第328話 皆でお揃い


「おみせ、いっぱいです!」

「ひともいっぱぃ!」

「あ~ぃ!」

「クルルル!」


 ユイトを孤児院へ送った後、そのままサンプソンの牽く馬車を走らせ南地区の大通りへと向かう事にした。御者席の後ろから、ハルトとユウマが楽しそうに王都の街を眺めている。


「めふぃくん、おでかけ、たのしいね!」

「あぃ!」

「おもちろぃの、ありゅといぃねぇ!」

「あ~ぃ!」


 二人が楽しそうだからか、メフィストもずっと機嫌がいい。オリビアの腕の中でずっと可愛らしい笑い声を上げている。そのせいか、オリビアの口元が緩みっぱなしだ。まぁ、言わずもがな自分もそうなんだが。


「みちもひろいから、どらごんさん、いっしょにあるけます!」

「クルルル!」


 言葉は分からないが、子供達の声に反応しドラゴンは返事をする様に時折鳴き声を上げている。


「おばぁちゃん、さいしょはどこにいくの?」

「そうねぇ~。皆が元気いっぱいなうちに服を合わせたいわね~。きっとお昼を過ぎたら疲れちゃうだろうし……」


 ハルトとユウマがはしゃぎ疲れて寝るのを見越しての事だろう。昼食を食べた後はきっと眠くなるだろうからなぁ。オリビアの言葉に、レティもユランも笑いながら頷いている。


「なら、最初は服屋に行くか?」

「そうね。その後は……、帰りに例のお店にも寄るのよね?」


 オリビアの言う店とは、ユランの取引相手でもあるあのジェマと名乗る女性の店だ。


「あぁ。多分ユイトが探していた店だと思うから、丁度いいと思ってな」


 そろそろユランに作ると言っていた物も出来上がる頃だろう。


「ユイトくんの探してるお店なら、私も店主さんにお礼を伝えたいわ」

「オレも指輪の礼をしないとな」

「え? オリビアさんとトーマスさんが?」


 オレの隣に座るユランは、オリビアとオレの言葉に首を傾げている。


「えぇ。私が着けてるネックレスとトーマスの指輪。ユイトくん達が贈ってくれた大切な物なんだけど、それがその店主さんがいるお店で作った物かもしれないの」

「え!? そうなんですか……!?」

「ふふ! もしかしたらね? だから、会って確認しようと思って」

「そうだったんですか……。凄い偶然ですね……」

「本当にな」


 まさか森で出会ったユランと、オレ達の大切な宝物を作ってくれた人物がこうやって繋がっているとはな……。

 人生、何が起こるか分からないものだ。


「ユイトくんのお迎えの時間まで結構あるし、皆でのんびり観光しましょ」

「そうだな。さぁ、そろそろ着くからな。降りたら皆、ちゃんと手を繋いでおくんだぞ?」

「「「はぁ~い!」」」

「あ~ぃ!」

「クルルル!」


 何故かドラゴンも子供たちと一緒に元気に返事をする。その様子に、皆自然と笑顔になってしまう。


「ドラゴンちゃんはユランくんの傍を離れちゃダメよ~?」

「クルルル!」

「いいお返事ね!」


 ドラゴンも幌の隙間から顔を出し、ハルトたちと一緒に街の様子を眺めている。道行く人がそれを見て驚くさまは、ここに来るまで何度も目にした光景だ。

 ……いや、それ以前にサンプソンの大きさと幌の上にいるセバスチャンのせいか注目の的だな。

 そして馬車を停留させる為、徐々に速度を落としていく。


「サンプソン、ここで少し待っていてくれるか?」

《 あぁ、問題ない 》


 目的の店の前に馬車を停めサンプソンに声を掛けると、こちらに振り向きひらりと尻尾を振る。


「トーマスさん、ボクが残るので大丈夫ですよ」


 すると、ハルト達の手を取り馬車から降ろす手助けをしていたユランが口を開く。きっと気を遣ってくれたんだろう。……だが。


「あら、それは出来ないのよ~」

「え?」

「ユランの服も買わないといけないからな」

「え!?」


 元々来ていた服がボロボロになっていた為、ユランにはずっとユイトの服を着てもらっている。ユイトも快諾していたが、やはり服を借りるのは気を遣うだろうからな。


「今もお世話になってるのに、服まで買ってもらうなんて……!」

「あら、いつもトーマスの手伝いをしてくれてるじゃない。それにハルトちゃん達の面倒も見てもらってるし、サンプソンと他の達の毛並みもキレイにブラッシングしてくれてるでしょ?」


