イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第一話 聖騎士と暗黒騎士の書

私は今日学校を休んだ。


いや、正確にはサボったといったほうがいい。


それはまちの図書館で、予約していた本を数さつ借りに行くためだ。


そして、何事もなく自宅にたどり着く。


私、雨野比丘尼あめのびくには中学二年生だ。


自他じた共にみとめる引きこもり体質である。


学校はサボりがち、でも成績せいせきはまあまあ。


趣味しゅみといえば読書とひとりでオセロをすること。


私の家は貧乏びんぼうだ。


それは、まだ私が小さかったときに両親が事故じこで死んでしまい、祖母そぼの家で面倒めんどうをみてもらっているのだが、当然、年金暮らしのおばあちゃんに余計よけいなお金はない。


うちにはテレビもなく、当然パソコンもないためネットもできず、世の中の情報じょうほうはすべて新聞で知るような生活だ。


そのことに文句もんくはない。


お婆ちゃんには、私を引き取ってくれただけでも感謝かんしゃしている。


さいわい、いくら貧乏とはいええで苦しむことはないし、どうも私は、流行はやっているもの――世間的に人気があるものが好きになれない性格のようで丁度ちょうどいい。


お婆ちゃんは、私が学校へ行かないことを特に気にしてはいない。


「ビクニはやることはちゃんとやる子だからね」


たとえサボっても悪いことはしない娘だと、全面的に信頼しんらいをされている。


ああ、お婆ちゃん……ありがとう。


自分の部屋に戻ると、八匹の猫が私のベットの上でゴロゴロしていた。


そして、私が帰ってきたことに気がついたのか、さらに三匹の猫が部屋に入ってくる。


私の家――お婆ちゃんと住んでいる家は、近所から猫屋敷ねこやしきと呼ばれている。


別にっているわけではないのだけれど、お婆ちゃんが近所の野良猫のらねこにエサをあたえ続けたため、自然とあつまってきてしまったみたい。


まあ、私は「可愛かわいからいいか、モフモフできるし」くらいにしか思っていない。


ベットでゴロゴロしている猫たちにじって、私も横になる。


そして、さっそく借りてきた本に手をばした。


私の好みは、ほのぼの系のライト文芸ぶんげいで、いつもひとり部屋でほっこりしている。


寝ながら本を読んでいると、集まってきた猫たちが私の体に寄りかかってきた。


まあ、いつものこと。


夏場はあついけど、秋から春の頭までは猫の体温であたたかいのでとても心地いい。


「ビクニ、入るよ~」


ノックもせずに、いきなりドアが開かれた。


そして、扉を開けた人物はいきなり跳躍ちょうやく――。


寝ている私の上にフライングボディアタックを仕掛しかけてくる。


私の周りでゴロゴロしていた猫たちが、危険きけん察知さっちして素早すばやはなれていく。


「今日、学校サボったな!」


今まさに私のことを押しつぶそうと飛んできている人物の名は晴巻倫理はれまきりんり


近所に住んでいる昔からのおさななじみで、私とはちがい誰とでも仲良くなれる典型的な陽キャの女の子だ。


私がこんな陰キャなのに、今まで学校でイジメられなかったのは、すべてリンリのおかげだといってよい。


スクールカーストで上位の子と仲が良いと、自然とあつかいが変わる。


まあ、私はそのカーストに入っているつもりはないけどね。


でも、学校のクラスという階級制度かいきゅうせいど一歩いっぽ足をみ入れたら、けしてのがれることはできないのだろう。


私はリンリの恩恵おんけいがあっても、スクールカーストの底辺ていへんで一緒にグループを組む子すらいない(ちなみにリンリはとなりのクラスだ)。


「ゲフッ!」


「ビクニ、なんで学校来ないんだよ~」


私の上に乗りながら言うリンリ。


学校をサボるといつもこうだ。


私は予約していた本が返却へんきゃくされたことを聞いたので、借りに行ったからだと説明せつめいした。


それを聞いたリンリは、ほほふくらませた。


長い付き合いだけど、顔を見るだけで何を考えているのかがわかる、表情ゆたかなだ。


「そんなの学校が終わってから行けばいいじゃん」


「ずっと返却されなかったから、早く読みたかったんだよ」


「その本ってそんなに面白おもしろいの? ちょっと見せてよ」


そう言うとリンリは、私が図書館から借りてきた本の山に手を伸ばして、その中の一冊を手に取った。


そして、パラパラとページをめくっていく。


「何これ? 何も書いてないよ? 全部真っ白じゃん」


おかしなことを言うと思い、その本をリンリから受け取る。


たしかに何も書いていない。


それは、ずいぶんと年季ねんきの入ったぶ厚い本だった。


作者名も、発行社名も書いていない。


表紙ひょうしには『聖騎士せいきし暗黒騎士あんこくきしの書』とだけ書いてある。


というか、こんな本借りたっけ?


首をかしげている私の顔を見たリンリが、何故か腹をかかえて大爆笑だいばくしょうしている。


「スゴイ、スゴイよビクニ。何も書いてないのに面白いなんて、妄想もうそうもそこまでいくと神のいきだよ! ビクニ本気マジで神ってる!」


ずかしくなった私は、つい、うぐぐとうめいてしまっていた。


「ま、間違まちがえて借りちゃっただけで、そんなに笑うな!」


「いやいや、これだからビクニは面白い」


「うるさい! 大体リンリはいつも勝手に部屋に入ってきて!」


私たちが言い合いをしていると――。


「え、えッ!? ビクニ、本がなんか光ってるよ!?」


「またそうやってバカにして! もう、リンリなんて知らない!」


うそじゃないよ、本を、本を見てみてッ!」


そうリンリが言ったのを最後さいごに、私は意識いしきうしなった。


まさか学校をサボって本を借りに行ったことで、私たち二人が異世界へ行くとは夢にも思っていなかった。

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