第345話 三人のお仕事


「それでは、ダレンさんがサンプソンの元の主だと……?」

「はい……」

「そう言う事になるな……」

「ですね……」


 ライアンくんたちも厩舎まで出て来てくれ、事の顛末を聞き驚いていた。まさかこんな偶然があるなんて、僕もトーマスさんも、それにダレンさん本人もビックリだ。


「さんぷそん、よかったです……!」

「ごしゅじんしゃま? みちゅかって、うれちぃねぇ!」

「あ~ぃ!」

《 ありがとう。怖がらせてすまなかったね 》


 心配していたハルトとユウマ、そして触ろうと手を伸ばすメフィストにも優しく鼻先を擦り付け、サンプソンは目を細める。

 お城の敷地内に入ってから落ち着きがなかったのは、居る筈のないダレンさんの魔力を感じたからだという。信じられないのも無理はない。だけど、サンプソンとダレンさんは言葉を交わしている。お互いに主従関係を絶っていなかったのが何よりの証拠だ。

 サンプソンも漸く落ち着いたのか、本来の穏やかな眼差しに戻っていた。


《 お前たちにも迷惑を掛けたな 》

《 全くだ 》

「クルルル!」

「ブルルル……」


 他の馬たちやドラゴン、そしてセバスチャンにも礼を言うと、再会が余程嬉しかったのだろう。ダレンさんの傍にぴったりと寄り添っている。それを見てダレンさんも嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「さんぷそんも、わたしといっしょだね」


 そう言って、レティちゃんはサンプソンとダレンさんの前に。ヴィルヘルムさんとセレスさんもレティちゃんに寄り添い、穏やかな笑みを浮かべている。


《 あぁ、大事な人に会えた 》

「きょうは、わたしたち、だね!」

《 本当だな 》


 サンプソンの鼻先を優しく撫で、レティちゃんはとても嬉しそうにダレンさんに抱き着いた。ダレンさんもレティちゃんの髪を優しく撫で……ようとしたその時、ハッと何かに気付いた様に突然跪き頭を下げた。


「も、申し訳ありません……っ! 殿下の御前で勝手な真似を……!」


「「……ぁ」」


 ライアンくんのいる前で勝手に行動し、王宮内を全力疾走……。

 これは僕とトーマスさんも同じ事だ。思わず間抜けな声が漏れてしまう。


「皆さん、すみません……!」

「申し訳ない……!」


 慌てて僕とトーマスさんも跪き頭を下げると、顔を上げてくださいと言うライアンくんの声。恐る恐る顔を上げると、ライアンくんはきょとんとした顔で首を傾げていた。


「私たちはレティちゃんと、この方たちを再会させる事が目的だったので……。心配は不要ですよ? ね、フレッド? サイラス?」

「はい。魔力が分かるというので内密に……、とはいきませんでしたが」

「まさか、サンプソンもダレンさんの従魔だったとは思わなかったけど……」


 わざととぼけているのか、三人は互いに顔を見合わせて首を傾げだす。


「……それよりも」

「「「?」」」


 フレッドさんの声のトーンが少し変わった。

 僕とトーマスさん、それにダレンさんもフレッドさんを見つめ何事かと首を傾げる。


「先程から皆さん……。この従魔たちとお話されている様に見受けられるのですが……?」


 ダレンさんはサンプソンの主だから会話出来るのは理解出来る。

 セバスチャンも、表向きはトーマスさんの従魔という事になっているから誤魔化せる筈だ。


 ……だけど、僕たちは違う。気が緩んでいたのか、気が動転していたのか。それにトーマスさんも、サンプソンと会話を……。

 フレッドさんの鋭い眼光に、僕とトーマスさんはギクリとしつつ何も言えずにいた。

 するとハァ~、と深い溜息を吐き、フレッドさんはやれやれと肩を竦める。


「まぁ、その事は追々話して頂きましょう。それよりも陛下たちがそろそろ集まる頃かと。ダレンさん、貴方はどうします? サンプソンと話したい事もあるでしょうし……」

「え……? 私ですか……?」

「そうだな。ダレンさんにはいつも健康状態を診てもらっているし、今日は休みでもいいんじゃないか?」

「殿下もこう仰っていますし、本日は休診という事で」

「あ、ありがとうございます……!」


 そんなライアンくんとフレッドさんの会話に、少し気になる事が……。


「休診って……。ダレンさん、テイマーなんじゃ……?」


 皆の健康状態を診るって事は、カーティス先生みたいなお医者さんって事? 僕の頭の中には?がいっぱいだ。


「えぇ、私はテイマーです。それを利用して、本業の合間に動物たちの怪我や病気を治す医者の真似事もしています……」

「おいしゃさん……! すごいです!」

「おけがもなおしゅの? しゅごぃねぇ!」

「いえいえ、凄いのは私の従魔たちです。私はその子たちの声を聞くだけですから……。それに本業は別だったんですよ」


 本業とは別に動物たちのお医者さんもするなんて、そんな凄い人が果たして店に来てくれるのかと少し不安になってしまう。

 もしかして、お二人も……?


「あ、あの……。ヴィルヘルムさんと、セレスさんは……?」


 僕の言葉に、レティちゃんに寄り添っていたお二人が顔を見合わせる。


「随分昔の話ですが、私は子供たちに勉学を教えていました」

「私は歌と楽器、踊りで生計を……」


 恥ずかしいわ、と言って頬を染めるセレスさん。うん、周りの騎士団員さんと厩舎の使用人さんたちがポッと顔を赤らめている……。


「まぁ……! 皆さん凄いのね……」

「「昔の事ですから……」」


 オリビアさんの言葉に、謙遜するヴィルヘルムさんとセレスさん。

 お二人ともそれだけで暮らしていけるんじゃ……? もしかしたら、店には来ないかも……。そんな事が一瞬、頭を過る。


「じゃあ、今後の事も相談したいし……。後でお話を伺ってもいいかしら……?」

「はい」


 オリビアさんに笑顔で頷くヴィルヘルムさんとセレスさん、ダレンさんの三人。


 もし一緒に働けなくても、皆さんの事を何か手伝えるなら……。

 そんな事を考えながら、フレッドさんに促され僕たちは再度、王宮内へと足を進めた。


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