イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第四十六話 出会いがお礼

ポイズンアントの群（む）れを撃退（げきたい）した後――。

またアリたちが集（あつ）まって来ないうちに、私たちは急（いそ）いで移動（いどう）することにした。

さすがにそう何度も襲（おそ）われたら、いくらリムが強くても限界（げんかい）ってものがあるよね。

「もう大丈夫そうでよかった」

その場から離（はな）れて安心した私は、すっかり懐（なつ）いたグリズリーの体を優（やさ）しく擦（さす）る。

すると、グリズリーは嬉（うれ）しそうにその大きな体を揺（ゆ）らし、私の顔に自分の顔を擦（こす）りつけてきた。

その可愛（かわい）らしい姿は、とても私たちを食べようとしていた熊（くま）と同じとは思えなかった。

「この子、こんな大人（おとな）しいのに、なんで私たちを襲ってきたんだろう?」

「もしかして、ただお前に引き寄（よ）せられただけだったんじゃないか?」

ソニックにそう言われて、実はこちらの勘違（かんちが）いだったのかもしれないと反省（はんせい）する私だった。

でも、いくら動物に懐かれやすいからって、まさか熊までに好（す）かれると思わないじゃん。

そりゃ、いきなり追いかけられたら誰だって逃げちゃうよ。

それからグリズリーと別（わか）れて、また旅（たび）を再開（さいかい）しよう思っていると――。

「ビクニ、ソニック、ググ。お三方（さんかた）、よろしければ今夜はワタシの屋敷（やしき）で一泊（いっぱく）なさってはいかがでしょう!」

お得意（とくい）の挨拶（あいさつ）――。

右の拳（こぶし）を左手で掴（つか）んで胸（むね）を張（は）るポーズになったリムが、ニッコリと微笑（ほほえ）みながらそう言った。

なんでもリムの住む集落（しゅうらく）がこの近くなんだそうで、私たちはその厚意（こうい）に甘（あま）えさせてもらうことにする。

野宿（のじゅく）しなくていいのならしたくないしね。

よく考えると、ライト王国を出てから一度もお風呂（ふろ）に入っていないし(体はちゃんと濡（ぬ）れタオルで洗（あら）ってる)、ソリテールの村からずっとちゃんとしたベットや布団（ふとん）で眠（ねむ）ってない。

あと食事だって、途中（とちゅう）で出会った冒険者（ぼうけんしゃ）、さらに私と同じくこの世界に転生（てんせい）したリョウタと――。

美人だけどちょっと残念（ざんねん）な女竜騎士（りゅうきし）のレヴィからもらった固（かた）いパンくらい食べてなくて、久（ひさ）しぶりにまともなモノも食べたかった。

「ゴールドはちゃんと払（はら）うから安心してね」

私は王国を出るときに、ライト王から渡（わた）されたこの世界のお金を出そうとした。

あとからソニックに聞いたんだけど、あの優（やさ）しい王様――ライトお爺（じい）さんは、宮殿（きゅうでん）を一つ建（た）てれるくらいの額（がく）のお金を渡してくれてたみたい。

この世界のお金に関（かん）して全（まった）く知識（ちしき）のない私は、そのときに気がつかなかったけど。

いくらなんでもそれは持たせすぎでは?

とか思ったりして……。

でもありがとう、ライト王。

「いえいえ。それは受け取れないのです」

だけど、リムは掌（てのひら）をこちらへと向けて、首（くび）を左右（さゆう）に振（ふ）った。

ポイズンアントの群れから助けてもらっただけではなく、これから彼女の屋敷に泊めてもらうというのに、この子はお金をいらないと言うのか。

ライト王国で散々（さんざん）食っちゃ寝（ね）していた私だけれども。

さすがにそこまで厚（あつ）かましくないよ。

だけど、リムは――。

「本日（ほんじつ）はとても良（よ）き日。ビクニ、ソニック、ググ、お三方（さんかた）に会えたこと。リムにとってそれが何よりのお礼（れい）なのですよ」

そうニッコリと微笑（ほほえ）み、私が出したお金をけして受け取ろうとはしなかった。