イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第四十二話 ポイズンアントの群れ

私たちが駆（か）けつけると、グリズリーはポイズンアントの群（む）れに囲（かこ）まれていた。

グリズリーの体からは血が流れていて、もうすでに数ヶ所（すうかしょ）噛（か）まれているようだった。

毒（どく）に侵（おか）されてしまっているかもしれない。

早く助けてあげなきゃ。

「ビクニ! こいつらは体は固（かた）いが頭を潰（つぶ）せば簡単（かんたん）に倒（たお）せるぞ。頭を狙（ねら）え!」

コウモリの翼（つばさ）で飛んでいたソニックは、私にポイズンアントの弱点（じゃくてん）を叫（さけ）びながら突（つ）っ込んでいく。

そして、空中からグリズリーの周（まわ）りを囲（かこ）っているポイズンアントの頭に、かかと落としを喰（く）らわせた。

サイズ的に大型犬くらいあるアリが、ソニックの一撃でその場に沈（しず）んだ。

「すごいじゃんソニック! 夜じゃないのに!」

私が大声で褒（ほ）めたけど、ソニックは舌打（したう）ち返してきた。

相変（あいか）わらず素直（すなお）になれない奴（やつ）だ。

「いいからお前も手伝え! あと距離（きょり）をとって戦えよ。噛まれたら終わりだからな」

怒鳴（どな）りながらも的確（てきかく）なアドバイスをくれるソニック。

なんだかんだいっても優（やさ）しいんだよな。

いや、私がチョロいだけか……。

「ボサッとするな! さっさと攻撃（こうげき）するか身を守（まも）るかしやがれ!」

はいはい。

そんな大声出さなくても聞こえてるよ。

今さらだけれど。

これまで相手にしてきたのが幻獣（げんじゅう）バグだったり(暴走（ぼうそう）したググ)、人を宝石（ほうせき）にしちゃうような森の精霊（せいれい）だったり――。

あまりにも強敵だったためか、ポイズンアントを見ても全（まった）く怖（こわ）さを感じなかった(見た目は気持ち悪いけど)。

そうだよ。

ライト王国でバハムートが襲ってきたときほど怖いことなんてそうそうないんだ。

私だってやってやる!

暗黒騎士（あんこくきし）の魔剣（まけん）を両手（りょうて）に握（にぎ）り、体の重心（じゅうしん）を意識（いしき）する。

そして、相手の頭を目掛けて振（ふ）り下ろす。

……だったよね、ラヴィ姉（ねえ）……。

「ビクニは手だけで振り過ぎなんすよ」

「でも、剣は手に持ってるじゃん。他（ほか）にどこへ力を入れるのよ?」

「下半身（かはんしん）すよ、下半身。足も腰（こし）もしっかり使わないと、相手を倒せないっすよ」

ライト王国で――。

暴力（ぼうりょく）メイドのラヴィ·コルダストことラヴィ姉に教（おし）えてもらった――。

体重（たいじゅう）をしっかりと乗せて相手を倒す剣の打ち方だ。

――お城のときはからっきしだったけど。

今のレベルアップした私ならこれくらいできる……いや、やって見せる!

「うおぉぉぉッ! お願（ねが）い当たってッ!」

私は叫びながらポイズンアントの頭に剣を振り降ろす。

そして、見事（みごと）に命中（めいちゅう）。

その一撃により、ポイズンアントは私の目の前で崩（くず）れ落ちた。

「やっ……たんだ……」

私がモンスターを倒したんだ。

元世界でも冴（さ）えなくて、この世界でもダメダメだった私が自分の力だけで……。

それはすごい高揚感（こうようかん）だった。

全身が震（ふる）えるくらい嬉（うれ）しかった。

たかだか一匹のアリモンスターを倒したくらいなのに、すごく心がすごくはしゃいでしまう。

「やった! やったよソニック! 私にもやれた!」

私は、自分でも我慢（がまん）できないくらい喜（よろこ）んでいた。

だけど、ポイズンアントは次から次へと現（あらわ）れた。

明らかに私を狙っている感じだ。

「バカッ!? ジッとしてないで下がれビクニ!」

ソニックの声を聞いたときにはもう遅（おそ）かった。

ポイズンアントは、いつの間にか私のことを囲（かこ）んでいた。

何十匹というアリが、その毒を持った牙（きば）で私を狙っている。

油断（ゆだん）していた?

いや、違（ちが）う。

私は忘（わす）れていたんだ。

ここはファンタジーじゃなくて現実（げんじつ）なんだ。

気を抜（ぬ）けば簡単（かんたん）に死んじゃうような世界だったんだ。

このままじゃ私……。

「待ってろビクニ! 今行くッ!」

ソニックが翼を広げて向かって来てくれたけど。

もう間に合いそうにない。

私……ここで死んじゃうの?

お婆（ばあ）ちゃんにも、リンリにも会えないまま。

ここで殺されるの?

そんなのイヤだよッ!

私は再（ふたた）び剣を構（かま）え、目の前の何匹を倒したけど。

それでも全く怯（ひる）まずにポイズンアントの群れは襲い掛かってくる。

「クソッ! 間に合わねえ!?」

ソニックの叫び声が聞こえる。

もうダメだと思いながらも死ぬ覚悟（かくご）なんか決まらず、怖くて両目を瞑（つぶ）ってしまった私だったけど。

何が起きたのか、急に大きな音が鳴った。

そして目を開けると、周（まわ）りを囲（かこ）んでいたアントたちが吹（ふ）き飛ばされていた。

「……ケガはなさそうですね。よかったのです」

女の子の声が聞こえる。

私が声のするほうを見てみると――。

そこにはノースリーブ姿にフードを被（かぶ）った女の子が、ニッコリと微笑（ほほえ）んで立っていた。