第365話 鉄格子
※今回はドリュー、そしてアレク視点で始まります。
「おい! そっちは危険だ!」
「こちらへ! 急いで!」
王都中に激しい鐘の音が鳴り響いている。
街中では家屋が焼け、真っ赤に燃えた炎と共に濛々と黒煙が立ち込める。人々が逃げ惑い、怒号と子供たちの泣き叫ぶ声があちこちから聞こえてくる。
警備兵たちが必死に誘導しているが、いくら結界が張られているとはいえ、この調子では避難所も限界だろう。
「どうなってるんだ、これは……!?」
「リーダー! ドリューさん! 他の地区もヤバいみたいです!」
「冗談だろ……」
屋根の上に上がり周囲を偵察していたミックが叫んだ。ここから見える範囲でも黒煙が上がっているらしい。
気付けば頭上には不気味な雲が広がっている。昼間だと言うのに陽の光は遮断され、まるで日が沈んだ様に辺りは暗闇に包まれ始めていた。
トーマスさんの護衛依頼で滞在中だった王都の街。
本当ならあと二日もすれば王都を発ち、村に帰る予定だった。
ハルトとユウマたちは無事なのか……? トーマスさんとオリビアさんがいるから……。いや、もし二人と逸れていたら……。
愛くるしい笑顔でオレの膝に座るユウマ。嬉しそうに剣と弓の稽古をするハルト。あの子たちに何かあったら……。
そんな事ばかりが頭を過る。
「グルルル……!」
「おいおい……! こんなに出てくるとは聞いてねぇぞ……!」
「埒があきませんね……」
「ダァ──ッ! ぜんっぜん! 減らねぇ──ッ!」
オレたちの目の前には、血に飢えた魔物が溢れている。
だがさすがダンジョンがある街。冒険者ではなくとも腕に覚えがある者は武器を持ち、次々と襲い掛かってくる魔物と戦っていた。
まさかこんな街中で出くわすとはな……。
スタンピード
ダンジョン内に生息する魔物たちの氾濫。
今まで生きてきて一度も目の当たりにした事はないが、冒険者、そして王都の住民なら誰でも知っている。
このけたたましい程に鳴り響く警鐘も、王都にあるダンジョンで異変が起きた場合に鳴らされるものだ。
まさか生きている間にこんな場面に出くわすとは思いもしなかった。冒険者になった時点で覚悟はしていたが、正直どこか遠い国の出来事の様に思い込んでいた。
だが、今回のスタンピードは話で聞いていた物とは程遠い。
「なんで魔法陣から魔物が現れるんだよ……!」
そう。頭の中で理解していたスタンピードとは違い、
倒しても倒しても追いつかない。あの森での魔法陣と同じ類か……? なら、これも裏で操ってる奴がいる……? いや、犯人は消えたと聞いている。頭の中が追い付かない。
「あぁ~……! 最ッ悪の気分だ……!」
「同感です」
バートが次々と矢を射り、オレたちの援護に回る。リーダーのメルヴィルは魔物たちの体を叩き切り、ミックは……。
魔物をおちょくっているのか、ちょこまかと動き回り、怒り狂いだした魔物の腱をいつの間にかナイフで切り裂き動きを封じ込めていた。
「ミック! 真面目にやれ!」
「えぇ~っ!? 真面目にやってますよ~っ!」
ひどいと拗ねながらも器用に飛び回り、魔物を倒していく。
ハァ……。アイツはやれば出来るのに、どうしてふざけるのか……。これが無事に終わったらまたリーダーと説教だな……。
これも何かの巡り合わせだ。
この場に居合わせた名前も知らない冒険者たちと共に覚悟を決めた。
「お前ら! 一匹残らず仕留めるぞッ!」
オレの言葉にメルヴィルにバート、ミックの三人が大きく頷いた。そして片を付けたらあの子たちを探しに行く!
それまでは絶対に……、いや、這ってでも生き残ってやる!
待ってろよ! ハルト! ユウマ!
会えたら思いっきり抱き締めさせてくれ!
*****
「イッテェ……」
目を開けるとそこは先程までいた地下ではなく、冷たいレンガの上だった。
「アレク、大丈夫か?」
「あぁ、ちょっとぶつけたぐらい。……ここは?」
「さぁ……。だが、ダンジョンの内部に似ている……。見てみろ」
マイルズの示すその先に、微かに見える見覚えのある扉が。
それはダンジョン内に存在する階層のボス部屋だ。
……だが、どこか違和感が拭えない。王都周辺にあるダンジョンは現在、調査の為立ち入り禁止になっている。……そのせいか?
「ブレンダは?」
「分からない。別の場所に飛ばされたのかもしれない……」
ここがオレの知るダンジョン内だとすれば、あのノーマンの屋敷からはかなりの距離がある。それをこんな一瞬で、しかも一方的に。
「アイツ……。次に会ったらブッ飛ばしてやる……」
あの屋敷に現れた白髪の気味の悪い奴。
アレは多分、元のメフィストと同類だ……。
屋敷に残ったトーマスさんとリーダーたちはどうなったんだ……?
それに、あの白骨遺体と壁に飾られた絵画……。
聞き間違いじゃなければ、あの時トーマスさんは「母さん」と呟いた……。
考えれば考える程、頭の中がこんがらがってくる。
「アレク! マイルズ!」
「ブレンダ!」
「無事だったか!」
すると、オレたちがいた場所から然程離れていない距離にブレンダの姿が見えた。だがどうも様子がおかしい。
「これは……」
「おい! 大丈夫か……!?」
駆け寄ると、その先には鉄格子が嵌められ、数人の男たちがぐったりと横たわっていた。
まるで牢屋の様だ。
「何人か意識がない様だな……。ブレンダ、少し離れていろ」
「あぁ。だが、この格子はビクとも……」
「フンッ!」
マイルズが鉄格子をぐにゃりといとも簡単に広げてしまう。ブレンダは口を開けポカンとしていたが、オレたちパーティにしてみれば当たり前の事すぎて、マイルズが怪力だった事が頭から抜け落ちていた。
そう言えばパーティを組んだ頃も驚いたな……。忘れてた……。
「これでいい」
「す、凄いな……」
広がった格子を潜り、横たわっている男たちの下へ。いつからここにいるのかは不明だが、酷い匂いが辺りに充満していた。
「うぅ……」
辛うじて意識のある男の下へ向かい、マイルズが片手を男の額に当て治癒魔法を施し始めた。淡い光が体を纏い、辛そうだった息遣いも少しずつだが落ち着いていくのが分かる。
「やはり凄いな……」
「あぁ」
治癒魔法は滅多に現れないスキルだ。しかもマイルズの治癒レベルは桁違い。このスキルを使えば王宮でも諸手を挙げて雇ってもらえそうなのに、リーダーを慕ってこのパーティにいるらしい。
行った先々で病人と怪我人相手に治癒を掛けるから、マイルズは本人も知らない間に拝まれてるけどな……。
「……あ、あなた方は……?」
治癒を掛けた男が口を開く。
先程よりも血色が良くなっていた。
……だけどこの男、どこかで会った事がある気がする……。
「私たちは冒険者だ。それよりもなぜこんな所に?」
「わ、我々は……」
その次の瞬間、地面がグラグラと大きく揺れ、耳を
そして扉を突き破り、土埃と共に姿を現したのは……。
「ドラゴン……!?」
巨大な体躯をしならせ、三頭のドラゴンがオレたちの目の前に現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。