めていた。


私は女神めがみ様から暗黒騎士あんこくきしえらばれたというのに、どうしてこんなによわいの……。


どうしてリンリとちがって力がないの……。


こんなときに動けないなんて、一体なんのための騎士なのよッ!?


でも、いくら自分の無力むりょくさをのろっても、動けないという状況じょうきょうは何も変わるはずもなく――。


私は泣きながらノーミードと向き合ったリムの背中せなかを見ていることしかできなかった。


「なに? そんな体でアタシとやろうっての? いくら呪縛がけたからってあんまり調子ちょうしるなよ」


「ええ。あなたの言うとおりなのです。リムは調子に乗って大変なことをしてしまいました……。その決着けっちゃくをつけます」


「そんなボロボロで何ができんだよ。てりゃらくに殺してやったのにさ」


嘲笑あざわらうかのようなノーミードの口調くちょうだったけれど。


その顔を見るにとてもあたまにきていそうだった。


リムはプルプルとふるえている手足をゆっくりと動かし、身構みがまえる。


そして、しずかに深呼吸しんこきゅうをすると、彼女の合わせている両手りょうててのひら波動オーラあつまり始めていた。


だけど、その波動オーラは私に放ったときよりも小さくたよりないものだった。


それは、やはり彼女の体がもう限界げんかいなのだと言うことを私にあらためて思わせた。


そんなリムを見た私は、彼女に無理むりをしてほしくない気持ちと、なにもできない自分へのなさけなさでこころくされる。


そんな私とは反対はんたい――。


ノーミードは、小さな波動オーラしか出すことのできないリムを見て笑っていた。


上機嫌じょうきげんに、ご機嫌に、おまけにステップまでみ始めている。


「さて、こわれたオモチャの始末しまつはちゃんとつけないとね~」

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