 その言葉に、サンプソンも丁寧で気持ち良いと呟いている。まぁ、ユランには聞こえてはいないんだがな。ユイトも年の近い話し相手が出来て楽しそうだし。


「でも……」

「手伝ってる分の報酬だと思えばいいんじゃないか?」

「そうね。それに帰る時も替えの服は必要でしょ? そんなに気にする事じゃないわよ」


 そう言われても尚、ユランは困った様に眉を下げている。


「あ、それなら! この後のお買い物、たくさん買う予定だからユランくんに荷物運ぶの手伝ってもらっちゃおうかしら!」

「……! 何でもします! ……ありがとう、ございます……」

「ふふ! 覚悟しておいてね~?」

「はい!」


 オリビアにそう言われ、漸く納得してくれた様だ。レティも隣で心配そうに様子を見守っていたが、解決した様でホッと胸を撫で下ろしている。


「それじゃあ行ってくる。何かあったらすぐに教えてくれよ?」


 目の前にある店だが、万が一の事もあるしな。


《 その時はセバスチャンが飛んでいくだろう 》

《 ……仕方ない 》

「クルルル!」


 幌の上を見ると、セバスチャンが片目を開けてこちらを見下ろしていた。うむ、大丈夫そうだな。


《 お前もちゃんと大人しくしておくんだよ? 》

《 尻尾を振り過ぎない様に。後でユランが叱られる 》

「クルルル!」


 ドラゴンもサンプソンとセバスチャンの言う事は理解している様で、わかった! とでも言う様に機嫌よく返事をしている。

 オレ達の傍を歩いている通行人にはジロジロと見られているが、あまり気にしていない様だ。レティにおいでと言われ、嬉しそうに擦り寄っていく。本当に人懐っこい子だ。


「あ、そうだわ! ドラゴンちゃんとユランくんのお揃いの物も買いましょ!」

「え!?」

「あら、従魔の証を着けてた方が安心でしょ?」

「おばぁちゃん、いいかんがえ!」

「そうよね~?」

「レティちゃんまで……」


 何がいいかしら~? と相談し合うオリビアとレティに、ユランは何も言えなくなった様だ。ウチの女性陣は強いからなぁ……。

 ユランに少しだけ同情しながら、目的の店へと足を進めた。






*****


 店に入ると、オリビアは先にユウマとメフィストの服を探しに行った。ユランとレティもそれについて行く。ドラゴンも言われた通り大人しくしている様だ。

 あまり大勢で行くのも邪魔だろうと、オレはハルトと二人で小物が置いてある店の一角へ。あまり馴染みはないが、服に着けるブローチが並べられていた。


「あ! おじぃちゃん、みて……!」

「ん? 何か見つけたかい?」


 そこで暫く商品を眺めていると、ハルトがクンと繋いだ手を引っ張る。

 指差す方を見ると、そこには子供用なのか可愛らしいブローチが。他にもチェリーやフレッサのブローチが並び、女性が好みそうな可愛らしいデザインの物ばかりだ。


「これ、れてぃちゃんに、にあいそうです……!」


 その中でもハルトが食い入る様に見つめているこの淡い黄赤の果実のブローチ。店員に訊くと、これはアプリコットをイメージして作られているという。

 柔らかい色合いで、レティにピッタリだ。


「本当だな。プレゼントしようか?」

「ぷれぜんと、よろこんでくれる?」

「あぁ、きっと喜ぶぞ」

「……ぼく、これ、かいたいです! でも、おかね、たりますか?」


 そう言って、ハルトは自分用の小さな財布を取り出した。中身は店の手伝いで貰った小遣いが。値段を確認すると、少しばかり足りない……。


「ハルト、おじいちゃんと半分ずつ出そうか」

「おじぃちゃんも、ですか?」

「あぁ、おじいちゃんも一緒にレティにプレゼントしたいんだ……。ダメかな?」

「だめじゃ、ないです! でも、いいの?」

「レティの喜んだ顔が見たいからな」


 そう言うと安心したのか、アプリコットのブローチを大事そうにそっと手に取り、オリビアと一緒にいるレティに気付かれない様に店員の元へ。丁度ドラゴンの影になって死角になっているな。

 店員もオレ達のやり取りを見て分かっていた様で、手早く包んでくれる。


「……かっちゃいました!」

「あぁ、きっと喜んでくれるぞ」

「うん!」


 満足そうに微笑み、ハルトはそれを大事そうに肩掛け鞄の中へと仕舞い込んだ。

 ハルトの思いやりに胸に込み上げるものが……。

 いかんいかん、まだ一軒目だぞ。これではオレの方がもたないな……。


「トーマスさん、次ハルトくんの……、って。何で涙ぐんでるんですか……」

「あ、い、いや! これはな……!」


 ユランが呼びに来てくれたが、オレの顔を見て首を傾げている。慌てて手で目元を擦るが、ユランは気にするでもなくハルトの手を取った。


「まぁ、大体想像は付きますけど……。ハルトくん、オリビアさんが呼んでるよ」

「つぎ、ぼくのですか?」

「うん。ユウマくんとメフィストくんとお揃いのパジャマがあったから、早く合わせに行こう?」

「おそろい? うれしいです!」


 ハルトは嬉しそうに声を上げると、オレの方に振り返る。


「ぼく、おじぃちゃんと、おそろいほしいです!」

「お、おじいちゃんとか……?」

「うん!」


 は、ハルトとお揃いの服……? 思わぬ言葉に困惑していると、肩を震わせ笑いを堪えているユランの顔が目に入る。


「……そうだな! どうせならユランもお揃いにしよう!」

「えぇ!? ボクもですか!?」

「ゆらんくんも、おそろいですか? ぼく、うれしいです!」

「う……! そ、そうだね……!」


 オレの言葉に目を丸くしていたが、ハルトの嬉しそうな視線には敵わなかった様だ。


「ぼく、みんなでおそろい! たのしみです!」


 ぱあっと音が聞こえてきそうなくらい笑顔のハルトに、オレもユランもお揃いは恥ずかしいとは口が裂けても言えなかった。


 その後、オリビアとレティ、ユイトの分のお揃いも確保し、ハルトとユウマは飛び跳ねて喜んでいた。

 今夜から皆、お揃いの服で就寝する事になりそうだ。


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