第五十三話 デザートは杏仁豆腐

その後――。


お茶を飲み終えた私たちは部屋へともどった。


私は、明日の朝には出発しゅっぱつするつもりだったので、もうねむろうと思っていると――。


「あれ? どうしたの?」


ソニックは何故かまどを開けて、外へと出ていこうとしている。


こんなことが前にもあったような気がするけれど。


吸血鬼族きゅうけつきぞくってやっぱり夜のお散歩さんぽが好きなのかな?


コウモリは夜の眷属けんぞくだっていうし――。


本当は夜行性やこうせいなのに、私たちに合わせて無理しているのかも。


「ねえ、どこへ行くの? お散歩?」


私がソニックの背中せなかに向かってたずねると、彼はり向くことなく返事をした。


「ちょっと気になることがある。お前とググは先にてろ」


そう言ったソニックは、そのままつばさを広げて夜のやみへと消えていった。


ソニックの言った気になることってなんだろう?


あいつってば、いつも説明せつめいりないんだよな。


いくら私がさっすることのできる女でも限度げんどかあるよ。


そんなことを考えていると、ググがベッドに横たわり、大きくあくびをかいていた。


きっと、久しぶりにおなかいっぱい食べたから眠くなったんだろう。


私も明日のために早めに寝よう。


そして、私がベッドへ横になろうとすると――。


「ビクニ、きていますか?」


部屋の引きの向こうからリムの声が聞こえた。


さらに、彼女は私とまだ話していたいのだと、言葉を続ける。


ノックもなく、いきなり声をかけてきたのでちょっとおどろいたけれど。


あの礼儀正れいぎただしいリムがマナーをわすれる何てことはなさそうだから。


きっとこのさとでは、他人の部屋を訪問ほうもんするときに、ノックをするという習慣しゅうかんはないんだろうなと思った。


眠ろうとはしていたけれど。


リムがまだ私と話したいのなら、それもいいかな。


だって、同じくらいの子であれだけ私になついてくれる子って、今までいなかったもんね。


そう思った後――。


やはり私はチョロいのだなと、一人かわいた笑みをかべた。


リンリがこの場にいたら、きっと今の私の顔を見て大笑いているはずだ。


まあ、チョロくてもいいや――。


なんて思える自分が、ちょっと不思議ふしぎな感じだった。


それからリムに部屋に入ってもらうと、彼女はデザートを持ってきてくれていた。


ねむる前に何か食べるのはふとっちゃうけれど。


ここはリムの厚意こうい無駄むだにできないと、私はいデザートをただくことにした。


白い菱形ひしがたのゼリーが、果物くだもの一緒いっしょうつわの中に入っている。


私はこのデザートを知っていた。


「これって、杏仁豆腐あんにんどうふじゃない!」


「なの……です?」


リムが持って来てくれたデザートは、私の世界にあるデザート――杏仁豆腐だった。


だけど、どうやら名前がちがうみたいで、リムはキョトンとくびかしげている。


だけどリムは、すぐにポンっと手を打ちらした。


「ビクニの国ではそうばれているのですね」


どうやら、私の生まれた国にも同じようなデザートがあるのだと解釈かいしゃくしたようで、笑顔で私のぶんの器をわたしてくる。


私は、デザートのことまで説明せつめいする必要はないかと思い、渡された杏仁豆腐を口へとはこんだ。


はじめて食べたけれど、うん、美味おいしい。


私は杏仁豆腐のようなデザートを食べながら、食後に飲んだ白いお茶にあじているなと思った。


それから、私がベットの上であぐらをかき始めると、リムもベットへとこしを下ろす。


そして、リムはすごく真剣しんけん表情ひょうじょうで私のことを見つめ始めた。


「……ビクニには……ゆめってありますか?」

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